V と W を体K 上のベクトル空間とする。カルテジアン積V × W に K 上のベクトル空間の構造を成分ごとに演算を定義することによって与えることができる (Halmos 1974, §18): v, v1, v2 ∈ V, w, w1, w2 ∈ W, α ∈ K に対して、
(v1, w1) + (v2, w2) = (v1 + v2, w1 + w2)
α (v, w) = (α v, α w)
得られるベクトル空間は V と W の直和 (direct sum) と呼ばれ、通常円の中にプラスの記号で表記される:
順序付けられた和の元を順序対 (v, w) ではなく和 v + w として書くのが慣習である。
V ⊕ W の部分空間 V × {0} は V に同型でありしばしば V と同一視される。{0} × W と W に対しても同様。(以下の内部直和を見よ。)この同一視をして、V ⊕ W のすべての元は1つ、そしてただ1つの方法で V の元と W の元の和として書くことができる。V ⊕ W の次元は V と W の次元の和に等しい。
加法的に書かれるアーベル群G と H に対して、G と H の直積 (direct product) はまた直和 (direct sum) とも呼ばれる (Mac Lane & Birkhoff 1999, §V.6)。したがってカルテジアン積G × H は成分ごとに演算を定義することによってアーベル群の構造が入る: g1, g2 ∈ G, h1, h2 ∈ H に対して、
(g1, h1) + (g2, h2) = (g1 + g2, h1 + h2)
整数を掛けることは成分ごとに次のように同様に定義される。g ∈ G, h ∈ H と、整数n に対して、
n(g, h) = (ng, nh)
これはベクトル空間の直和に対するスカラー倍と同様の定義である。
得られるアーベル群は G と H の直和 (direct sum) と呼ばれ、通常円の中にプラスの記号で表記される:
順序付けられた和の元を順序対 (g, h) ではなく和 g + h として書くのが慣習である。
G ⊕ H の部分群 G × {0} は G に同型でありしばしば G と同一視される。{0} × H と H に対しても同様。(以下の「内部直和」を参照。)この同一視をして、G ⊕ H のすべての元は1つ、ただ1つの方法でG の元と H の元の和として書けるということが正しい。G ⊕ H のランクは G と H のランクの和に等しい。
R を環とし {Mi : i ∈ I} を集合I で添え字づけられた左 R-加群の族とする。すると {Mi} の直和 (direct sum) はすべての列 の集合、ただし であり有限個を除くすべての添え字 i にたいして 、と定義される。(直積(英語版) (direct product) は類似だが添え字は有限個を除くすべてで消える必要はない。)
それはまた次のようにも定義できる。I から加群 Mi の非交和への関数 α であって、すべての i ∈ I に対して α(i) ∈ Mi であり有限個を除くすべての添え字 i に対して α(i) = 0 であるようなもの。これらの関数は 上のファイバーを として添え字集合 I 上のファイバー束の有限台断面として同値に見なすことができる。
この集合は成分ごとの和とスカラー倍を経由して加群の構造を引き継ぐ。具体的には、2つのそのような列(あるいは関数) α と β はすべての i に対して (これは再び有限個を除くすべての添え字に対して 0 であることに注意する)と書くことによって足すことができ、そのような関数は R の元 r によってすべての i に対して と定義することによって掛けることができる。このようにして、直和は左 R-加群になり、それは
直和は加群 Mi の直積(英語版)の部分加群である(Bourbaki 1989, §II.1.7)。直積は I から加群 Mi の非交和へのすべての関数 α で α(i)∈Mi となるものの集合であるが、有限個を除くすべての i で消える必要はない。添え字集合 I が有限であれば、直和と直積は等しい。
加群の各 Mi は i とは異なるすべての添え字上で消える関数からなる直和の部分加群と同一視できる。これらの同一視をして、直和のすべての元 x は1つ、そしてただ1つの方法で加群 Mi たちの有限個の元の和として書ける。
Mi が実はベクトル空間であれば、直和の次元は Mi の次元の和に等しい。同じことはアーベル群のランクと加群の長さに対しても正しい。
体 K 上のすべてのベクトル空間は十分たくさんの K のコピーの直和に同型であり、したがってある意味考えられなければならないのはこれらの直和だけである。これは任意の環上の加群に対しては正しくない。
