ベルナルディーノ・デ・サアグン
ベルナルディーノ・デ・サアグン (Bernardino de Sahagún、1499年 ?[ 1] [ 2] - 1590年 10月23日 )は、スペイン のフランシスコ会 修道士 。メキシコ で60年以上にわたってキリスト教の宣教活動を行い、ナワトル語 とスペイン語 の2言語による百科全書的な絵文書『ヌエバ・エスパーニャ概史 (スペイン語版 ) 』を編纂した。
生涯
レオン のサアグン で生まれた[ 3] 。サラマンカ大学 で学び、司祭に叙階された後、1529年にヌエバ・エスパーニャ (メキシコ )に派遣された。1536年にトラテロルコ (現在のメキシコシティ の一部)にコレヒオ・デ・サンタ・クルスが設立されると、そこで現地の有力者の子弟をキリスト教に改宗させ、またスペイン語 とラテン語 を教えた[ 3] [ 4] 。
サアグンは自らナワトル語 を学習し、アステカ の風習や宗教を研究した。1558年ごろ、教会管区 長のフランシスコ・デ・トラルは、キリスト教の布教に役立つであろう現地人の歴史や習慣に関する事柄を書物にまとめるように正式にサアグンに命じた[ 5] 。サアグンは現地の長老を集めて宗教・歴史・習慣・動植物などについて質問を出し、それをナワトル語・スペイン語・ラテン語に通ずる4人の現地人の学生の助けを借りて記述した。このためサアグンは現代の民族誌 学者の父とも呼ばれる[ 5] 。
1568年までに全12巻にわたる概史が完成し、翌年清書された。初期の原稿ではスペイン語、ナワトル語、注釈の3つに欄を分けていたが、完成した本ではナワトル語のみになった[ 5] 。ほかに文法書とナワトル語・スペイン語・ラテン語の辞書を編纂した[ 3] 。
サアグンの著書については賛否の評価が分かれたが、新任のフランシスコ会総監(comisario general)であるロドリーゴ・デ・セケラはサアグンを支持し、その勧めによってスペイン語の翻訳を加えた2言語版が作られた[ 6] 。しかし、一部の修道士はサアグンの著書を現地の偶像崇拝や古い祭儀を奨励する危険なものと考え、インディアス枢機会議 に訴えた。この結果、1577年にフェリペ2世 はサアグンの著書を調査のためにスペインに送るよう命令した[ 7] 。サアグンの著書は出版されなかった。
サアグン自身はメキシコの伝統的な神々を悪魔と考え、現地の人々に偶像崇拝をやめさせようとしたが、晩年の1585年になってもまだ伝統的な信仰が残っていることを嘆いている[ 8] 。その一方で現地の人々の倫理にヨーロッパより優れた所があることも認めている[ 9] 。
1583年にナワトル語のキリスト教聖歌集『Psalmodia Cristiana』が出版された。これはサアグンの生前に出版された唯一の著書だった[ 10] 。
1590年に現在のメキシコシティで没した。
著書
フィレンツェ絵文書 巻9
1783年に年代記作家のフアン・バウティスタ・ムニョスがトロサ のフランシスコ会修道院で『ヌエバ・エスパーニャ全史』 (Historía universal de las cosas de la Nueva España ) と題のつけられたスペイン語のみの写本を再発見した。トロサの写本は後にマドリード の王立歴史アカデミーの所有に帰した。1829-1830年にメキシコの歴史学者カルロス・マリア・デ・ブスタメンテ (スペイン語版 ) によって出版された。また、イギリス の収集家キングズボロー公 によって出版された『メキシコの古物』(全9巻、1831-1849)にも収録された[ 11] 。しかしどちらも原書にあまり忠実ではなかった[ 10] 。
ナワトル語とスペイン語で書かれた初期の原稿もマドリードの王立歴史アカデミーとマドリードの王宮 が所蔵している。この本は『マドリード絵文書』と呼ばれ、おそらく1570年代にスペインに送られたものという[ 10] 。なお、1569年に完成したナワトル語のみの本は現存していない[ 6] 。
フィレンツェ のラウレンツィアーナ図書館 (英語版 ) が所蔵する本は『フィレンツェ絵文書 (英語版 ) 』と呼ばれ、ページを左右に分けて左にスペイン語・右にナワトル語が記されている。挿絵の数は1846枚にのぼり、大部分は彩色されている[ 12] 。この本はロドリーゴ・デ・セケラによって1580年にスペインにもたらされ[ 6] 、おそらく1588年ごろにラウレンツィアーナ図書館の蔵本になった[ 12] 。この本は遅れて1979年にはじめて複製が出版された[ 10] 。
研究が進むにつれて『ヌエバ・エスパーニャ概史』以外にもサアグンの著書がヨーロッパ各地に残っていることが判明した[ 13] 。
日本語訳
「メシコの戦争」-『征服者と新世界』「大航海時代叢書 12」岩波書店、1980年、新版1993年
『概史』の第12巻を1585年にサアグン自身が改訂版の訳書。小池佑二 訳
『神々とのたたかい Ⅰ』「アンソロジー新世界の挑戦 」岩波書店、1992年
『ヌエバ・エスパーニャ概史』の抄訳版。 篠原愛人・染田秀藤 訳
脚注
^ Portilla (2002) p.30
^ Carrasco (2001) p.105
^ a b c カトリック百科事典
^ Carrasco (2001) p.106
^ a b c Carrasco (2001) p.107
^ a b c Carrasco (2001) p.108
^ Portilla (2002) p.8
^ Portilla (2002) pp.6-7
^ Portilla (2002) pp.8-9
^ a b c d Carrasco (2001) p.110
^ Portilla (2002) pp.12-13
^ a b Carrasco (2001) p.111
^ Portilla (2002) pp.14-15
参考文献
外部リンク
フランシスコ会士 修道院 教会・伝道施設 関連項目 派出・系列修道会