この項目では、アジアスイギュウについて説明しています。その他のスイギュウについては「アフリカスイギュウ 」、「ウシ族 」をご覧ください。
スイギュウ (水牛、英 : Water buffalo )は、哺乳綱 偶蹄目 (鯨偶蹄目 )ウシ科 アジアスイギュウ属に分類される偶蹄類。同じウシ族 で水辺を好むアフリカスイギュウ などと区別するため、アジアスイギュウ 、インドスイギュウ ともいう。
ウシ (牛)とは全くの別種であるため、ブタ とイノシシ のような交配 (イノブタ )は出来ない[ 3] 。味は牛肉 に似ているが肉が硬く、煮込むか干さないと食用に適さない。ヒンドゥー教 で神聖とされるのは牛(ガヤ、गाय)、特にインド瘤牛 であり、水牛(पानी भैंस)は異なる種類の動物で魔神マヒシャ の化身、魔神ヤマ の乗り物である。そのため、非菜食主義のヒンドゥー教徒にも食されたり、犠牲獣 として山羊 や羊 と共に用いられる[ 4] [ 5] [ 6] 。
野生種はアジアスイギュウ Bubalus arnee 、家畜種はスイギュウ Bubalus bubalis に大別され[ 7] 、家畜種にも多数の品種がある(参照 )。
分布
インド 、タイ 、ネパール、バングラデシュ 、ミャンマー に自然分布[ 8] [ 9] 。家畜と交雑したと考えられている個体群 がインド、インドネシア 、カンボジア 、スリランカ 、タイ、バングラデシュ、ベトナム 、マレーシア 、ミャンマー、ラオス に分布[ 9] 。家畜が野生化した個体群がアルゼンチン 、オーストラリア (ノーザンテリトリー )、チュニジア 、ヨーロッパ などに分布[ 8] [ 9] 。
有史以前はアフリカ大陸 北部から黄河 周辺にかけて分布していたと考えられている[ 9] 。
形態
体長 240-300センチメートル [ 9] 。尾長60-100センチメートル[ 9] 。肩高150-190センチメートル[ 9] 。体重 700-1200キログラム [ 9] 。喉から胸部にかけて垂れ下がった皮膚はなく、また肩から背中にかけて隆起しない[ 9] 。頸部腹面に三日月状の白色斑が入るが[ 8] 、個体変異や地域変異が大きい[ 9] 。四肢下部の体毛は白い[ 8] [ 9] 。
最大角長194センチメートル[ 9] 。角の断面は三角形[ 9] 。
スイギュウは成長すると体重 最大1200キログラムになり、一般的にオスは1000キログラム前後、メスは750キログラム前後であるが、体重は近縁にあっても大きく変動する。
「沼沢型」のスイギュウはアジアの東半分で主に見られ、48本の染色体 をもつ。「河川型」はアジアの西半分でよく見られ、50本の染色体をもつ。この2タイプ間では一代雑種 をもうけられる[ 10] 。60本の染色体をもつ家畜のウシ との交雑では受精卵 の卵割 が開始されることもあるが、妊娠まで至った報告は無い[ 11] 。
生態
河畔林 、草原 、沼沢地 、河川 やその周辺などに生息する[ 8] [ 9] 。1-2頭のオスと複数頭のメスで10-30頭からなる群れを形成して生活するが、100頭以上に達する大規模な群れを形成することもある[ 9] 。オスの若獣のみで約10頭の群れを形成する[ 9] 。水浴びを行い、また避暑や虫除けに泥浴びも行う[ 8] [ 9] 。
植物食の反芻 動物で、主に草 を食べるが木の葉も食べる[ 9] 。ウシ と比べて1回の採食量が少なく、採食回数が多く、反芻時間が長い。家畜のスイギュウは、道端の雑草や作物残渣のような難消化性で栄養価の低い飼料のみを与えられることも多いが、同様の飼料で育てた場合はウシより肥育状況が良いとされる[ 10] 。
繁殖形態は胎生 。妊娠期間は300-340日[ 9] 。1回に1頭の幼獣を産む[ 9] 。授乳期間は6-9か月[ 9] 。生後2年で性成熟する[ 9] 。
天敵として インドライオン 、トラ 、ドール 、イリエワニ 、コモドオオトカゲ がいる。
生息域
開発による生息地の破壊、角目的や食用の乱獲、家畜との競合や交雑などにより生息数は減少している[ 9] 。
中華人民共和国 では8000-9000年前から家畜化されていた[ 9] 。
沖縄県 竹富島 で観光用の水牛車を引くスイギュウ
スイギュウは粗末な食べ物で成長して肉や乳を得られるだけでなく、ウシ よりも沼地での行動に適応しているため水田 での労働力としても有用であり、経済的に非常に優れた動物である。また、日本 の沖縄県 の由布島 や竹富島 では観光用に水牛車 として用いられている。
野生種は現在主に東南アジア に生息しているが、原産地 は明らかでない。現在の野生種がもともとの野生種の末裔であるか、それとも以前家畜化されていたものが野生化したのかははっきりせず、あるいはそれらの混血 であることも考えられる。
