『女と男のいる舗道』(おんなとおとこのいるほどう、仏語 Vivre sa vie: Film en douze tableaux、「自分の人生を生きる、12のタブローに描かれた映画」の意)は、1962年(昭和37年)製作・公開、ジャン=リュック・ゴダール監督によるフランスの長篇劇映画である。
概要
ゴダールの長篇劇映画第4作である。『女は女である』(1961年)についでアンナ・カリーナが出演したゴダール作品の第3作、カリーナとの結婚後第2作である。マルセル・サコット判事が上梓した『売春婦のいる場所』(1959年)の記述をヒントに、ゴダールがオリジナル脚本を執筆した。エドガー・アラン・ポーの短篇小説『楕円形の肖像』(1842年)も織り込まれている。
カリーナの役名は「ナナ・クランフランケンハイム」、姓は当時アルザス地域圏バ=ラン県にあった片田舎の村の名称、名は、エミール・ゾラの小説『ナナ』(1880年)の主人公と同じである[1]。ナナの髪型は、ゲオルク・ヴィルヘルム・パープスト監督の『パンドラの箱』(1929年)に登場するルイーズ・ブルックス(en:File:Louise Brooks in Pandora's Box.jpg)を模したショートボブであり、本作の暴力的なアンチハッピーエンディングも、同作の影響下にある。ジャン・ドゥーシェは、溝口健二監督の遺作『赤線地帯』(1955年)の影響なしには本作は存在しないと指摘する[2]。ラストショットのロケ地はパリ13区エスキロル街17番地、レストラン・デ・ステュディオ前である。
ナナは第1タブローで別れた夫ポールと近況を交換するが、ポールを演じるのは、ゴダールとは、互いが『カイエ・デュ・シネマ』誌での批評家時代からの盟友でドキュメンタリー映画の監督アンドレ・S・ラバルトである。ラバルトは、ゴダールの『勝手にしやがれ』、『子どもたちはロシア風に遊ぶ』(1993年)、『JLG/自画像』(1995年)にも出演している。ナナがほのかに恋をする若い男を演じるペテ・カソヴィッツは、ブダペスト出身のユダヤ人でドキュメンタリー映画の監督である。『憎しみ』(1995年)の監督マチュー・カソヴィッツの父で、同作にも出演している。ただし、ポーの『楕円形の肖像』を読み上げる声は、ゴダール本人が吹き替えている。ルイジを演じるエリック・シュランベルジェも、ヌーヴェルヴァーグの映画作家たちと同世代のスイスの映画監督である。ジュークボックスの前にいる男を演じるジャン・フェラは作曲家で、本作の挿入歌を演奏している。兵士を演じるジャン=ポール・サヴィニャックは本作の助監督、けが人を演じるラズロ・サボはゴダール組の常連俳優である。アルベール・カミュやアンドレ・ブルトンと親交のあった哲学者ブリス・パランが、ナナと哲学を論じあう碩学として登場しているが、ゴダールの哲学の恩師である。
有名なのは、ナナが場末の映画館で、カール・テオドール・ドライヤーの『裁かるゝジャンヌ』(1928年、en:File:PassionJoanOfArc.png)を観て涙を落とすショット(en:File:Mylifetolive.jpg)である。のちにゴダールは、本作からちょうど40年が経過した2002年(平成14年)、10分の短篇映画『時間の闇の中で』の終り間際に、同ショットを直接モンタージュする。
ミッシェル・ルグランは、主題と11の変奏曲を作曲したが、ゴダールは1曲のみ選び、しかしそれを全編にわたり使用した。
1962年、イタリアのヴェネツィアで行なわれたヴェネツィア国際映画祭で、本作は金獅子賞にノミネートされコンペティションで正式上映された。結果、ゴダールは、パジネッティ賞および審査員特別賞の2賞を同時に獲得した。
構成
- タブロー Les Tableaux
- とあるビストロ - ナナはポールを棄ててしまいたい - 下にある機械
- un bistrot - Nana veut abandonner Paul - l'appareil à sous
- レコード屋 - 2,000フラン - ナナは自分の人生を生きている
- le magasin de disques - deux milles francs - Nana vit sa vie
- コンシェルジュ - ポール - 裁かるゝジャンヌ - あるジャーナリスト
- la concierge - Paul - la passion de Jeanne d'Arc - un journaliste
- 警察 - ナナの反対尋問
- la police - interrogatoire de Nana
- 外の大通り - 最初の男 - 部屋
- les boulevards extérieurs - le premier homme - la chambre
- イヴェットと会う - 郊外のとあるカフェ - ラウール - 外での銃撃
- rencontre avec Yvette - un café de banlieue - Raoul - mitraillade dehors
- 手紙 - またラウール - シャンゼリゼ
- la lettre - encore Raoul - les Champs-Elysées
- 午後 - 金銭 - 化粧室 - 快楽 - ホテル
- les après-midi - l'argent - les lavabos - le plaisir - les hôtels
- 若い男 - ルイジ - ナナは自分が幸せなのか疑問に思う
- le jeune homme - Luigi - Nana se demande si elle est heureuse
- 舗道 - あるタイプ - 幸福とは華やかなものではない
- le trottoir - un type - le bonheur n'est pas gai
- シャトレ広場 - 見知らぬ男 - ナナは知識をもたずに哲学する
- place du Châtelet - l'inconnu - Nana fait de la philosophie sans le savoir
- また若い男 - 楕円形の肖像 - ラウールは再びナナを売る
- encore le jeune homme - le portrait ovale - Raoul revend Nana
ストーリー
1960年代初頭のフランス、パリのとあるビストロ。ナナ・クランフランケンハイム(アンナ・カリーナ)は、別れた夫ポール(アンドレ・S・ラバルト)と、近況の報告をしあい、別れる。ナナは、女優を夢見て夫と別れ、パリに出てきたが、夢も希望もないまま、レコード屋の店員をつづけている。
ある日、舗道で男(ジル・ケアン)に誘われるままに抱かれ、その代償を得た。ナナは昔からの友人のイヴェット(ギレーヌ・シュランベルジェ)と会う。イヴェットは売春の仲介をしてピンハネして生きている。ナナにはいつしか、娼婦となり、知り合った男のラウール(サディ・ルボット)というヒモがついていた。ナナは無表情な女になっていた。
バーでナナがダンスをしているとき、視界に入ってきたひとりの若い男(ペテ・カソヴィッツ)。ナナの心は動き、若い男を愛しはじめる。そのころラウールは、ナナを売春業者に売り渡していた。
ナナが業者に引き渡されるとき、業者がラウールに渡した金が不足していた。ラウールはナナを連れて帰ろうとするが、相手は拳銃を放つ。銃弾はナナに直撃した。ラウールは逃走、撃ったギャングも逃走する。ナナは舗道に倒れ、絶命した。
スタッフ
キャスト
- ノンクレジット
評価
レビュー・アグリゲーターのRotten Tomatoesでは34件のレビューで支持率は88%、平均点は8.10/10となった[3]。
オマージュ曲
甲斐バンド「男と女のいる舗道」(作詞・作曲甲斐よしひろ)[4]
関連事項
関連書籍
- エドガー・アラン・ポー『ポオ小説全集 - 4 探美小説』所収、谷崎精二訳、春秋社、1998年9月 ISBN 4393450345
- エミール・ゾラ『ナナ』、川口篤 / 古賀照一訳、新潮文庫、2006年12月 ISBN 4102116044
註
外部リンク
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2000年代 | |
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共同監督 | |
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プロデューサー | |
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関連事項 | |
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監督作品以外の おもなジャン= リュック・ゴダール 出演作品 | |
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