『南部の唄 』(なんぶのうた、原題: Song of the South )は、アメリカ合衆国 のウォルト・ディズニー・プロダクション により制作された実写 とアニメーション からなる1946年 11月12日 公開の長編映画 作品。日本 では1951年 10月19日 に公開された。
現在は、視聴が困難な作品になっている(後述)。
ディズニーリゾートの人気アトラクション「スプラッシュ・マウンテン 」は本作品が題材になっている(アメリカでは2023年に閉鎖)。
概要
原作は、ジョーエル・チャンドラー・ハリス 著の『リーマスおじさん(Uncle Remus)』シリーズの「Uncle Remus; His Songs and His Sayings. The Folk-Lore of the Old Plantation(1880年)」と「Nights with Uncle Remus(1883年)」で、二冊には約100話の小話が収録されている[ 1] 。
映画は南部の農場を舞台に、白人の少年・ジョニー と黒人のリーマスおじさん の心のふれあいを描く実写部分を軸に、リーマスおじさんが話すおとぎ話の部分がアニメーションとなっている。
1947年 度のアカデミー賞 では、「ジッパ・ディー・ドゥー・ダー (Zip-a-Dee-Doo-Dah)」[ 注 1] がアカデミー歌曲賞 を、リーマスおじさんを演じたジェームズ・バスケット (James Baskett )が特別賞を受賞している。
あらすじ
白人の少年・ジョニー とその家族は、アトランタから南部の農場へ移住することになった。父親・ジョン は仕事でアトランタへ戻ってしまい、寂しい思いのジョニーを慰めたのは、農場の下働きの黒人・リーマスおじさん のおとぎ話だった。
小さなブレア・ラビット が意地悪なブレア・フォックス とのんびり屋だが怒ると乱暴者になるブレア・ベア を知恵でやりこめるリーマスおじさんの話は、楽しく機知に富んでおり、ジョニーは黒人の少年・トビー や近所に住む少女・ジニー と一緒におじさんの話にのめりこむのだった。しかし、ジョニーを素直で従順な少年に育てたいジョニーの母親・サリー は、ジョニーがリーマスおじさんの話に夢中になるのを快く思っていなかった。
ジョニーの誕生日パーティーが催されたある日、ジニーは兄たちにひどく苛められて、迎えに来たジョニーの目の前でドレスをどろどろに汚されてしまい、立ち向かったジョニーも返り討ちに遭い、コテンパンに叩きのめされた上に服をボロボロにされ、駆けつけたリーマスおじさんに助けられる。
パーティーに行けなくなった二人のために、リーマスおじさんは「ブレア・ラビットの笑いの国」の話をして二人を励ますのだが、おとぎ話に夢中になってパーティーを欠席したと怒ったサリーは、リーマスおじさんに二度とジョニーに近づかないようにと解雇を言い渡してしまう。
リーマスおじさんが農場を去った事を知ったジョニーは、リーマスおじさんがジョンと同じようにアトランタに行ってしまうと恐れ、慌ててリーマスおじさんの後を追うが、誤って暴れ牛のいる放牧場に入ってしまい、サリーの目の前で牛に突き飛ばされ、重症を負ってしまう。ジョニーが怪我を負った事を知ったジョンは急いでアトランタから農場へと駆けつけるが、サリーやジョンがいくら耳元で呼びかけても、ジョニーの意識は戻る事なく、「リーマスおじさん、帰ってきて」とうわ言を繰り返すばかりだった。
その時、やはり事の次第を知ったリーマスおじさんが農場へと引き返してくる。ジョニーの祖母に連れられ、枕元へとやってきたリーマスおじさんがもう一度「ブレア・ラビットの笑いの国」の話を聞かせると、その声に導かれるようにジョニーは意識を取り戻した。その様子を見たジョンは「もうアトランタへは行かない」と約束し、サリーもジョニーの気持ちを理解してあげなかった事を反省する。そんな親子の姿をリーマスおじさんは微笑ましく見つめた。
こうしてリーマスおじさんの解雇は撤回され、無事に怪我も治ったジョニーや、トビー、ジニー達が仲良く遊んでいるのを温かく見守る。そこにはなぜか、あのブレア・ラビットや仲間たちの姿もあった事に驚かされながらも、この素晴らしい日への喜びを込めた歌「ジッパ・ディー・ドゥー・ダー 」を歌った。
キャスト
スプラッシュ・マウンテンでのブレア・ラビット、ブレア・フォックス、ブレア・ベアの声は、ポニー版の声優を起用している。
実写の登場人物の歌唱部分について、ポニー版では原音対応[ 注 4] だが、ブエナ・ビスタ版では歌唱部分も吹替ている。
スタッフ
黒人描写に関する論争・封印
本作は、黒人の扱いについて大きな論争を巻き起こしている。
初公開時、全米黒人地位向上協会 (NAACP)の事務局長であるウォルター・フランシス・ホワイトは、各マスメディアに以下の声明を発表し抗議した。
全米黒人地位向上協会は、『南部の唄』での音楽、生きた俳優と漫画を組み合わせる技法における顕著な芸術的功績は認めています。しかし、内容が(アメリカ)北部と(アメリカ)南部両方の観客を怒らせないように努めたことで、この作品は危険なほど美化された奴隷制のイメージを永続させるのに役立つこととなり残念に思います。美しいリーマスじいやの民話を利用し、残念ながら『南部の唄』は事実の歪曲である(奴隷との関係が)牧歌的な主従関係であった印象を後世に与えてしまいます。 — ウォルター・フランシス・ホワイト[ 3]
ただし、ホワイトは声明発表時点で映画を見ておらず、実際はプレ上映に出席したNAACPのノーマ・ジェンセンとホープ・スピンガーンから受け取ったメモに基づき発表している。
