バンレイシ (蕃茘枝、学名 : Annona squamosa )は、バンレイシ科 バンレイシ属 に属する植物の1種、またはその果実 のことである。多数の果実が合着した集合果 を形成し(図1)、その形態を釈迦 の頭に例えて釈迦頭 ( しゃかとう ) とも呼ばれる。英名に基づいてシュガーアップル (sugar apple)やスウィートソップ (sweetsop)とも呼ばれる。バンレイシ属の他の種と同様、カスタードアップル(custard apple)と呼ばれることもある[ 注 1] 。中米 原産であるが、世界中の熱帯域で広く栽培され、果実が食用とされている。
植物の学名 の出発点であるリンネ の『植物の種 』(1753年 ) で記載 された植物の1種である[ 10] 。
特徴
半落葉性の小高木 であり、高さ3–8メートル になる[ 1] [ 11] (下図2a)。乾期 には落葉する[ 8] 。根元から分枝することが多く、枝は不規則に広がり、若い枝は有毛[ 8] [ 12] 。
葉は2列互生し、葉柄 は長さ4–15ミリメートル (mm)、葉身 は楕円形から披針形、5–17.5 × 2–7.5 センチメートル (cm)、先端は鋭形から鈍形、基部は鈍形から円形、表面は暗緑色で無毛、若い葉では裏面に軟毛があるが後に無毛、葉脈 は羽状で側脈は8-15対[ 1] [ 8] [ 11] [ 12] (下図2b)。
花 は葉腋につくかまたは葉に対生して垂下し、単生または2–4個が束生する[ 8] [ 11] 。花柄は長さ 1.5–2.5 cm、有毛[ 8] (下図2c)。萼片 は3枚、三角形、2–3 mm、緑色、有毛、早落性[ 8] [ 11] [ 3] (下図2c)。花弁 は3枚ずつ内外2輪につき、外花弁は楕円状披針形で厚く多肉質、1.5–3 × 0.5–1 cm、黄緑色で基部がときに紫色、内花弁は小さく鱗状または欠失[ 1] [ 8] [ 11] [ 3] [ 11] [ 12] (下図2c)。雄しべ は多数、長楕円形で長さ 1.2–1.5 mm、黄白色、葯隔は幅広く頂端がやや切り落とし状[ 8] [ 11] 。心皮 は多数が離生(雌しべ が多数)、長楕円形、暗紫色、花柱 を欠き、柱頭 は卵形から披針形[ 8] [ 11] 。
多数の果実 が密着した集合果 は球形から卵形、直径 5–20 cm、1個の果実に相当する部分は深い溝で区切られ、多角形で膨潤している[ 1] [ 8] [ 11] [ 3] (下図2d)。果実は熟すと緑色から黄緑色になり、果肉は柔らかく白色[ 8] [ 11] [ 3] (下図2e)。種子 は多数、光沢がある黒褐色、1.0–1.5 × 0.5–0.8 cm[ 8] [ 11] (下図2e)。
分布・生態
原産地は中央アメリカ の低地であると考えられている[ 8] 。先史時代にそこから人間によってメキシコ や南米 北部に移入され、さらにアメリカ合衆国 フロリダ州 、熱帯アフリカ 、南アジア から中国 南部、台湾 、東南アジア 、オーストラリア 北部、ポリネシア など世界中の熱帯から亜熱帯域で栽培されるようになり、一部では逸出野生化している[ 8] 。
熱帯域低地から亜熱帯域に分布しており、特にやや乾燥した環境で生育している[ 8] 。バンレイシ属 の中では環境適応能が高い種であり、乾期には落葉し耐乾性が高い[ 8] 。若い木は日陰を必要とするが、成長したものは日光を好む[ 8] 。
雌性先熟であり、熱帯では午後3時ごろからに開花し、翌日午前2時ごろには受粉能は消失し花粉が放出される[ 13] 。
人間との関わり
栽培
バンレイシはバンレイシ属 の中では最も広く栽培されており、アメリカ 、アフリカ 、アジア 、太平洋 の熱帯域で見られる[ 9] 。栽培には高温を必要とするが乾燥には強く、乾燥後の降雨によって着花数が多くなる[ 13] 。
バンレイシは、種子 または挿し木 、接ぎ木 によって増やす[ 8] [ 13] 。種子の発芽率は90–95%に達する[ 8] 。植え付け後2–4年で実をつけ始めるが,1本の木あたりの収穫量は年平均40–75個と多くはない[ 8] 。果実の収穫期は、台湾 では7月から3月、インド では8月から11月、タイ や米国 フロリダ州 、西インド諸島 では7月から10月である[ 9] 。完熟前に収穫され、追熟させる[ 13] 。
