一寸法師(いっすんぼうし)は、日本の伽話の一つ。現在伝わっている話は御伽草子に掲載されたものが元となっている。
現在一般に知られている一寸法師のあらすじは、以下のようなものである。
子供のない老夫婦が子供を恵んでくださるよう住吉の神に祈ると、老婆に子供ができた。しかし、産まれた子供は身長が一寸(現代のメートル法で3cm)しかなく、何年たっても大きくなることはなかった。子供は一寸法師と名づけられた。
ある日、一寸法師は武士になるために京へ行きたいと言い、(実はおじいさんとおばあさんの話を聞いてしまったという説もある)お椀を船に、箸を櫂(かい)にし、針を刀の代わりに、麦藁を鞘(さや)の代わりに持って旅に出た[1]。京で大きな立派な屋敷を見つけ、そこで働かせてもらうことにした。その家の娘と宮参りの旅をしている時、(一寸法師の米を姫の口につけるという策略で姫が追い出されたという説もある)鬼が娘をさらいに来た。(ある不気味な島についたという説もある。)一寸法師が娘を守ろうとすると、鬼は一寸法師を飲み込んだ。一寸法師は鬼の腹の中を針で刺すと、鬼は痛いから止めてくれと降参し、一寸法師を吐き出すと山へ逃げてしまった。(一寸法師が口に入れられ、口をふさいでいても目から出てきてしまい、参ったという説もある。)
一寸法師は、鬼が落としていった打出の小槌を振って自分の体を大きくし、身長は六尺(メートル法で182cm)になり、娘と結婚した。御飯と、金銀財宝も打ち出して、末代まで栄えたという。(生まれた子供は3人という説もある。)
しかし御伽草子に掲載されたものは、よく知られている話とは少し異なっている。
現在伝わっている話がいつ成立したかは未詳であるが、室町時代後期までには成立していたものとされる。「小さな子」のモチーフは、日本においては日本神話のスクナヒコナ(スク=少・ナ=大地・ヒコ=男神・ナ=接尾辞)がその源流と考えられる。
スクナヒコナは「日本霊異記」の道場法師、五條天神を媒介にした中世の『小男の草子』、近世の『御伽草子』の一寸法師にまでつながっていく。
国土造成神スクナヒコナが水辺に出現したように昔話の「小さ子」の主人公も何らかの形で水界と関わっており、水神にまつわる基層信仰の存在が指摘されている。年老いて子がない事自体共同体の中では異端であり、その異端者が神に祈願して脛から生まれたりタニシの姿(田螺長者)で生まれたりする異常な出生は英雄や神の子を語るときの常でもある[2]。
御伽草子の一寸法師が有名になったことで、各地に伝わる小さな人が出てくる民話や伝承も「一寸法師」と呼ばれるようになった。
江戸時代には、「一寸法師」の名は背の低い人間に対する差別用語としても用いられ、妖怪をテーマとした『狂歌百鬼夜狂』『狂歌百物語』などの狂歌本では、一寸法師が妖怪の一種として詠まれている[3]。
なお一寸法師が住んでいた津の國難波の里とは現在の三津寺(ミッテラ)から難波付近と言われている。また御伽草子には「すみなれし難波の浦をたちいでて都へいそぐわが心かな」とあるため、椀に乗って京に向って出発した難波の浦は、現在の道頓堀川だと言い伝えられている[4]。
大国主命(オホナムチ・大大地尊、オホ=大、ナ=大地、ムチ=尊い方)がスクナヒコナの助力により国づくりをしたように小人は巨人とペアになって英雄の属性たる力と知恵をそれぞれ分け持つことが多い[2]。
巨人が知恵の欠落により鬼や笑われ者へと転落するのに対し、小人は悪知恵を働かせて最後は成人の姿になりめでたく家に帰還する。社会層にとっては力よりも現実的な困難をするりとかわして行く狡知のほうが求められたのだろう。小童だからこそ悪質ないたずらも許される[2]。
昔話の狡猾者譚『俵薬師』には英雄にあるべき正義のかけらもないような狡猾な悪者としての主人公のわらしが登場し、主人の金持ちを徹底的にやっつけ殺すその手口は一寸法師に似ているものの悪質である。わらしは次々と嘘をついて主人を騙し、ついには堤に突き落とし殺し、おかみさんと無理やり夫婦になってしまう。「嫌がるおかみ様と無理やり夫婦になったどさ。どっとはらい。」と語り収めるその語り口はどこかユーモラスでありパロディとブラックユーモアに満ち満ちている[2]。
嘘と虐殺によって富と女を手にする俵薬師の少年は知恵によって鬼の宝と女を手にする一寸法師の裏の姿であり「小さ子」神の末裔に他ならない[2]。
俵薬師の少年の残虐性は罪もない異人に向けられている。ただ通りかかっただけの座頭・眼病病みの乞食といった弱者でさえ騙し身代わりとして殺してしまう。
ここに異人達を撲殺し代償として成り立つ村の暗い一面が照らし出されている。悪質な知恵の働きを笑いとユーモアの中に語るところに、知恵の破壊的な超秩序な側面が示されるとともに、村の共同体の複雑さがある。知恵は正義や潔さを無意味化し権力の維持にとって重要な安定した秩序を笑い飛ばす危険なパワーをはらみもつのだという。スクナヒコナが国土創造神であり実は薬作り酒造りなどの化学技術の創造神であったのも「知恵」が単純に文化秩序を象徴するわけではないことを物語っている、と共立女子短期大学講師・猪股ときわは分析する[2]。
「小さ子」が活躍する話としては全国に分布し一寸法師、すねこたんぱこ、あくと太郎(あくとは踵)、豆助(親指)、指太郎(生まれた場所を表す名)、豆一、五分太郎(次郎)(小さいことを表す名)、三文丈、一寸小太郎、タニシ、カタツムリ、かえる、アイヌのコロポックルカムイ、キジムナー、ケンムンなど、誕生の際異常に小さい点では桃太郎、瓜子姫、かぐや姫も類縁関係である。鬼退治・結婚の策略・呪具の要素をめぐってバリエーションが多い。脛指からの誕生や小動物の誕生から策略による結婚への展開は古く、御伽草子の一寸法師形よりは新しい。中国・四国地方に昔話の流行の跡を残す[2]。
小説
漫画
映画
TVアニメまんが日本昔ばなしにおける一寸法師
ゲーム
テレビ
ウィキメディア・コモンズには、一寸法師に関するカテゴリがあります。