アジア
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(2023年4月 )
タイ王国 のスイギュウ
アジアはスイギュウの原産地であり、現在でも世界 の95%が生息している。多くのアジアの国でスイギュウは最も生息数の多いウシ科の動物であり、1992年時点でのアジア全体でのスイギュウの数は1億4100万頭と見積もられている。内、インドが最も多く、中華人民共和国では、2300万頭程度と見積もられる。
タイ東北地方 で飼育されるスイギュウ。道路や農地脇の草を、家畜 のスイギュウに食ませる。住民は、現地の資源、ローカル・コモンズ の利用に長けている。
野生のスイギュウが生息する地域はほとんどなく、少数がインド、ネパール、ブータン、タイで見られる。ふつう草原や沼沢地にて群で行動している。
スイギュウの持つ角 は平均1メートル ほどで、生き物の中では最も長く、1955年 に射殺されたスイギュウは4.24メートルもある角を有していた。
スイギュウ (Carabao) はフィリピン の国の動物 とされている。
インド などで信仰されているヒンドゥー教 では、コブウシ が神聖な動物として崇拝の対象となっている。しかし、スイギュウに関しては、ヒンドゥーの教義上、通常の牛 とは明確に区別され、崇められていない。よってその肉は、非ベジタリアン には食用にも用いられる。そのため、スイギュウから採れた肉は様々な分野で利用され、輸出もされている。インド産水牛の肉の輸出先は、主に中東 やアフリカ 、東南アジア である。2012年には、世界有数の牛肉輸出国のブラジル やオーストラリア を抜いて、インドが世界一の輸出量となる見通し。ただし、ヒンドゥー教としては問題なくとも、インド国民においては、水牛の殺生についても忌避感が非常に強く、市民団体などは輸出増に懸念を示している[ 12] 。
欧州・近東
スイギュウは北アフリカと近東 には紀元600年 ごろに持ち込まれた。ヨーロッパには十字軍 の帰還と共にもたらされ、群はブルガリア やイタリア で見ることができる。アジアと同じように、中東や欧州のスイギュウは辺境の農村地で草を食べて生活している。スイギュウはタンパク源や役蓄、または家族の財産としての経済的役割をもっている。地域によっては毎年スイギュウのレースが開催されている。
オーストラリア
スイギュウは19世紀 初頭に荷物運搬用としてノーザンテリトリーに持ち込まれたが、すぐに逃げ出して野生化した。これらは狩猟 の対象となり、狩猟地として有名なメルビル島 には4000頭ほどの個体が生息している。スイギュウはアーネムランド 半島やノーザンテリトリー北部でも見られる。ダーウィンからメルビル島や他のノーザンテリトリー北部へ飛行機を使っての狩猟旅行がよく行われている。政府は何度か根絶を試みたが成功していない。
スイギュウは主に淡水の沼や水路に住み着いており、雨季には生息域が非常に広範囲となる。また、遺伝的に孤立しているため、外見はインドネシアの原種とは変わりつつある。
ブラジル
ブラジルのマラジョ島 に約50万頭が生息している[ 13] 。
人間との関係
乳
スイギュウの乳 は、分布地で多くの人々が飲用や加工用に利用しており、脂肪 分が8%程度と家畜の中で最も多く、ギー (インド などで料理に使われる澄ましバター )の主要な原料となる。鉄分 、ビタミン 類、乳糖 なども、一般に、ウシの乳よりも豊富に含まれている。
また、タンパク質 も、チーズ などの伝統的な材料となっている。南イタリア カンパニア州 のサレルノ やカゼルタ の周辺は水牛乳で作るフレッシュチーズ 、モッツァレッラ・ディ・ブーファラ・カンパーナ (Mozzarella di Bufala Campana)の産地となっている。また、中国 雲南省 のフレッシュチーズルービン (乳餅)や板状に伸ばして干したルーシャン (乳扇)、フィリピン のケソンプティ にも用いられる。
中華人民共和国の南部 では、水牛は重要な役畜 であるが、水牛乳を、大良牛乳 、牛乳プリン 、ホワイトクリーム など、さまざまに加工して利用する順徳料理 のような例もある。
肉
スイギュウの肉 (carabeef と呼ばれることもある)は地域によっては牛肉として流通しており、最も多くのスイギュウを飼育しているインドでは主要な輸出 品目となっている。中国でも広東料理 などでは、水牛の肉もよく利用してきたが、肉質が堅いのが難点であり、煮込み料理に適する。インドやネパールなどのヒンドゥー教徒は牛を神聖視すると言われているが、これは瘤牛 のことであり、全くの別種である水牛は家畜にも用いられ、その肉も食肉として流通している。何故ならヒンドゥー教においては水牛は魔神マヒシャの化身のひとつであり、死者の王ヤマの乗り物とされているため、敬虔なヒンドゥー教徒の場合は避ける人も珍しくなく、神聖視されているコブ牛との扱いに大差がある。インド国内での水牛肉の消費は主にイスラム教徒向けや日本人を含む外国人向けレストランなどだが、非菜食主義のヒンドゥー教徒にも消費されている[ 4] 。
