『シナぷしゅ』(しなぷしゅ)は、テレビ東京系列にて2019年12月16日から12月20日にパイロット版が放送され[1]、2020年4月6日からレギュラー放送をしている[2]乳幼児向け子供番組。
本作は、民間放送では初となる試みとなる乳幼児(0歳から2歳)向けの子供番組であり[注 1]、テレビ番組の視聴率を計測しているビデオリサーチの調査対象でも乳幼児層は対象外としているため[注 2]、異色の番組と評されている[1][4]。 それでも本番組は、YouTubeでの無料配信に加え、シールブックや絵本、さらにはGUと共同開発したベビー服[5]など、番組の枠を超えた企画が展開された[6]。
また、副音声では、村山明による解説放送が行われている。
当初は25分番組だったが、2023年4月3日放送分よりそれまで『秒でNEWS180』が放送されていた放送枠を統合し、30分番組に拡大した。これに伴い、エンディング終了後に「アンコール」として、過去に放送された歌をもう1曲流すフォーマットとなった。
2025年3月、文化放送は本番組とのコラボレーションを行い、本番組のラジオ版となる『みんなでシナぷしゅラジオ』を同月20日に放送することを発表した[7][8]。
レギュラーコーナー(毎日放送されるコーナー)と不定期コーナーの2種類からなる。
過去のスタッフ(レギュラー版)
字幕放送、解説放送は同時ネット局のみ実施。 本編中の放送日の日付のコールは同時ネットのみされ、遅れ放送では番組のタイトルコールに差し替えられている。(ネット配信では、差し替えられず、そのまま放送) オリンピックハイライトを放送の日は7:50までの短縮放送になる。
いずれの局も遅れネット。
更新はテレビ東京放送日時基準
シナぷしゅの企画・総合演出を手掛ける飯田佳奈子は、テレビ東京の営業局にいた2018年、長男を出産[11]。生後4か月の頃、子育て支援センターを初めて訪れた際にお母さんたちが「昨日も1時間くらいテレビを見せちゃった」と話している場面に遭遇した。まるでテレビが害悪のような話し方をする母親たちに対して、YouTubeでは一般人が制作した子ども向け動画が何十万回も再生されている現実があり、そのギャップに興味を持ったという[11]。
また、飯田は出産や育児を経験する中で、テレビや動画に助けられてきたと感じていた[12]。令和の育児は、母親が1人で担当する「ワンオペ」の場面が多い。1人で育児を担う親が必死に子供向けコンテンツを探すのを見て、「子どもに見せたいと思える」「親が見せて安心できる番組」の制作を思い当たった[12]。
2019年6月、飯田は新規事業を考える部署で職場復帰。2019年7月に赤ちゃん向けの企画書を提出した。個人視聴率の調査は4歳以上のため、赤ちゃんは対象外。前例のない赤ちゃん向けの番組だったが、「誰もやっていないなら、やってみたら」というテレビ東京の文化に背中を押してもらい、子育て中の社員が横断的に集まって制作が開始された[11]。
その後、飯田は複数の社員と協力して本作の企画を立案し、東京大学赤ちゃんラボが監修にあたった[10][6]。 番組名の「シナぷしゅ」は、「適切な刺激で脳のシナプスを増やして、赤ちゃんの世界が『ぷしゅっ』と広がり、パパママの肩の力が『ぷしゅ~』と抜ける」という意味を込める形で名づけられた[13]。メインキャラクターとして「ぷしゅぷしゅ」も誕生した。
制作にあたり、飯田は視聴者を単に子ども扱いするのではなく、赤ちゃんの可能性を広げる内容になるよう心掛けていると朝日新聞社のコンテンツ「好書好日」とのインタビューで話している[12]。 コーナーの一つである短編アニメ「ヒカリの森の黒うさぎ」では、小さな子どもや外国の視聴者でも理解できるよう、台詞をなくし、音楽で表現するという演出が取られている[14]。
人気コーナーの「がっしゃん」は、プロデューサーの一人だった松丸友紀が立案した[9][15]。 松丸は元々アナウンサーであり、企画の立案はこの時が初めてだった[15]。悩んでいたところ、「子どもが好きなものを詰め込んではどうか」というアドバイスが寄せられた。当時2歳半だった息子の好きな物を考えた際、大好きな新幹線が連結する様子を「がっしゃん」と呼んでいたことにヒントをもらい、同コーナーを企画した[9][15]。 進行役のみーたんとひーたんのパペットは、松丸のオファーにより徳島県在住のぬいぐるみ作家yoshimaruが制作した[9]。 また、みーたんの声は松丸本人が、ひーたんの声はアナウンサーの原田修佑がそれぞれ担当した[9]。
