「ババ・オライリィ」(Baba O'Riley)は、イングランドのロックバンド、ザ・フーの楽曲である。作詞・作曲はピート・タウンゼント。
1971年に発表されたアルバム『フーズ・ネクスト』に収録され、同年にイギリスを除いたヨーロッパ諸国でシングル・カットされた[2]。アメリカでは後述するように様々なメディアで使用され、シングル・カットされなかった[3]にも拘らず知名度は高い。
ローリング・ストーンの選ぶオールタイム・グレイテスト・ソング500(2021年版)では159位にランク・イン[4]。
解説
タウンゼントがA.R.P.シンセサイザーを駆使して作った、テクノポップを先取りしたプログレッシブな曲。タイトルは、インドの導師ミハー・ババとアメリカ合衆国の作曲家テリー・ライリーの名前に由来している[5]。タウンゼントは1967年にババの教えを書物で読んで帰依した。
本曲は後述の9分間のインストゥルメンタルが土台になっている[7][8][注釈 1]。アルバム『トミー』(1969年)に続くザ・フーの新作として彼が企画したロック・オペラ『ライフハウス』のために書かれたが、『ライフハウス』の制作が中止されたので、代わりに制作された『フーズ・ネクスト』に収録された。
エンディングのヴァイオリン・ソロは、キース・ムーンが提案した。彼は本曲のレコーディング中に、イングランドのプログレッシブ・ロック・バンドで偶然隣のスタジオにいたイースト・オブ・エデンを訪ね、ヴァイオリニストのデイヴ・アーバス(David Arbus)[9]を招いた[10]。『フーズ・ネクスト』の裏ジャケットにあるクレジットには、“Violin On "Baba O'Riley" produced by Keith Moon”と記載されている。
関連楽曲
タウンゼントは『ライフハウス』を企画していた時に一人で制作したデモを集めてリマスタリングし[注釈 2]、全24曲からなる"Lifehouse Demos"を編集して、2000年に個人名義で発表した集大成の6枚組CD『ライフハウス・クロニクルズ(英語版)』に収録した。"Lifehouse Demos"には本曲に関連した'Teenage Wasteland'、 'Baba O'Reily'、'Baba O'Reily [instrumental version]'が含まれている[11]。
'Teenage Wasteland'は彼の自伝で'Teenage Wasteland' (an alternative version of 'Baba O'Reily')と称された6分16秒の二部構成の曲で、歌詞は本曲よりも長く、前半部は全く異なる短音階の曲である[注釈 3]。'Baba O'Reily'は本曲のデモ・ヴァージョンである7分44秒の曲で、歌詞も構成も本曲と同じであり、最終部分がヴァイオリン・ソロなしで約3分間続く。'Baba O'Reily [instrumental version]'は、'Baba O'Reily'より2分近く長い9分44秒のインストゥルメンタルである。
'Baba O'Reily [instrumental version]'がリマスタリングされる前の音源は、ユニヴァーサル・スピリチュアル・リーグ[13]が1972年にババの三回忌を記念して限定生産したチャリティー・アルバム『アイ・アム』に収録された9分間のインストゥルメンタル'Baba O'Reily'である。
デモ・ヴァージョン'Baba O'Reilly'の最終部分は、タウンゼントのソロ・アルバム『サイコデリリクト(英語版)』(1993年)の収録曲’Baba O'Riley (demo)’に流用された[14]。
演奏メンバー
コンサート・パフォーマンス
本曲は『フーズ・ネクスト』で発表されて以来、コンサートの定番曲となっている。ステージで複雑なシンセサイザー・パートを演奏することは困難だったうえに、ザ・フーには専属のキーボード奏者もシンセサイザー奏者もいなかったので、彼等はアルバム版のシンセサイザー・パートのテープを制作して、その再生音に合わせて演奏した[注釈 4]。なおステージで使用されたテープのイントロ部分は、アルバム版のそれより少し長くなっている。エンディングではヴァイオリン・ソロの代わりに、リード・ヴォーカリストのロジャー・ダルトリーがハーモニカ・ソロを披露した。
2012年ロンドンオリンピックの閉会式では、「シー・ミー・フィール・ミー」、「マイ・ジェネレーション」とともに披露された[15]。この時はダルトリーがブリッジ部のリードボーカルも担当した。
メディアでの使用例
ヒットチャート
ゴールドディスク
脚注
注釈
- ^ ベストアルバム『マイ・ジェネレーション~ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・ザ・フー』付属のライナー・ノーツによると、タウンゼントはかつて「当時、聴衆の中からひとり選んで、その個人の身長、体重、自伝的な情報をシンセサイザーにインプットするという事をやっていた。するとシンセサイザーがその人間のパターンから音符を選び出すんだ。この曲で俺は、ミハー・ババの人生をプログラミングして、結果こういう曲に変換されたのさ」と説明していた。彼は2009年に、これは『はったり』で、そのような実験すら行っていなかったと明かしている。
- ^ 当時彼の義弟だった音楽プロデュ―サーのジョン・アストリーが担当した。
- ^ 後半部は本曲と極めて類似しているが、ピアノ、ベース・ギター、ドラムス、ギターが主体の演奏で、シンセサイザーは終了部分に使用される。終了間際にギターが奏でるAコードの音色は『フーズ・ネクスト』収録の「無法の世界」の冒頭のそれと極めて類似している。
- ^ 彼等は1979年のツアー以後、キーボード奏者をコンサートのサポート・メンバーとして起用するようになったが、本曲については、2024年の今日に至るまでテープの再生音に合わせて演奏する形式を採り続けている。
- ^ 劇場版とビデオの両方。
出典
引用文献