日本犬(にほんけん[1][2]、にほんいぬ[3])は、古くから日本に住んでいる犬の総称である。
特徴
- 温暖湿潤気候に適応しており、寒さにも暑さにも強い。ただし、北海道犬、秋田犬には高温への耐性が弱い個体も多い。
- 狩猟犬として山野を駆け回り、人間と協力して野生鳥獣の狩猟およびそれに伴う諸作業に従事してきた犬たちであり、高い身体能力を誇る。
- 素朴・忠実・勇敢といった性質が日本犬らしいとされ、日本犬が国内外の愛好者たちに愛されてきた理由も、そのような特質に負うところが大きい。
- 体、肢、吻は、がっしりとしている。日本犬の体型は、数千年前の犬の姿とほとんど変わっておらず、犬そのものの原型を色濃く残していると言われる。
- ピンとした三角の立ち耳、吻のとがったくさび形の頭部、クルリと巻いた巻き尾(または前方にのびて腰の上にかぶさる差し尾)などを特徴とする。
- 主人には非常に忠実だが、よそ者には警戒心をみせてなれなれしくしないため番犬に最適である。ただし個体差があり、特に柴犬には愛玩犬向きの人懐っこい犬も少なくない。
- ヨーロッパの犬種ほど強い選択交配を受けていないため、外形・被毛の質などオオカミからそれほど遠ざかっていない。例えばほとんどの犬種のたいていの個体はトップコートの個々の毛に根本から毛先まで白から黒までのグラデーションがある。
日本犬の種類
国の天然記念物に指定されている日本犬種
日本犬という言葉が使われるときは、1934年(昭和9年)に日本犬保存会によって定められた基準である「日本犬標準」に名前の挙げられている6つの在来犬種を特に指すことが多い。6犬種は大型・中型・小型の3つの型に分類される[4]。1931年(昭和6年)から1937年(昭和12年)にかけて、各犬種が順次、文部省によって天然記念物に指定されたが、太平洋戦争後、その管理は都道府県教育委員会に委ねられた。
特定の地域のみに以前から生息する犬を「地犬(じいぬ)」と言うが、天然記念物に指定された7犬種のほかにも、かつては各地に数多くの地犬が存在した。
県の天然記念物に指定されている日本犬種
- 川上犬(長野県)は、信州系の柴犬である信州柴の1種だが、国の天然記念物に指定されている柴犬とは別に、1983年(昭和58年)に長野県の天然記念物に指定されており、地元で独自に保存活動が続けられている。
- 琉球犬(沖縄県)は、縄文時代以来の古い犬の形質を残すとされており、1995年(平成7年)に沖縄県の天然記念物に指定されている。
その他の現存している日本犬種
- 岩手犬(岩手県)は、純血種の個体の存在が確認されているが、すでに保存は難しいとされる。
- 十石犬(群馬県・長野県)については、戻し交配による再作出の試みがなされている。
- 梓山犬(長野県)は、頭数増加と固定化の努力がなされている。
- 美濃柴犬(美濃犬、飛騨柴とも。岐阜県)は頭数回復、固定化の努力が続けられている。
- 三河犬(愛知県)は、個体数が著しく少なく、絶滅寸前とされている。
- 山陰柴犬(鳥取県・島根県)は美濃柴犬同様に頭数回復、固定化の努力が続けられている。
- 海部犬(徳島県)は、徳島市の猟師に飼われている。
- 羽根犬(高知県)も、純血種の個体は絶え、現在は羽根系と呼ばれる改良種が流通している。
- 肥後狼犬(熊本県)にも保存会があるが、会員の高齢化という問題に悩まされている。
- 日向奥古新田犬(宮崎県)は、多くが雑種化して、純血種は少ない。
- 屋久島犬(鹿児島県)は、すでに純血種の個体は存在せず、純血種に近い犬も存在するが、他犬種を掛け合わせたものも「屋久島犬」として販売されているという。
- 大東犬(沖縄県)は、南大東島で確認された純血種の個体はいずれもオスであったが、島外で純血種の繁殖が行われている[13]。
絶滅した日本犬種
これらの中にも、雑種化した犬の戻し交配による再作出・固定化という道が残されているものが存在するかもしれない。
広義の「日本犬」
広義の「日本犬」には、外来の犬種を元にしたり交配したりして作られた日本原産の犬種も含まれる。
これら広義の日本犬と区別して、純粋な日本犬を、特に「和犬」と呼ぶこともある。
保存小史
明治から昭和初期にかけて、洋犬の移入や交通の発展によって雑化の進んだ時期は、日本犬絶滅の危機であった。明治以来、舶来万能の風潮によって、輸入された洋犬による日本犬の雑種化が、全国で意図的に行われた。そのため、大正末期までには、純粋な日本犬は、特に都市部ではほとんど姿を消してしまった。
当時内務省にあった史跡名勝天然記念物保存協会とともに、この現状に危機感を抱いた斎藤弘吉は、日本犬の復興を呼びかけ、1928年(昭和3年)6月に日本犬保存会を創立して、保存運動を展開した。1931年(昭和6年)から1937年(昭和12年)にかけての天然記念物指定が、この運動の追い風となった(国粋的な物を尊ぶ当時の時流がもう一つの追い風となったが、保存されたのは猟犬だけだった)。
また、物資の不足から犬の撲殺・毛皮の供出が求められた太平洋戦争末期は、日本犬にとって第2の受難の時期であったが、有志の情熱と努力によって、日本犬の血は絶えることなく継承された。
飼育数
日本で1年間に血統登録される50万頭超の純粋犬のうち、日本犬の占める割合は10 %強で、5万5000頭ほどである。6犬種の中では、柴犬の飼育頭数が圧倒的に多く、日本犬中の約80 %を占めると言われる。紀州犬と四国犬がこれに次ぐ。
脚注
参考文献
関連項目
外部リンク