公認心理師(こうにんしんりし)とは、「心理に関する支援を要する者の心理状態の観察・分析」・「心理に関する支援を要する者との心理相談による助言・指導」・「心理に関する支援を要する者の関係者との心理相談による助言・指導」・「メンタルヘルスの知識普及のための教育・情報提供」(第2条)を行う、公認心理師法を根拠とする日本の心理職唯一の国家資格である。
心理職の国家資格化に関して、関係団体の間で意見集約・合意形成が難しい状況と規制緩和・行政改革の流れの中で政府提案による国家資格化には課題が多いことを背景に、2005年に「臨床心理士及び医療心理師法案」を議員立法として国会に提出する動きがあったが、最終的に関係団体の意見がまとまらなかったため、法案の形にすることができず、国会提出には至らなかった。意見の調整を経た後、2014年の第186回国会に「公認心理師法案」として提出され継続審議となっていたが、第187回国会での衆議院解散に伴い審査未了となり、2015年の第189回国会において改めて提出された。そして、与野党間で協議が整ったことを受けて、衆議院文部科学委員長提出の議員立法として、衆・参ともに全会一致での可決により成立した。衆・参それぞれの委員会では、6項目の付帯決議が全会一致で採択された。
名称独占資格として規定される(第44条第1項)。また、公認心理師の有資格者以外は「心理師」という文字の使用禁止が規定されている(第44条第2項)。しかし、混乱がおこることを避けるため、一般に「心理士」などの「士」の付く既存の民間資格の名称を禁止するというまでには至らないとされている[3][4]。
公認心理師は、特定の分野に限定されない「汎用性」「領域横断性」[5][6]を特長とする心理職国家資格を旨とするものである。そのため、文部科学省と厚生労働省による共管とされ、主務大臣は文部科学大臣と厚生労働大臣と規定されている。
第一八九回 衆第三十八号 公認心理師法案 [成立] (【第一八九回 衆第二十八号[撤回]】[7]は、実質的な内容の変更を伴わない形式的な修正を【第一八六回 衆第四十三号[廃案]】[8]へ行ったのみとされている) (委員長提出法案[9]として、与野党合意により、さきに与野党四会派共同で提出した法案[7]の附則[10][11]に、配慮規定[訓示規定][12]を追加)
かつての日本では、心理士、心理カウンセラー(相談員)、心理セラピスト(療法士)などの心理職には国家資格が存在しない一方、民間の心理学関連資格は多数存在した。しかし、欧米諸国[13][14][15]は元より、オーストラリア[16][17][18]や中国・台湾・韓国[19][20][21]でも資格制度の整備や所掌の明確化が既に図られている現状など、国際的観点からも制度の遅れがあることに鑑み、日本における心理職の国家資格創設の必要性は度々取り沙汰されてきた[22]。
公認心理師は、臨床心理士と同様の特性を帯びる一方で、養成期間が2年間(臨床心理士)から6年間(公認心理師)となるなど、いくつかの点で臨床心理士との規定の相違が認められる。ついては、下記に公認心理師、臨床心理士双方の主な規定をまとめ、その同異を示すとともに、メンタルケア先進国である米国臨床心理士[23][24][25]を比較対照群として併記する。
—法案第四章 義務等
上述のように、2014年6月に第186回通常国会へ提出した公認心理師法案は、同年秋の第187回臨時国会において継続審議を行うため、衆議院で閉会中審査が議決された[96]。審議においてはいくつかの論点がある中で、法案提出前の各党の文部科学・厚生労働部会等での法案審査や、超党派の法案実務者協議の中で特に反対意見や修正要求が具体的に指摘されることになったのが、法案の第四十二条「連携等」における「医師との関係性」に関する記載についてで、さらに、各関係団体が主張を見解や声明としてリリースした[1][4][11][35]ほか、SNS上においても活発な議論が行われていたこと[170]も踏まえ、これらの論点を下記にて整理する。
※補足 厚生労働省社会援護局精神・障害保健課による「支援対象に主治の医師があるかどうかを常に確認しなければならないかどうかについて」の説明(2014年4月23日付け)は、下記の通りである。
1、この定めの趣旨としては、心理状態が深刻であるような者に対して公認心理師が当該支援に係る主治の医師の治療方針に反する支援行為を行うことで状態を悪化させることを避けたいということ。 2、公認心理師は心理の専門家としての注意義務がある。病院では当該支援に係る主治の医師があることが当然想定されるのでその医師を確認して指示をうけることが必要。 一方、病院以外の場所においては、要支援者の心理状態が深刻で、当該支援に係る主治の医師があることが合理的に推測される場合には、主治の医師の有無を確認することが必要であろう。 しかし、それ以外の場合では当該支援に係る主治の医師があるとは必ずしも想定されず、また、当該支援に係る主治の医師の有無を確認することについては、心理支援を要する者の心情を踏まえた慎重な対応が必要。したがって、このような場合、心理の専門家としての注意義務を払っていれば、必ずしも明示的に主治の医師の有無を確認しなかったとしても注意義務に反するとは言えない。 なお、心理職が行っている心理的支援は、その業務を行う場所にかかわらず、業務独占となる医行為や診療の補助ではなく、今後、公認心理師が行うこととなる業務も現状と同様と考えている。また、指示とはその業務を診療の補助とするという意味を含まない。
—厚生労働省による「主治医の指示(第42条第2項)」補足説明・解説[1][100]
※参考(補足)
医療関係職種の業務における3つの行為類型(案) [行為の特性] ①〔医行為に該当する〕 ○医師の医学的判断をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(医行為) ○医師が自ら行うか、医師の指示の下に看護師等の有資格者が診療の補助として実施する行為 ②〔医行為に該当しない〕 ○患者に対する医行為の実施等につなぐ行為 ○患者に対する医行為と患者の療養生活の間に位置付けられる行為 ③〔医行為に該当しない〕 ○患者に対して直接実施しない等、患者に危害を与えるおそれのない行為
—厚生労働省第23回チーム医療推進のための看護業務検討ワーキンググループ○資料6 医療関係職種の業務における行為の類型について(案)[171]議事録[172]
また、臨床心理士関係4団体の組織概要と倫理、国家資格化への態度等を下記に示す。関係4団体の間で最後まで意見が分かれたのは、法案の第四十二条「連携等」における「医師との関係性」及び第七条「受験資格」についての記載である[12][136][173]。
—法案第二章 試験
与野党協議の結果、衆議院文部科学委員会提出の法案では、附則に下記の条項を追加し、また、衆参両院で下記の附帯決議を採択し、全会一致で成立した。
—法案附則
—衆議院文部科学委員会 平成二十七年九月二日[129]
—参議院文教科学委員会 平成二十七年九月八日[135]