しゅんこう型巡視船(英語: Shunkō-class patrol vessel)は、海上保安庁の巡視船の船級。分類上はPLH(Patrol vessel Large with Helicopters)、公称船型はヘリコプター2機搭載型。ネームシップの建造費用は172億円[4]。
来歴
2012年9月の尖閣諸島国有化以降、尖閣諸島周辺海域では中国政府の公船の徘徊や領海侵入等の事案の頻度が増加していた。これに対し海上保安庁ではつがる型(ヘリコプター1機搭載型PLH)2隻、くにがみ型(1,000トン型PL)10隻の計12隻の巡視船によって尖閣領海警備専従体制の構築を図っており、2016年3月には支援施設を含めて構築が完了した。
しかしこの間も、2013年には従来4つが乱立していた中華人民共和国の海上保安機関が中国海警局として整理統合され、更に体制の強化が進められるなど、情勢は急激に変化していた。2016年には、領海に侵入する中国漁船に伴走するかたちで中国公船も領海に侵入する状況も出現し、更に来航する公船も増加していた。専従体制が完成した時点で、1,000トン以上の巡視船の勢力において既に海上保安庁は中国海警局の半分程度となっており、しかも中国海警局は更に増強を進めていた。
この情勢を受けて2016年8月24日に閣議決定された平成28年度第2次補正予算では、海上保安体制の強化のため過去最大となる674億円が盛り込まれた。そしてこのとき、尖閣領海警備体制の強化と大規模事案の同時発生に対応できる体制の整備を目的として計画された巡視船の1隻が「しゅんこう」であった[注 1]。
設計
本型は、ふそう型(初代みずほ型)の系譜に属する汎用型PLHと位置づけられている。同じ平成28年度第2次補正予算で建造が開始されたれいめい型はしきしま級の系譜に属し、軍艦構造を採用して建造費も高価なのに対して、本型は商船に準じた構造を採用し、建造費はれいめい型に対し約35パーセント廉価となっている。
船型は排水量型を採用している。全体的な配置はれいめい型と同様で船容も似ているが、全長が約10メートル短いため搭載艇は片舷あたり1隻ずつ少なくなっている。全天候型救命艇を搭載していないため、航行区分も近海となっているようである。また後部マストは、れいめい型では塔型なのに対して本型ではラティス構造となっており、外見上の特徴となっている。
事案の長期化に対応するとともに、現地対策本部としての役割も期待されたことから、十分な清水・食料の搭載スペースが確保され、災害対応区画も設置された。また居住区画についても、「あきつしま」と同様に配置や振動抑制など居住環境の改善を図った設計がなされている。
要求速力はしきしま型と同じく25ノット以上とされたことから、本級でもしきしま型と同様の高速から低速までをカバーする4基のディーゼルエンジンを採用した。可変ピッチ・プロペラの2軸推進とされている。上記のように建造費に大きな差があることから、主機出力が小さく最高速力に差がある可能性も指摘されていたが、実際にはしきしま型(少なくともれいめい型)と同等の単機出力9,000馬力の機関が4基調達されており、出力は合計36,000馬力が確保されている[8]。ただし同一機種というわけではなく、異なるものと推測される[9]。
装備
兵装は70口径40mm単装機関砲1基と20mm多砲身機関砲2基を搭載する。「あきつしま」では船橋前方と、格納庫上に40mm単装機関砲をそれぞれ1基が搭載されていたのに対し、本級では格納庫上が20mm多銃身機関砲になり、船橋前方の1基になっている。また遠隔放水銃および停船命令等表示装置、遠隔監視採証装置も搭載された。
本型では巡視艇など他船への支援能力を備えており、片舷あたり4ヶ所ずつの係留ポストを設置して、清水・燃料・電力などの供給に対応できる。また乗員の休養を助ける母船機能も備えている。
上記の通り、れいめい型と比べて搭載艇は総数にして2隻少なく計4隻となっている。一方、ヘリコプターの格納庫はれいめい型と同様にスーパーピューマ225を2機収容できるようになっており[注 2]、本型では搭載定数も2機となっている。
同型船一覧
脚注
注釈
- ^ 番号上は先行して平成27年度補正予算により建造された「みずほ」(PLH-41)と連続しており船型も同じ6,000トン型と称されているが、同型船ではなく搭載機も異なっている(「みずほ」では先代の同名船から引き継いだベル 412が搭載されている)。
- ^ 導入時の正式名称はユーロコプター式EC225LP型だったが、メーカーの社名変更に伴って、3番機以降はエアバス・ヘリコプターズ式となった。
- ^ 2019年12月18日に就役する予定であったが、試運転時の不具合により延期となった[13]。
- ^ これら2隻は、当初は令和2年度の概算要求に盛り込まれていたが、海上保安体制の強化が急がれたことから、令和元年度の補正予算に前倒しされたものである[15]。
出典
参考文献
- 秋本茂雄「2008-2018年 進化の10年を振り返る (特集 海上保安庁 : 創設70周年)」『世界の艦船』第881号、海人社、130-135頁、2018年7月。 NAID 40021585462。
- 海上保安庁装備技術部「これから登場する新型船 (特集 海上保安庁 : 創設70周年)」『世界の艦船』第881号、海人社、152-155頁、2018年7月。 NAID 40021585539。
- 海上保安庁装備技術部船舶課「大いなる進化の時代=船艇と装備 (特集 海上保安庁の近未来を予測する)」『世界の艦船』第933号、海人社、140-145頁、2020年10月。 NAID 40022358640。
- 海人社 編「警備救難業務用船 (海上保安庁船艇の全容)」『世界の艦船』第881号、海人社、39-90頁、2018年7月。 NAID 40021585370。
- 海人社 編「海上保安庁の大型船4隻 相次いで進水!」『世界の艦船』第901号、海人社、61-65頁、2019年6月。 NAID 40021896592。
- 海人社 編「海上自衛隊・海上保安庁 艦船の動向 : 令和元年度を顧みて」『世界の艦船』第927号、海人社、141-147頁、2020年7月。 NAID 40022262326。
- 海人社 編「警備救難業務用船 (海上保安庁船艇の全容)」『世界の艦船』第933号、海人社、39-90頁、2020年10月(2020b)。 NAID 40022358584。