WM20シリーズは、オランダのシグナール(現在のタレス・ネーデルラント)社が開発した艦載用の射撃指揮装置(FCS)。
来歴
1950年代、シグナール社は戦後第1世代のFCSとして、ボフォース 152mm砲用のM1、ボフォースMk.1 57mm砲用のM2、ボフォース 40mm機関砲用のM4を開発した[2]。M1・2はSバンドで動作し、送信機の送信尖頭電力は400キロワット、パルス幅は0.5マイクロ秒、パルス繰返数は1,000 ppsで、アンテナとしては円形のパラボラアンテナを用いた。一方、M4はXバンドで動作し、特徴的な形のパラボロイドアンテナを用いた。
これに続いて開発されたM40シリーズでは、周波数はXバンド、またアンテナはエンクローズされたパラボラアンテナとなった[2]。アンテナはロール方向およびピッチ方向に安定化されており、空中目標に対してはコニカルパターン、水上目標に対しては楕円パターンでのスキャンを行った[2]。射撃計算およびレーダー情報処理のためにはSMRデジタルコンピュータが用いられていた[2]。M44はシーキャット個艦防空ミサイル、M45は砲熕兵器を管制するために用いられる[2]。
そして1950年代後半、これらの後継機として開発されたのがM20シリーズであり、1961年のドイツ海軍のツォーベル級魚雷艇の就役とともに装備化された[2]。これはプログラム固定式のコンピュータを使用していたが、後にプログラム差し替え可能なコンピュータを用いたモデルも登場し、こちらはWM20シリーズと称された[2]。WM20シリーズのローンチカスタマーはノルウェー海軍で、1970年にストルム級ミサイル艇にWM26を搭載して装備化した[2]。
設計
M20/WM20シリーズのレーダー送信機としては、M40シリーズと同系列のものが用いられた。送信尖頭電力も同じく180キロワットが標準だったが、WM25では1 MWの交差電力増幅管 (CFA) を用いて200キロワットまで増強した[2]。
M20/WM20シリーズの特徴として、追尾レーダーと送信機を共用する捕捉レーダーを導入した点がある[2]。これらは特徴的な卵型のレドームに収容されており、上側に空中目標追尾用のカセグレンアンテナ、下側に捕捉用の変形パラボロイドアンテナが設置された[2]。ビーム幅は、捕捉用アンテナでは1.5×7.0度(後に7.7度)、追尾用アンテナでは2.4度であった[2]。捕捉用アンテナは毎分60回転の高速で旋回しており、水上目標の追尾はこれを用いた捜索中追尾(TWS)として行われた。
レーダー性能はタイプによって異なるが、一般に、捕捉レーダーは水平距離にして16–17 nmi (30–31 km)、また高度7,600メートルまでの目標を探知できる[2]。レーダー反射断面積(RCS)2平方メートルの目標であれば、距離30,500 yd (27,900 m)で探知、29,000 yd (27,000 m)で捕捉可能とされる。一方、追尾レーダーは約15.5海里(29km)までの範囲をカバーすることが可能であり、RCS 1平方メートルの空中目標なら最大速度900 m/s (1,700 kn)まで、また同程度の水上目標なら最大速度34–55 m/s (66–107 kn)まで対応可能である[2]。また別体の追尾レーダーとしてSTIRを連接して用いることもできる[2]。
各タイプ概要
- M20
- 空中目標1個と水上目標3個を追尾し、空中目標と水上目標各1個について砲熕兵器で交戦しつつ、魚雷2本を管制する能力を有する。
- WM20
- 基本的にはM20と同様の交戦能力を有するが、必要に応じて更に1個の水上目標と砲熕兵器で交戦する能力を付与することができる[2]。オペレータ3名または4名が配置される[2]。
- M22
- フリゲートまでの大きさの艦に搭載することを想定して、単独で用いるほかに対空捜索レーダーと連接しても用いることもできる[2]。2または3基の砲熕兵器を管制する能力を有しており、砲熕兵器2基の場合は空中目標と水上目標各1個、3基の場合は更に水上目標1個と交戦することができる[2]。オペレータ2名または3名が配置される[2]。
- WM22
- 基本的にはM22と同様の交戦能力を有するが、中口径砲2基と小口径砲2基を同時に管制できる[2]。また捕捉レーダーにはデジタル式のMTIを、追尾レーダーにはパルスドップラー処理を導入することができる[2]。
- WM24
- WM22を元に対潜ロケット砲や魚雷の管制能力を付与したモデル[2]。本シリーズのなかで唯一対潜戦に対応したモデルである。
- WM25
- フリゲートや駆逐艦への搭載を想定して[2]、艦対空ミサイルの誘導のための連続波照射(CWI)機能を付与したモデル。またこれに加えて、2基の砲熕兵器を同時に管制することができる[2]。オペレータ4または5名が配置される[2]。なお、もっと小型の艦艇に搭載することもできるが、この場合は艦対空ミサイルの管制能力は削除される[2]。
- WM26