テンソル積は次の意味で直和上分配する: N が右 R-加群であれば、N の Mi とのテンソル積(これはアーベル群)の直和は自然に N の Mi の直和とのテンソル積と同型である。
直和はまた(同型を除いて)可換であり結合的である、つまりどんな順番で直和を作ろうが関係ない。
直和からある左 R-加群 L への R-線型準同型の群は自然に Mi から L への R-線型準同型の群の直積に同型である:
M を R-加群とし、Mi (i ∈ I) はすべて M の部分加群とする。すべての x ∈ M が Mi の有限個の元の和として一通り、かつ一通りに限り書くことができるならば、M は部分加群の族 Mi の内部直和 (internal direct sum) であると言う (Halmos 1974, §18)。この場合、M は、上で定義された Mi たちの(外部)直和と自然同型である (Adamson 1972, p.61)。
M の部分加群 N が M の直和成分または直和因子 (direct summand) であるとは、M の別の部分加群 N′ が存在して M は N と N′ の内部直和となるときにいう。このとき、N と N′ は互いに補(complementary submodule; 相補部分加群、ベクトル空間の場合相補部分空間)であるという。
普遍性
圏論の言葉では、直和は余積でありしたがって左 R-加群の圏の余極限である、つまりそれは以下の普遍性によって特徴づけられる。すべての i ∈ I に対して、 Mi の元を i を除くすべての変数に対して 0 である関数に送る自然な埋め込み
を考えよ。fi : Mi → M がすべての i に対して任意の R-線型写像であれば、ちょうど1つの R-線型写像
マックス・ツォルンは、古典的なケイリー–ディクソン構成では先の (ℂ, z2) の系列に属する代数の部分多元環として生じるいくつかの合成代数(特に分解型八元数)を取りこぼしてしまうことに気が付いた。そのために修正されたケイリー–ディクソン構成(これもまたもとの多元環 A から直和 A ⊕ A を作る方法に基づく)は、実数、分解型複素数、分解型四元数(英語版)、分解型八元数の系列を作るのに利用される。
バナッハ空間の直和
二つのバナッハ空間X, Y の直和とは、X と Y を単にベクトル空間と見なしてとった直和に、ノルムを
によって定めたものをいう。
一般に、バナッハ空間の族 Xi で、添字 i は添字集合I をわたるものとするとき、直和 は、I上で定義された函数 x であって、x(i) ∈ Xi (∀i ∈ I) かつ
を満たすものすべてからなる加群である。ノルム ‖ x ‖ は上記の和で与えるものとすれば、このノルムを伴った直和は再びバナッハ空間となる。
例えば、添字集合を I = N にとり Xi = R であれば、直和 ⊕i∈NXi はノルム ‖ a ‖ ≔ ∑ i|ai| が有限となる実数列 (ai) 全体の成す数列空間 l1 である。
バナッハ空間 X の閉部分空間 A が補空間を持つ (complemented) とは、X の別の閉部分空間 B が存在して X は内部直和 A ⊕ B に等しいことをいう。必ずしもすべての閉部分空間が補空間を持つわけでないことに注意しよう、例えば零列の空間 c0 は有界数列の空間 l∞ において補空間を持たない。
双線型形式付き加群の直和
I を添字集合とする、双線型形式を備えた加群の族{(Mi, bi) : i ∈ I} に対し、それらの直交直和 (orthogonal direct sum) とは、単に加群としてのそれらの直和であって、
無限個のヒルベルト空間 Hi (i ∈ I) が与えられたときにも、同じ構成を行うことができる(内積の定義に際して、非零な成分は有限個ゆえ実質有限和となることに注意する)。ただし得られるのは内積空間にはなるけれども、必ずしも完備にならない。そこで、この内積空間の完備化をヒルベルト空間 Hi のヒルベルト空間としての直和と定義する。
あるいは同じことだが、I 上定義された函数 α で
を満たすもの全体の成す空間として Hi たちのヒルベルト空間の直和を定義することもできる。このとき、そのような函数 α と β の内積は
で与えられる。この空間は完備であり、確かにヒルベルト空間が得られている。
例えば、添字集合を I = N にとり Xi = R とすれば、直和 はノルム ‖ a ‖ ≔ √∑ i |ai| が有限となる実数列 (ai) 全体の成す空間 l2 である。これをバナッハ空間の例と比べると、バナッハ空間の直和とヒルベルト空間の直和は必ずしも同じではないことがわかる。しかし有限個の成分しかないならば、バナッハ空間の直和はヒルベルト空間の直和と同型である(ノルムは異なるかもしれないが)。