安村 典子(やすむら のりこ、1945年 - )は、日本の西洋古典文学者。専門は、ホメーロス・ギリシア神話。学位は、Ph.D.、金沢大学教授。
東京都生まれ。1967年国際基督教大学西洋古典学専攻卒業。神田盾夫、川田殖よりギリシア語とラテン語を学ぶ[1]。1967年より京都大学大学院文学研究科修士課程、松平千秋、岡道男のもとで西洋古典学を専攻し[1]、1971年に同大学院文学研究科博士課程を単位取得退学。翌1972年、ケンブリッジ大学大学院に留学し、ジョン・チャドウィックの指導を受ける[2]。帰国後は学習院大学、青山学院大学、一橋大学で講師を務める。1994年にケンブリッジ大学客員研究員、1996年に同大学院西洋古典学(Faculty of Classics)修士課程修了、さらに1997年にロンドン大学大学院博士課程修了。金沢大学では1997年以降、工学部、自然科学研究科、および文学部で教鞭を執る。2004年、ロンドン大学よりDoctor of Philosophy を授与[3]。
研究分野は西洋古典学であり、特にホメーロスの詩をはじめとしてゼウスの王権に対する挑戦とそれに類する神話的・文学的モチーフに関する研究に特徴がある。一例として2007年の論文「『オデュッセイアー』21巻の弓競技におけるテーレマコス」(岩波書店『西洋古典学研究』55号)では求婚者たちがオデュッセウスの妻ペーネロペーの新たな夫を決めるために挑んだ弓競技に、息子テーレマコスも参加するという不可解なエピソードを取り上げ、詩人が「父を打倒する子供」というギリシア神話のモチーフを聴衆に想起させることにより、偉大な父を乗り越えようとするテーレマコスの挑戦と、父と子の間の緊張および信頼関係を描き出そうとしたと論じ、その過程でオイディプースとの類似をも指摘している。こうした研究は後に "Challenges to the Power of Zeus in Early Greek Poetry" として結実し、イギリスの出版社ブリストル・クラシック・プレス(Bristol Classical Press)から出版されることとなる(2011年)。国際基督教大学教授の佐野好則はその書評で個々のテキストの背景にあるゼウス支配に対する挑戦という主題に対して広範な渉猟と丁寧なテキストの検討によって論じる労作と評している[4]。また講談社文芸文庫からアントーニーヌス・リーベラーリスの『メタモルフォーシス ギリシア変身物語集』も出版している(初訳、2006年)。
2010年に金沢大学を退職。その際に金沢大学の哲学・人間学研究会より『哲学・人間学論叢』が創刊されている[3][5]。