病虫害としては炭疽病(Colletrotrichia )、ならたけ病(Armillaria )、青枯病(Pseudomonas )、黒斑病(Phytophthora )、Phomopsis 、果実腐敗(Gliocladium )、さび病(Phakopsora )、キクイムシ 、コバチ (Bephratelloides )、ガ (Cerconota , Anonaepestis )、カメムシ(Amblypelta )、ミバエ 、カイガラムシ 、ハダニ などが知られている[ 9] 。
さまざまな品種 が作出されており、‘Arka’、‘Arka Sahan’、‘Balanagar’、‘Balondegar’、‘Barbadose Seedling’、‘British Guinea’、‘Lal Sitiphal’、‘Mammoth’、‘Puranddhar’、‘Washington’、‘Sindhan’、‘Ruan-zhi’、‘Cu-lin’、‘Da-mu’、‘Xi-lin’、‘Tai-nong no.1’ などがある[ 8] [ 9] 。また ‘Cuban Seedless’ はキューバ 産の種無し品種である[ 8] [ 9] 。果実が赤紫色になる品種も存在し[ 8] (‘Red Sitaphal’)、日本ではレッドアテスとも呼ばれる[要出典 ] (上図3b)。
1907年、米国 フロリダ州 において、バンレイシとチェリモヤ (Annona cherimola )の交雑によってアテモヤ (Annona × atemoya )が作出され(この交雑は独立に何度も起こっている)、広く栽培されている[ 8] (上図3c)。
食用
バンレイシの果実は、古くから食用として利用されている。特に台湾 、フィリピン 、タイ 、インド 、西インド諸島 などでは重要な果物であり、キューバ ではマンゴー と並んで好まれる果物の1つである[ 9] [ 8] (下図4a, b)。
通常生食されるが、シャーベット 、アイスクリーム 、清涼飲料 、発酵飲料 として利用されることもある[ 9] [ 13] [ 14] 。パイナップルとバナナを合わせたほのかな甘味と喩えられる[要出典 ] 。種子は有毒なので避けて食べる。
果実は熟すと黒い斑点が増え(下図4c)、果肉を伴う区画ごとに外すことができるようになる[ 12] [要出典 ] (下図4d)。果肉は白いシャーベット状、クリーム状で、中に大豆 大の黒い種子 が複数入っている(下図4d)。味は非常に甘味が強く、ねっとりした中にジャリジャリと砂糖の粒を噛むような食感がある。このジャリジャリした食感は、梨 と同様に果肉中に石細胞 が多く含まれているためである[要出典 ] 。英名の sugar apple はこの食感から付けられた[要出典 ] 。
長期の保存と運搬が困難であるため、基本的に産地周辺で消費される[ 15] 。2021年現在、日本 では生のバンレイシの輸入は許可されておらず、食べられる機会は少ない。台湾 ではマイナス50度程度で急速冷凍して、食べる前に自然解凍することで甘さや食感を保持する技術が実用化され、2018年に日本への輸出が始まった[ 15] [ 16] [ 17] 。
その他の利用
種子 や葉 、樹皮 、根 はアルカロイド やアセトゲニン を含み、有毒である[ 9] 。これらは、民間薬や駆虫剤として利用されることがある[ 9] [ 3] 。
樹皮 が製紙に使われることもある[ 8] 。
名称
英語 ではsugar apple[ 8] (シュガーアップル)、sweetsop[ 8] (スウィートソップ)と呼ばれ、またギュウシンリ やチェリモヤ などの類似種と同様にcustard apple(カスタードアップル)と呼ばれることがある[ 注 1] 。
中国語 では「蕃荔枝 」(ファンリージー、拼音 : fānlìzhī 、注音 : ㄈㄢ ㄌㄧˋ ㄓ 、台湾語 ホワンナイチー、hoan-nāi-chi)[ 8] [要出典 ] 、「釋迦」(シーチャー、拼音 : shìjiā 、注音 : ㄕˋ ㄐㄧㄚ 、台湾語 シェッキャ、sik-khia)[要出典 ] 、「佛頭果」(フォートウグオ、拼音 : fótóuguǒ 、注音 : ㄈㄛˊ ㄊㄡˊ ㄍㄨㄛˇ ,台湾語 フッタウコー、hu̍t-thâu-kó)[要出典 ] などという。
タイ語 ではノイナー (น้อยหน่า)[要出典 ] [ 8] 、ベトナム語 ではナー (na)[ 8] 、クメール語 ではティアプ(ទៀប)[要出典 ] 、インドネシア語 ではスリカヤ (srikaya)[ 8] 、フィリピン語 ではアティス (atis)[ 8] 、アムハラ語 (エチオピア)ではグシュタフ[要出典 ] 、スペイン語 では anon, anona, anona blanca[ 9] [ 8] 、ポルトガル語 では ata[ 9] [ 8] 、フランス語 では anonne ecailleuse, attiee, pomme cannelle[ 8] と呼ばれる。また atemoya や chirimoya と呼ばれる例もあるが[ 8] 、これらは通常別種(アテモヤ 、チェリモヤ )を示す。