ディズニーは公開前、「(原作の)ハリスの本のように、映画の舞台は南北戦争 後であり、映画のすべてのアフリカ系アメリカ人 のキャラクターは奴隷ではない」と述べている[ 4] 。これを聞いたヘイズ・コード事務所 はディズニー側に、その証明のため本編内に日付を書くなど舞台が(南北戦争後の)1870年代と明らかに分かる描写を入れることを求めたものの、公開された映画にはそのような場面は無かった[ 3] 。Jim Hill Media の記者ジム・コーキスは、物語の舞台が奴隷制廃止後のリコンストラクション の時代であることが明確でなかったがために、ジェンセンとスピンガーン、そして当時の評論家たちは、映画のトーンや似た映画のタイプによって奴隷制時代が舞台と勘違いしたと指摘している。コーキスはこうした誤解に基づく評論の例として、「南北戦争前の南部を描いた茶番劇」と評した当時のニューヨーク・タイムズ の作品評を挙げた [ 5] 。
封切りイベントはジョージア州 アトランタ で開かれたが、主な白人俳優は勢揃いする一方、主演のジェームズ・バスケットは黒人であったため参加できなかった[ 注 5] 。
1947年4月2日には、抗議グループがカリフォルニア州 の劇場周辺を「奴隷制ではなく民主主義に関する映画が欲しい」「子供たちに偏見を伝えるな」と書かれた看板を掲げ行進した[ 6] 。
また、他にも黒人キャラクターの従順な地位や衣装、誇張された方言、古風な描写など、ステレオタイプ なイメージを強化してしまうという批判がされた[ 7] 。
公開の自粛
アメリカでは、公開40周年記念でリバイバル上映された1986年以降、ディズニー側の自主規制により一度も再公開されていない[ 8] 。
日本ではかつてVHS およびレーザーディスク が発売されていた他レンタルビデオ の取り扱いも行われていたが、1992年にスプラッシュ・マウンテンの開業時に発売されたブエナ・ビスタ版VHSを最後に現在はともに廃盤になっており、2022年 現在も、正式な公開が行われていない。
2019年から世界各国で順次サービスを開始している動画配信サービス 「Disney+ 」でも、本作の配信は「今の時代状況に適切ではない」として行わないことを、2020年3月に行われたウォルト・ディズニー・カンパニーの株主総会 で会長のボブ・アイガー が明言している[ 9] [ 10] 。
一方、2017年にディズニー・レジェンド に選ばれた女優のウーピー・ゴールドバーグ は、本作を含む古典的作品の差別描写について「間違ってはいますが、これらの許しがたい画像やジョークを削除することは、それらが存在しなかったと言うことと同じであるため無視できない。無視してはならない歴史の一部を正確に反映するためにも表示するべきだ」と語っており、本作の再公開を望むコメントをしている[ 11] [ 12] 。
スプラッシュ・マウンテン
ディズニーランド やマジック・キングダム および東京ディズニーランド では、本作を題材にしたアトラクション 「スプラッシュ・マウンテン 」が設置されている。なお、アトラクションにおいてはアニメーション部分がメインとなっており、マイケル・アイズナーの要請によりリーマスは登場せず、実写部分の登場人物はアトラクションの導入部分で音声のみの登場となっている。
現在でも人気のアトラクションの一つでありながら、その題材となった作品を見る機会が一切存在しないという状況が長年続いており、2020年に発生したミネアポリス反人種差別デモ の際にはファンが他の作品への題材変更を求める署名運動 も起きていた[ 13] 。
これを受け、ディズニーはアメリカ ・カリフォルニア州 のディズニーランドとフロリダ州 のマジック・キングダムにおける、スプラッシュ・マウンテンの題材を変更し、黒人少女が主人公のディズニー映画 である『プリンセスと魔法のキス 』をモチーフにした施設に改装することを明らかにし、2024年後半に行うことを発表した[ 13] [ 14] [ 15] [ 16] 。その後、2023年1月と同年5月にアメリカ国内の同アトラクションを順次閉鎖[ 17] [ 18] 。「ティアナのバイユー・アドベンチャー 」として、マジック・キングダムでは2024年6月28日に開業した[ 19] 。ディズニーランドでは同年11月15日の開業を予定している[ 20] 。
なお、ディズニーは2019年から変更計画が確定されており、少なくとも5年前から変更について議論が進められていたとニューヨーク・タイムズ が報じている[ 21] 。
日本 ・千葉県 の東京ディズニーランドにおけるスプラッシュ・マウンテンの処遇について、運営会社のオリエンタルランド は取材に対して、「(題材変更は)アメリカで決まったことなので、現時点でのリニューアルについてはまだ決まっていないが、ウォルト・ディズニー・カンパニーとの間で検討を始めている」とのコメントを発表しており、日本についても、題材変更の可能性があることを示唆している[ 8] [ 14] [ 22] 。
脚注
注釈
出典
^ 河田智雄訳『リーマスじいやの物語―アメリカ黒人民話集』(講談社文庫 )。
^ “【ディズニー】舞浜駅の発車予告ベルが35周年バージョンに!4月10日より ”. cinemacafe.net (2018年3月27日). 2020年3月29日 閲覧。
^ a b Cohen, Karl F. (1997). Forbidden Animation: Censored Cartoons and Blacklisted Animators in America . Jefferson, North Carolina : McFarland & Company , Inc.. p. 64. ISBN 0-7864-2032-4
^ Walt Disney Presents "Song of the South" Promotional Program, Page 7. Published 1946 by Walt Disney Productions/RKO Radio Pictures.