また、早期英語教育への関心が高まってきたことから、本番組でも英語を取り入れるコーナーが設けられた[16]。 プロデューサーの一人である工藤里紗は「楽しいだけで終わってしまうのではなく、子どもが英語の世界に自然になじんでいくための動線を作りたいという思いがありました。フォニックスの音を知っていると、文字を見てなんとなく発音できるようになる。乳幼児期の“正解”はわかりませんが、英語の歌に加えてフォニックスを番組に取り入れてみたいと思いました」とAERAとのインタビューの中で話している[16]。 さらに、様々な国の言葉で「いないいないばあ」をするものなど、英語以外の外国語も題材としたコーナーも用意された[13][12]。 これについて飯田は「意味がわからなくても、外国語の音を聞いて耳の可動域を広げたり、少し背伸びしたコンテンツに接することで、楽しく毎日聞いている間に興味への伸びしろが増えているような状況が一番いいと思っています。」と話している[12]。一方、工藤はAERAとのインタビューの中で「いろいろな言葉や音に接していると、知らないものも自然と受け入れられる、オープンなマインドが育つことにつながるかな、と。これからの時代を生きる子どもにとって、多様性というのはひとつの大切なキーワードだと感じています」と話している[13]。
飯田が営業局にいたころから、「子供向けのアニメ番組に広告を出したい」という要望が企業からテレビ東京へ多く寄せられていたものの、製作委員会方式で制作されたアニメ作品ではCM枠が委員会に参加している企業におさえられていた[17]。飯田は朝の30分枠で子供番組を用意すればスポンサーがつくと確信し、番組の配信や商品化といった二次収入で売り上げを立てられると判断した[4]。
本番組は企業とのコラボレーションも行われている。たとえば、2021年6月には、GUから本番組を題材としたベビー服が発売された[5][18]。 GU babyの責任者・平松修吉はコラボレーションの経緯について、「2、3年前よりベビー服の開発要望が社内外から寄せられていた中で、知名度のある本番組とのコラボレーションが社内から提示され、番組スタッフの姿勢からコラボレーションを決めた」とメディアコンサルタントの境治の取材に対して説明している[18][19]。 コラボレーションに当たっては、飯田をはじめとする番組スタッフも監修者として開発に参加した[19]。
『シナぷしゅ THE MOVIE ぷしゅほっぺにゅうワールド』2023年5月19日公開。
番組メインキャラクターの「ぷしゅぷしゅ」たちを題材とした作品。複数のクリエイターがパペット、アニメーション、クレイアニメ、切り絵アニメ、浮世絵等、いろんなジャンルの作品のパートを担当している。映画オリジナルキャラであるタオルの妖精「にゅう」の声を当番組を子供と一緒によく見ている玉木宏が演じている[20]。
他
全て小学館より発売。
氏家夏彦によると、2020年12月時点における本番組の個人視聴率は約0.4%で、同時間帯に放送されているNHK・Eテレの赤ちゃん向け番組『いないいないばあっ!』の約1.3%の半分以下とされている[4]。 これに対し、飯田は氏家とのインタビューの中で、本番組の提供スポンサーの一つであるタマホームを例として提示し、番組を見た子どもたちが同社のCMソングを覚えたり、他の番組で同社のCMを見て本番組を想起するといった反応があったとも話している[4]。 また、ジーユーとのコラボレーションでは、ジーユー側の予想よりも大きな売り上げをみせ、テレビ東京の放送エリア外の地域でもヒットしたほか、売り切れる店も出てきた[19]。
ライターの松庭直は、乳幼児を含む3人の子どもとともにパイロット版を見た感想として、「『シナぷしゅ』はテンポ良く場面が切り替わり、子供を飽きさせない工夫が凝らされていると思いました。[中略]ダンスがあり、歌があり、教育があり、とさまざまなコーナーが詰め込まれていると感じました。[後略]」 と話している[22]。 その一方で、松庭は「テンポの良さを優先しているためだと思いますが、MCが不在で、子供が一呼吸つける瞬間がないのが残念です。番組終了後は子供が少し疲れた様子でした。[中略]もうひとつ、番組のコンセプトは『我が子に安心して見せられる』とのことですが、正直、どこが『安心』なのか。親の立場からすると、もう少し丁寧な説明が欲しいと思いました」とも話している[22]。