ギャラリー
脚注
注釈
出典
^ a b c d e f g h i j k l m n o p “Annona squamosa ”. Plants of the World Online . Kew Botanical Garden. 2022年8月16日 閲覧。
^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “バンレイシ ”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList) . 2022年8月26日 閲覧。
^ a b c d e f g h i 「バンレイシ 」。https://kotobank.jp/word/%E3%83%90%E3%83%B3%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%82%B7 。コトバンク より2022年8月16日 閲覧 。
^ a b 植田邦彦 (1997). “バンレイシ科”. 週刊朝日百科 植物の世界 9 . pp. 100–107. ISBN 9784023800106
^ 小川一紀 (1999). “熱帯果樹に含まれる化学成分”. 果樹試験場報告 32 : 1-13. CRID 1050282813632743680 .
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^ Linnaeus, Carolus (1753) (ラテン語). Species Plantarum . Holmia[Stockholm]: Laurentius Salvius. p. 537. https://www.biodiversitylibrary.org/page/358556
^ a b c d e f g h i j k Flora of China Editorial Committee. “Annona squamosa ”. Flora of China . Missouri Botanical Garden and Harvard University Herbaria. 2022年8月21日 閲覧。
^ a b c d 中村三八夫 (1978). “バンレイシ”. 世界果樹図説 . 農業図書. pp. 72–74. ASIN B000J8K81E
^ a b c d e 杉浦明, 宇都宮直樹, 片岡郁雄, 久保田尚浩, 米森敬三, ed (2008). “バンレイシ”. 果実の事典 . 朝倉書店. pp. 408–410. ISBN 9784254430950
^ バーバラ・サンティッチ、ジェフ・ブライアント (監修) 山本紀夫 (監訳) (2010). 世界の食用植物文化図鑑 . 柊風社. p. 92. ISBN 978-4903530352
^ a b “台湾政府、冷凍フルーツ「釈迦頭(しゃかとう)」日本への輸出拡大目指す ”. 食品産業新聞社ニュース (2021年9月28日). 2022年8月25日 閲覧。
^ 毎日新聞 朝刊日(東京面) (2018年10月4日). “日本で幻?台湾のフルーツ「釈迦頭」が初輸入 甘み強く、急速冷凍技術で実現 ”. 2022年8月26日 閲覧。
^ “台湾の「釈迦頭」が日本へ初出荷~記者会見でPR~ ”. 台湾新聞 (2018年10月4日). 2022年8月26日 閲覧。
参考文献
関連事項
外部リンク
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“Annona squamosa ”. Invasive Species Compendium . CABI. 2022年8月20日 閲覧。 (英語)
“Annona squamosa ”. Plants of the World Online . Kew Botanical Garden. 2022年8月16日 閲覧。 (英語)
Flora of China Editorial Committee. “Annona squamosa ”. Flora of China . Missouri Botanical Garden and Harvard University Herbaria. 2022年8月21日 閲覧。 (英語)