ホモ・フローレシエンシス (フローレス人)
ホモ・フローレシエンシスの頭骨
分類
学名
Homo floresiensis P. Brown et al ., 2004
インドネシアのホモ・フローレシエンシス、赤色の部分
ホモ・フローレシエンシス (フローレス人 Homo floresiensis )は、インドネシア のフローレス島 で発見された、小型のヒト属 と広く考えられている絶滅種。[1] [2] 身長は1mあまりで、それに比例して脳 も小さいが、火 や精巧な石器 を使っていたと考えられる。そのサイズからホビット (トールキン の作品中の小人)という愛称が付けられている[3] 。新種説に対しては、反論もある[4] 。このヒト属は、当初は12,000年前まで生存していたと考えられていたが、より幅広い研究の結果、最も近年の生存証明は、50,000年前まで押し上げられた。[5] 2016年現在では、フローレス人の骨は10万~6万年前のもの、石器は19万~5万年前前後のものであるとみなされている。[2]
発見
ホモ・フローレシエンシスの骨が発見された洞穴。
2003年 に、オーストラリア とインドネシアの合同チームが発見し、2004年 10月に公表[6] 、2005年 3月[1] にヒト属の新種であるという詳細な発表を行った。
リアンブア (Liang Bua) の石灰岩 の洞窟 に、当初3万8千年から1万8千年前と考えられたホモ・フローレシエンシスの骨7体と獲物と考えられる象(ステゴドン )の骨、石器などが一緒に発見された[7] 。骨は化石 化しておらず、かなり脆い状態だった。当初、小さいため子供の骨と思われていたが、詳細な検討により成人の骨であることが判明した[8] 。
2005年に、既に発見されていた個体の右腕部分と新たな個体と考えられる下顎骨 が発見された[9] 。その下あごの骨も他の個体と同様に小さく、小型の種 であるという説を強化するものとなっている。
分析
ホモ・フローレシエンシスが生息していた当時のフローレス島の想像図。コモドオオトカゲとL. robustus が見られる
孤立した島では、しばしばウサギより大型の動物の矮小化が起こる(島嶼化 )。同島にはステゴドン 等数種類の矮小化した動物が存在した。一方で、コモドオオトカゲ や大型のハゲコウ (en:Leptoptilos robustus )のような大型の動物も知られている[10] 。
脳と体躯をつかさどる遺伝子は全く異なっており、体躯が小型化しても、脳は同一比率で小さくなるわけではないといわれている。その点からも、フローレシエンシスが新種の原人であるという点について反論がなされている。フローレシエンシスの脳容量は426ccといわれており、体重に対する脳重量の比はホモ・エレクトス と大型類人猿 の間に位置する[12] 。この点について、マダガスカル の古代カバの研究により、島嶼化でより脳が小型化する可能性も指摘されている[13] 。
ホモ・フローレシエンシスは直接の祖先ホモ・エレクトス (84万年前ごろ生息)が矮小化したものと考えられているが、より原始的な祖先に起源を持つ可能性も示されており、ホモ・ハビリス から進化したという説もある[13] [14] 。脳容量は426立方センチで、平均的なエレクトスの半分程度、大型のチンパンジー よりも小さい。高次の認知に関する部分の大きさは、現代人と変わらず[15] 、火を使った形跡や化石から考えて、かなりの知能 があったと考えられている。足は第一指が他の指と平行であり、爪先が伸縮可能な点が人類と共通であるが、第一指の小ささや長くカーブしている外側の指で体重を支える点はチンパンジーに近い。土踏まず は存在せず、現代人と比べ二足歩行 は苦手だったと見られている[13] [14] 。
議論
発見された骨は脳の異常な小ささから、小人症 やピグミー のように矮小化した、あるいはクレチン症 やラロン症候群 といった発育上の障害をもった、ホモ・サピエンス・サピエンス の骨だと主張する研究者も多い。これに対しニューヨーク州立大学ストーニーブルック校 のウィリアム・ユンゲルス や、ロンドン自然史博物館 のエレノア・ウェストン 、エイドリアン・リスター などは、新たな研究からやはり新種人類であるという説を唱えている。ペンシルベニア州立大学 のロバート・エックハル は、新種人類説は以前の論文と矛盾し場当たり的だと批判している。ハーバード大学 のダニエル・リーベルマン は、新種人類かを判定するにはさらなる化石が必要だと述べており、専門家の間でも評価は定まっていない。[13] [14] [16]
脚注
^ a b Morwood, Michael J., et al. (2005). “Further evidence for small-bodied hominins from the Late Pleistocene of Flores, Indonesia” (PDF). Nature 437 (7061): 1012-1017. doi :10.1038/nature04022 . http://sydneybusinessschool.edu.au/content/groups/public/@web/@sci/@eesc/documents/doc/uow019094.pdf 2015年12月23日 閲覧。 .