革
スイギュウの革 は強靭で利用しやすく、靴 やオートバイ のヘルメット に使われている。
角
角 は、印鑑 、三味線 の駒 、櫛 、和包丁 の柄 、ボタン 、置物などの角細工に使われる。また、犀 角同様に酒器 が作られることもある。日本刀 の外装(拵 )の各部の部材としても広く用いられた。
糞
アフリカ からアジア にかけて燃料とする例が多い。ワラを混ぜ乾燥させた糞 が燃料 として使われている。アフリカなどでは虫除けに土で作る家の材料とする例もある。
関連項目
ウィキメディア・コモンズには、
スイギュウ に関連する
メディア および
カテゴリ があります。
ウィキスピーシーズに
スイギュウ に関する情報があります。
脚注
注釈
出典
^ Kaul, R., Williams, A.C., rithe, k., Steinmetz, R. & Mishra, R. 2019. Bubalus arnee . The IUCN Red List of Threatened Species 2019: e.T3129A46364616. doi :10.2305/IUCN.UK.2019-1.RLTS.T3129A46364616.en . Accessed on 21 November 2022.
^
CITES homepage
^ “水牛のはなし 3 牛との違い ”. KURKKU FIELDS(クルックフィールズ)– 人と農と食とアート - (2020年11月20日). 2022年2月11日 閲覧。
^ a b 『ヒンドゥー教 -インドの聖と俗』p.170-182、森本達雄、2003 中公新書
^ a b “日本初の「国産水牛」料理が味わえる! 超本格派のネパール料理専門店『月と太陽』【大阪・中津】 - dressing(ドレッシング) ”. dressing(ドレッシング) - フードライフに彩りを! . 2022年2月11日 閲覧。
^ a b “[ネパール・バフ 神聖ではないほうの牛が安くて美味い]”. 旅するメディア:世界新聞 (2014年12月7日). 2022年2月11日 閲覧。
^ 今泉吉典 監修「アジアスイギュウ属」『世界哺乳類和名辞典』平凡社、1988年、401-402頁。
^ a b c d e f 今泉吉典 監修 D.W.マクドナルド編 『動物大百科4 大型草食獣』、平凡社 、1986年、107、112頁。
^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x 小原秀雄 「アジアスイギュウ」、小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著 『動物世界遺産 レッド・データ・アニマルズ4 インド、インドシナ』、講談社 、2000年、46、155頁。
^ a b 本間秀彌「〈総説〉水牛の飼料消化生理を特色づける水浴習性 」『筑波大学農林技術センター研究報告』第17号、筑波大学農林技術センター、2004年、1-9頁、hdl :2241/10091 、ISSN 09153926 、NAID 120000841175 。
^ Kochhar, HPS; Rao, KBC Appa; Luciano, AM; Totey, SM; Gandolfi, F; Basrur, PK; King, WA (2002). “In vitro production of cattle-water buffalo (Bos taurus-Bubalus bubalis) hybrid embryos” . Zygote (Cambridge University Press) 10 (2): 155-162. doi :10.1017/S0967199402002216 . https://doi.org/10.1017/S0967199402002216 .
^ “牛肉輸出量、世界一に懸念も…その意外な国とは” . 読売新聞 . (2013年1月5日). https://web.archive.org/web/20130108232728/http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20130105-OYT1T01184.htm
^ “水牛パトロール隊、島の水辺で威力を発揮 ブラジル ” (2023年9月16日). 2024年1月1日 閲覧。
外部リンク