Il-78
Il-78M
Il-78(イリューシン78;ロシア語:Ил-78イール・スィェーミヂスャト・ヴォースィェミ)は、旧ソビエト連邦のイリューシン設計局で開発された空中給油機である。北大西洋条約機構(NATO)が用いたNATOコードネームでは、「マイダス」(Midas)と呼ばれた。
Il-78は、3MS-2の後継として当時のソ連で標準的大型ジェット輸送機であったIl-76の発展型として設計された空中給油機である。
1983年6月26日に初飛行が行われ、1984年より運用が開始された[1]。1987年3月7日には改良型のIl-78Mが初飛行している[1]。
ベース機であるIl-76の製造についてはこれまでウズベキスタンのTAPOiChが行ってきた。しかし生産された機体の利益分配をめぐる論争が発生したため、ロシアは生産をロシア国内のウリヤノフスクにあるアヴィアスタル-SPに移転し、改良型のIl-76MD-90Aの生産を開始した。これに伴いIl-78の生産もロシア国内に移転されIl-78M-90Aはロシアで初めて生産された空中給油機となった[2]。ロシアでの製造にあたっては作業の大部分はロボット化しており、組み立てプロセスは従業員の依存度が低くなっている。正確に組み立てるため組み立て作業はレーザー光学計測システムを使用して行われる。これにより以前は数日かかった胴体と主翼の接合が数時間に短縮された[2]。塗装には国内メーカーが開発した全ロシア科学物質科学研究所(VIAM)によって開発された特殊なエナメルのプライマーEP-0215およびEP-0208が用いられている[3]、
2012年より、PSZ(Perspektyvnyi Samolot Zapravshchik)プログラムとして開発が開始され。2015年2月24日より製造を開始した[4]。当初の初飛行予定は2016年[5]、ロシア空軍への納入開始が2018年であったが[6]、これは行われなかった。
最初の試作機(シリアル番号02-01)は2017年11月29日に公開された[7]。
2018年11月の発表では、Il-76MD-90Aに基づいた給油機の試作機は、2019年第1四半期に製造される予定[8]。
試作機は当初予定より2年遅れた2018年1月25日(公式では25日となっているが実際は19日[9])に、ロシア連邦英雄であるニコライ・ドミトリーヴィッチ・クイモフの手によって35分の試験飛行を実施した[2][10]。
4月には地上周波数試験を完了[11]、5月には、アヴィアスターSPによる燃料システムの検証を含む1段階の地上を試験を完了。7月にはイリューシンにおいて塗装され工場による飛行試験を開始予定とされていたが[12][13]。7月の地上試験完了、8月上旬より国家試験開始と、年末までの完了計画に変更された[14][15]。最終的に工場試験の一環として12月26日に飛行を行われたが[16]、国家試験完了は2021年に延期された[17]。
機体はIl-76をベースに格納庫に燃料タンク、胴体後部左側および両主翼の3箇所にNPP ズヴェズダが開発したUPAZ-1A空中給油ポッドを設置しており、ポッドからホースを延ばすことで同時に3機の航空機で給油が可能。3箇所のうち翼の2箇所は戦闘機用で胴体後部の1箇所は爆撃機への給油用である[18]。
Il-78Mを除けば、燃料タンクを外すことで通常の輸送機として使用でき、Il-78M-90Aの場合兵器や個人的な装備によるが167人から245人の兵士を運ぶことが可能[19]。必要に応じて消火整備を設置して消防機とすることも可能である[10][20]。
給油速度は通常型のIl-78で最大毎分2,300L[21]、Il-78Mで毎分2,900Lである[18]。Il-78M-90Aでは給油ポッドが自動化やデジタル化を進めたUPAZ-1Mに変更され、給油速度は毎分3,000Lとなる[22]。総燃料搭載量は110トン[23]
Il-76で機銃座があった場所には給油オペレーター席が設けられている。燃料の転送などはほぼ自動化されているためオペレーターの仕事はホースの伸縮や異常などのチェックなどのみである[24]。Il-78M-90Aではさらに自動化を進めており、オペレータ席が廃止されている。これはイリューシンが新開発した新しい給油管理システムにより実現したもので、システムは給油機や給油される側の機の位置、風速と方向、その他の気象データなど、数十のパラメータを制御し、この情報に基づいて、収束およびドッキングのプロセスの3Dモデルが数センチメートル以内に作成され、コックピットの画面に表示される。更にシステムは給油機や給油される側の機の位置を監視および修正を行う。これにより安全な空中給油が可能となった[25]。異なる3タイプの航空機の給油に対応しており、地上では4機の航空機に対して給油を行うことも可能である。
その他の事項としてIl-78M-90AではAvion社開発の新しいプライマーを適応した最初のロシア機となっている。このプライマーはVG-27というもので六価クロムを含まず健康への害が少なくなっている[15][26]。
53機が製造されている[1]。
アルジェリア
アメリカ合衆国
インド
パキスタン
リビア
ロシア
中国
イラン
ベネズエラ
1993年3月25日、USSR-76736がウズィーンにおいてキャビンが破壊されるという事故を起こした。事故機はスクラップとなった。
1998年7月17日、ウクライナのブソル航空(ロシア語版)のUR-UCIがエリトリアのアスマラで着陸に失敗して墜落し乗員10名が死亡した[59]。
統一航空機製造会社公式サイトより[60]