- 高速戦闘艇への搭載を想定したモデルで、本シリーズのなかで唯一GW01レーダーを使用している[2]。これは捕捉レーダーのみを半球形レドームに収容したもので、戦闘機サイズの航空機を約15海里(28 km)、高度15,250 m(50,000フィート)で、艦船を約12海里(22 km)で探知することができる[2]。1基の中口径砲を制御して1つの水上または陸上目標と交戦しながら、局所制御で動作する小口径対空砲に目標を指定することができる[2]。また艦対艦ミサイルの目標探知にも使用される[2]。
- WM27
- 高速戦闘艇への搭載を想定したモデルだが、艦対空ミサイルのほかセミアクティブ・レーダー・ホーミング誘導の艦対艦ミサイルの運用も想定して、連続波照射(CWI)機能を付与されている[2]。また魚雷2本を管制することもできる[2]。
- WM28
- WM28をもとに駆逐艦への搭載を想定して強化したモデルで、魚雷の運用機能を削除するかわりに、2基目の砲熕兵器の管制能力が付与されている[2]。
アメリカ仕様
1964年、フォード・インストゥルメンツ社(後のスペリー社)がM22の製造ライセンスを取得した[2]。これはアメリカ海軍においてMk.87として制式化され[2]、アッシュヴィル級砲艇(英語版)の1964年度計画艇のうち2隻(アンテロープ・レディ)に搭載された。
1971年5月、アメリカ海軍作戦部長(CNO)執行委員会は、当時計画されていた哨戒フリゲート(PF)にもMk.87を搭載することを決定したが、実際に建造されたオリバー・ハザード・ペリー級ミサイルフリゲートにおいては、より高性能なMk.92が搭載された。これはスペリー社によるWM28のライセンス生産版であり、WM28の卵型レドームはMk.53 CAS(Combined Antenna System)となったほか、砲とともにSM-1MR艦対空ミサイルの射撃指揮も行うため、Mk.86 GFCSで採用されていたAN/SPG-60に所定の改修を加えたうえでMk.53 STIR(Separate Target Illumination Radar)として組み込まれた[2]。ペリー級の搭載システムでは、射撃計算などは艦のAN/UYK-7コンピュータで行っており、またCAS用にはMk.106、STIR用にはMk.107武器管制コンソールが配置された[2]。オペレーターは4名が配置された[2]。
Mk.92には、下記のようなバリエーションがある。
- Mod 0
- 海軍向けの最初期モデル。
- Mod 1
- 沿岸警備隊向けとして、SAM誘導能力とSTIRを省いたモデル。
- Mod 2
- ペリー級ミサイルフリゲート向けのモデル。Mk.107コンソールを有し、対空用チャンネルが2つに増やされている。
- Mod 5
- バドル級コルベット向けのモデル。
- Mod 6
- Mod 2にCORT(Coherent Receiver Transmitter)を適用し、低空目標への対処能力などを強化した改良型。
- Mod 12
- Mod 6をもとにSM-2MRおよびESSMの運用に対応したモデル。中間指令誘導に対応し、また、VLSにも対応させることができる。
なお、米海軍のペリー級では、コスト低減のため、順次にSM-1MRの運用能力を撤去しているが、これに伴ってMk.92のSTIRも撤去されている。
各モデルのチャンネル数と能力[6]
Mod番号 |
AAW |
ASuW |
SAM誘導能力
|
0
|
1
|
2
|
○
|
1
|
1
|
2
|
2
|
○
|
5
|
1
|
6
|
2
|
○
|
12
|
2
|
採用国と搭載艦艇
脚注
注釈
- ^ 国産のFCS-2の開発遅延に伴い、代替装備として導入された。はつゆき型護衛艦への搭載も検討されたが、FCS-2の開発成功に伴ってこちらは回避された。
出典
参考文献
- Friedman, Norman (1987), U.S. Small Combatants, Including PT Boats, Subchasers, and the Brown-Water Navy: An Illustrated Design History, Naval Institute Press, ISBN 978-0870217135
- Friedman, Norman (2004). U.S. Destroyers: An Illustrated Design History, Revised Edition. Naval Institute Press. ISBN 1-55750-442-3
- Friedman, Norman (1997), The Naval Institute Guide to World Naval Weapon Systems 1997-1998, Naval Institute Press, ISBN 978-1557502681
- Hooton, E.R., ed. (2002), Jane's Naval Weapon Systems (37th ed.), Jane's Information Group, ISBN 978-0710608932
- 河野守雄「射撃指揮装置GFCS-1及びFCS-2の研究開発」『第1巻 射撃』水交会〈海上自衛隊 苦心の足跡〉、2010年、226-233頁。