はてるま型巡視船 (はてるまがたじゅんしせん、英語 : Hateruma -class patrol vessel )は、海上保安庁 の巡視船 の船級。分類上はPL(Patrol vessel Large )型、公称船型は1,000トン型。また令和5年12月に1番船(ネームシップ) が配置替えに伴い改名したことから、だいせつ型 とも称される。
予算要求時の名称から拠点機能強化型 とも称される。建造費は49億円。
来歴
海上保安庁 では、常に複数の大型巡視船を尖閣諸島 周辺海域に派遣して領海警備にあたっているが、巡視艇の常時展開は行われておらず、通常は大型巡視船による連絡を受けてから石垣島 や宮古島 を出港することになる。しかし尖閣諸島までの距離は90海里 以上に及ぶため、比較的堪航性に優れた30メートル型PCであっても、現場到着まで、最低でも3時間はかかることになる。従って、これらの巡視艇が到着するまでは、大型巡視船と搭載艇のみで対応する必要がある。
大型巡視船では小型船を規制するには機動力が不足であり、それを補うため7メートル型高速警備救難艇 を搭載しているとはいえ、通常その搭載数は1隻のみであり、不足が指摘されていた。また現地には補給施設がないため、進出した巡視艇は、清水・食料・燃料などの補給や乗員休養のために毎回帰港する必要があるが、これも乗員の疲労を増大させていた。
2004年3月には、中国人活動家7名が魚釣島に不法上陸し、沖縄県警察 によって逮捕されるという事件が発生した。この際には、母船から手漕ぎボートで上陸を試みる活動家に対して、巡視船は規制に失敗し、上陸を許すこととなった。この事件を契機として、より多くの搭載艇を備え、またヘリコプター や巡視艇への補給拠点としても使える大型巡視船として整備されることになったのが本型である。このような性格から、拠点機能強化型巡視船とも通称される。
設計
船型は長船首楼型である。試設計の段階では3,000トン型として計画されたが、予算の事情で1,000トン型に縮小されることになった。設計にあたっては、高速高機能大型巡視船 (2,000トン型 および1,000トン型 )の船型が基本とされたが、上記の経緯より、巡視艇に対する横抱き給油が求められたことから、横揺れ軽減のため、フレーム形状は角型船型に近いものとなった。船橋構造下の吃水がもっとも深く、船尾にむけてなだらかに浅くなる特殊な形態であり、高速航行時は半滑走状態となる。
船殻重量軽減のため、船質はアルミニウム合金 とされた。なお設計にあたっては、平成15年度計画以降の高速高機能大型巡視船と同様、「高速船の安全に関する国際規則2000」(HSCコード)が適用され、航行上の安全性および信頼性の向上をはかっている。また波浪中の高速航行を考慮したこともあり、船体の部材寸法については試験などの結果を解析することによる"Design by Analysis"の手法を、また船体局部強度については有限要素法 (FEM解析)を用いた直接計算による検証が行われた。
母船機能および航空運用機能が要求されたことから、減揺装置としては、減揺タンクおよびフィンスタビライザー を備える。しかしそれでも動揺は大きく、また重量を低減するために煙突を廃止して舷側排気としたこととあいまって、乗員には不評であった。航行中には後部甲板は原則的に立ち入りが禁止されるほか、めざし係留する場合、排煙で汚れるのを嫌った隣船が舷側にビニールシートを取り付けることもあるとされる。その後、排気口を喫水線近くに移設し、散水装置を取り付けるといった改修が行われた船もある。
主機関は4基の高速ディーゼル機関 、推進器はウォータージェット推進 とされている。また迅速な離着岸のため、バウスラスター も備えている。電源 としては、主電源としてディーゼル発電機 、予備電源としてシール型蓄電池 を搭載している。
装備
リアルタイムでの情報共有のため、ヘリコプター が撮影した映像を受信するヘリコプター撮影画像伝送システム(ヘリテレ装置) 、さらにこれを衛星通信で地上基地に転送する衛星映像伝送システム船上型(船テレ装置)を備えている。なお操舵室上には、FCSを兼ねた赤外線捜索監視装置 とともに、遠隔監視採証装置 も設置された。
本型は、高速高機能大型巡視船 に準じた警備能力を要求されたことから、これらと同様に、赤外線捜索監視装置 と機銃を連動させて、射撃管制機能(FCS )を備えている。機銃としては、当初は高速高機能大型巡視船と同じボフォースMk.3 40mm単装機銃 が予定されたものの、価格低減のため、より小口径で軽量のブッシュマスターII 30mm機銃 に変更された[ 注 2] 。
また船首には遠隔操作型の放水砲 が搭載されているが、これは「ひりゆう 」が船橋上に装備しているものをもとに多少圧力を高めて使用しており、放水能力は毎分2万リットルに達する。消防船では停船しての放水が基本であることから、本型への搭載にあたって、「ひりゆう」を用いて航走中の放水実験が行われた。
搭載機・搭載艇
「こしき」のヘリコプター甲板
搭載艇の増加を要求されたことから、高速警備救難艇 よりも軽量の複合艇 を採用しており、船橋後方のボート・デッキに、7メートル型および4.8メートル型を各2隻搭載する。揚降装置は、平成13年度計画の350トン型PM(とから型) で装備化された、軽量のクレーン によるものとされた。また6番船以降は、搭載艇は計3隻に削減された[ 注 3] 。