^ “Wednesdays with Wade: Did the NAACP kill "Song of the South"? ”. Jim Hill Media (November 15, 2005). 2023年12月18日 閲覧。
^ Korkis, Jim (2012). Who's Afraid of the Song of the South?: and Other Forbidden Disney Stories . Norman, Floyd.. Orlando, FL: Theme Park Press. p. 69. ISBN 978-0984341559 . OCLC 823179800 . https://archive.org/details/whosafraidofsong0000kork
^ Gevinson, Alan (1997). Within Our Gates: Ethnicity in American Feature Films, 1911-1960 . California: University of California Press. p. 956. ISBN 978-0520209640
^ a b “東京ディズニーランドのスプラッシュ・マウンテンの題材変更「現時点ではないが検討中」。運営会社がコメント ”. ハフポスト (2020年6月26日). 2020年6月26日 閲覧。
^ “ディズニーのストリーミングサービス「Disney+」の対応端末とサービス提供地域が明らかに ”. GIGAZINE (2019年8月20日). 2020年3月29日 閲覧。
^ “ディズニー、動画配信サービスで「スプラッシュ・マウンテン」の原作映画を配信せず 「時代にそぐわない」と会長 ”. ねとらぼ (2020年3月16日). 2020年3月29日 閲覧。
^ Amidi, Amid (July 15, 2017). “In Her First Act As A Disney Legend, Whoopi Goldberg Tells Disney To Stop Hiding Its History ”. Cartoon Brew. August 7, 2017 閲覧。
^ “Whoopi Goldberg Wants Disney to Bring Back 'Song of the South' to Start Conversation About Controversial 1946 Film ” (英語). www.yahoo.com . 2020年9月1日 閲覧。
^ a b “スプラッシュ・マウンテン、黒人プリンセス映画で改装へ 米ディズニー ”. AFP通信 (2020年6月26日). 2020年6月26日 閲覧。
^ a b “ディズニー、「スプラッシュ・マウンテン」の設定変更 ”. 日本経済新聞 (2020年6月26日). 2020年6月26日 閲覧。
^ “アトラクションの題材変更 米ディズニーの娯楽施設 ”. 共同通信 (2020年6月26日). 2020年6月26日 閲覧。
^ “Tiana’s Bayou Adventure Coming to Disney Parks in Late 2024! ”. D23 (2022年7月1日). 2022年8月9日 閲覧。
^ Alison, Durkee (2022年12月5日). “米ディズニーが1月に「スプラッシュ・マウンテン」閉鎖へ ”. Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン) . 2022年12月6日 閲覧。
^ Tapp, Tom (2023年5月30日). “Disneyland’s Splash Mountain Officially Closes Today For Renovation After Criticism For Racist Stereotypes ”. Deadline . 2023年5月31日 閲覧。
^ Zachary (2024年6月27日). “'Tiana's Bayou Adventure' Opens June 28 at Walt Disney World Resort: What You Need to Know ”. The Walt Disney Company . 2024年7月7日 閲覧。
^ Staff, BakersfieldNow (2024年8月12日). “Disney announce new attractions for Disneyland Resort & California Adventure ”. KBAK . 2024年10月26日 閲覧。
^ Barnes, Brooks (2020年6月25日). “Disney’s Splash Mountain to Drop ‘Song of the South’ Depictions” . The New York Times . https://www.nytimes.com/2020/06/25/business/media/disney-splash-mountain-princess-frog.html 2022年9月21日 閲覧。
^ “東京ディズニー「対応は検討中」 米スプラッシュ新装で ”. 朝日新聞 (2020年6月26日). 2020年6月26日 閲覧。
外部リンク
ディズニーの長編アニメーション映画
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