^ a b “Homo floresiensis ”. Smithsonian Institution. 2015年12月25日 閲覧。
^ “パラオ古代人ホビットやドワーフではなかった ”. ナショナル ジオグラフィック . ナショナル ジオグラフィック協会 (2008年8月27日). 2023年11月25日 閲覧。
^ “Consideration of more appropriate microcephalic syndromes and specimens supports the hypothesis of modern human microcephaly.” Martin, Robert D., et al. (2006). “Comment on" The brain of LB1, Homo floresiensis"” (PDF). Science 312 (5776): 999. doi :10.1126/science.1121144 . http://users.clas.ufl.edu/krigbaum/4468/Martin_etal_Flores_2006_Science.pdf 2015年12月22日 閲覧。 .
^ 文=Adam Hoffman/訳=三枝小夜子 (2016年4月1日). “フローレス原人を絶滅させたのは現生人類だった? ”. National Geographic. 2016年7月25日 閲覧。
^ Brown, Peter, et al. (2004). “A new small-bodied hominin from the Late Pleistocene of Flores, Indonesia”. Nature 431 (7012): 1055-1061. doi :10.1038/nature02999 .
^ Morwood, Michael J., et al. (2004). “Archaeology and age of a new hominin from Flores in eastern Indonesia”. Nature 431 (7012): 1087-1091. doi :10.1038/nature02956 .
^ "...who died around the age of 30..."“LB-1 ”. Smithsonian Institution. 2015年12月22日 閲覧。
^ "The new fossils consist of the right humerus, radius and ulna of the LB1 skeleton, the mandible of a second individual (LB6),..."Lieberman, Daniel E. (2005). “fossil finds from Flores” . Nature 437 (7061): 957-958. doi :10.1038/437957a . https://dash.harvard.edu/handle/1/3743585 2023年8月17日 閲覧。 .
^ Meijer, Hanneke J. M.; Sutikna, Thomas; Wahyu Saptomo, E.; Tocheri, Matthew W.. “More bones of Leptoptilos robustus from Flores reveal new insights into giant marabou stork paleobiology and biogeography” . Royal Society Open Science 9 (7): 220435. doi :10.1098/rsos.220435 . PMC 9277297 . PMID 35845853 . https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsos.220435 .
^ Falk, D. et al. (19 May 2006). “Response to Comment on 'The Brain of LB1, Homo floresiensis ' ”. Science 312 (5776): 999c. Bibcode : 2006Sci...312.....F . doi :10.1126/science.1124972 .
^ a b c d Marlowe Hood (2009年5月7日). “「ホビット」はヒトの新種、米英の研究者が論文で指摘” . AFPBBNews. https://www.afpbb.com/articles/-/2599993?pid=4119109 2012年3月15日 閲覧。
^ a b c John Roach (2009年5月8日). “走りは苦手なホビット、やはり新種か” . ナショナルジオグラフィック ニュース. https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/1190/ 2023年11月25日 閲覧。
^ Falk, Dean; Hildebolt, Charles; Smith, Kirk; Morwood, Mike J; Sutikna, Thomas; Brown, Peter; Jatmiko; Saptomo, E Wayhu; Brunsden, Barry; Prior, Fred (2005). “The brain of LB1, Homo floresiensis ” . Science (American Association for the Advancement of Science) 308 (5719): 242-245. doi :10.1126/science.1109727 . https://doi.org/10.1126/science.1109727 .
^ Rex Dlton, "Hobbit was 'a cretin'", Nature , 2008, 452 , 12
参考文献
関連項目
外部リンク
ヒト科 Hominidaeヒト亜族 Homininae
用語 関連項目 起源