本型は、PC型であれば3隻、CL型であれば4隻の巡視艇 を同時に支援できる能力を有する。補給は停船して横抱き式に行うことから、上記のように、船体設計上の配慮や減揺装置の搭載などが行われたものの、それでも低速~停船時の動揺は大きく、洋上補給は海域・海況を限定せざるを得なくなった。一方で東日本大震災 等の災害時における救援活動の際には、これらの液体補給能力や、複合艇の揚降用クレーンを転用しての荷役により、ロジスティクス の面で大きく貢献した。
なお船尾甲板はヘリコプター甲板 とされており、ヘリコプター への給油設備も有している。
同型船一覧
計画年度
番号
船名
船舶番号 信号符字
造船所
起工
進水
就役/配属替え
配属保安部署
その後
平成17年度
PL-61
はてるまHateruma
140915 7JCQ
三井造船 玉野事業所
2007年 2月7日
2007年 8月10日
2008年 3月31日
石垣 (第十一管区 )
配属替えに伴い船名変更
だいせつDaisetsu
2023年 12月15日
紋別 (第一管区 )
(就役中)
平成18年度
PL-62
はかたHakata
140845 7JEB
2007年 11月20日
2008年 6月19日
2009年 2月2日
福岡 (第七管区 )
配属替えに伴い船名変更
いしがきIshigaki
2011年 10月8日
石垣→中城[ 注 4] (第十一管区 )
(就役中)
PL-63
よなくにYonakuni
140846 7JEC
2009年 2月2日
石垣 (第十一管区)
配属替えに伴い船名変更
くにがみKunigami
2016年 10月24日
中城 (第十一管区)
(就役中)
PL-64
もとぶMotobu
140914 7JEP
2008年 3月1日
2008年 9月30日
2009年 3月3日
那覇 (第十一管区)
配属替えに伴い船名変更
しもきたShimokita
2012年 3月26日
八戸 (第二管区 )
配属替えに伴い船名変更
くりこま[ 18]
Kurikoma
2022年 3月10日[ 18]
宮城 [ 18]
(第二管区)
(就役中)
PL-65
くにがみKunigami
140915 7JEQ
2009年 3月12日
中城 (第十一管区)
配属替えに伴い船名変更
しれとこShiretoko
2012年 3月26日
小樽 (第一管区 )
(就役中)
平成19年度
PL-66
しきねShikine
141039 7JFM
三菱重工業 下関造船所
2008年 7月15日
2009年 4月16日
2009年 10月7日
横浜 →下田 [ 注 5] (第三管区 )
(就役中)
PL-67
あまぎAmagi
141146 7JGI
三井造船 玉野事業所
2008年 11月7日
2009年 9月25日
2010年 3月11日
下田 (第三管区 )
(就役中)
2013年 12月20日
奄美 [ 注 6] (第十管区 )
PL-68
すずかSuzuka
141147 7JGJ
2009年 2月13日
2010年 3月11日
尾鷲 (第四管区 )
(就役中)
PL-69
こしきKoshiki
141117 7JGD
三菱重工業 下関造船所
2009年 9月30日
2010年 3月9日
鹿児島 (第十管区 )
(就役中)
※巡視船は配属変更に伴って名称を変更することがある ため、上記の名称・所属先は執筆時点のものである。
登場作品
映画
『BRAVE HEARTS 海猿 』
「しきね」が登場。左翼エンジン が爆発したボーイング747-400 が東京湾 内に海上着水することを受け、着水する海域の近くで待機し、着水が成功すると直ちに接近して救助活動を開始する。
漫画
『空母いぶき 』
第1話に「よなくに」が登場。尖閣諸島 に中国 の漁民 が上陸したことを受けて現場海域へ急行すると、漁民の保護を名目に進出してきた中国海警局 の執行船 と睨み合いになり、衝突する事態が起きてしまうが損傷は軽く、その後も現場海域に留って警戒にあたる。
脚注
注釈
^ 1番船建造当初は、7m型高速複合警備艇2隻と4.8m型高速複合警備艇2隻が搭載されていた。
^ 逆に高速高機能大型巡視船では、当初は30mm口径とする予定だったものの、計画段階で発生した九州南西海域工作船事件 を受けて、より長射程で強力な40mm口径のボフォースMk.3に急遽変更されたという経緯がある。
^ 既存の船でも、順次に搭載艇を3隻に変更しているが、2018年7月現在、「しもきた」のみ4艇搭載されている。
^ 2020年4月24日付けで、石垣海上保安部から、同じ管内の中城海上保安部へ配属替えとなった[ 16] 。
^ 竣工当初は横浜海上保安部に配属されていたが、2016年10月25日付けで下田海上保安部に配属替えとなった[ 20] 。
^ 2013年12月20日に第十管区奄美海上保安部に配属替えとなったが、管区を跨ぐ移動であったにもかかわらず海上保安庁の巡視船艇では珍しく改名されなかった。
出典
参考文献
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外部リンク