タカワラビ科 Cibotiaceae (高蕨科)は、ヘゴ目 に属する大葉シダ植物 の科の1つである。
タカワラビ科という和名はかつては Dicksoniaceae s.l. に用いられたが、分子系統解析 の結果細分化され、Christenhusz et al. (2011) や PPG I 分類体系では、タカワラビ属 Cibotium は Cibotiaceae に含まれ、タカワラビ科はこの和名として用いられる[ 注釈 1] 。タカワラビ科 Cibotiaceae はタカワラビ属ただ1属 のみを含む単系統群 の単型科 である。
本項では現在用いられる Cibotiaceae (およびタカワラビ属)について述べ、最後に旧タカワラビ科 Dicksoniaceae についても触れる。
学名
タカワラビ属 Cibotium のタイプ種 は Cibotium chamissoi Kaulf. である。タカワラビ属は Pinonia Gaudich. をジュニアシノニム として内包する。
属名 Cibotium は古代ギリシア語 の κιβώτιον (kibṓtion ) に由来し、小さな箱を意味する語である[ 4] [ 5] 。これは胞子嚢群が包膜に覆われる形状に由来するとされる[ 4] [ 6] 。
形態
胞子体
地上生で、茎 は匍匐または直立し、数メートル (m)と大きくなる。茎の径は太く、先端や葉の基部に軟らかい金色の毛 を付け、鱗片 を欠く。中心柱 は管状 または網状 である。
葉 は長さ2–4 m と大型で、胞子葉 と栄養葉 は同形である。葉身 は2回羽状複葉 以上に細かく切れ込む。裂片は先端が尖る。葉脈 は遊離し、単条か二叉、または羽状に分岐する。葉柄 には関節がなく、基部は太く、長い毛が密生する。葉柄の断面は3本の維管束 がΩ 字形に配列する。羽軸 および小羽軸の向軸側 は隆起する。
タカワラビ C. barometz の葉柄に密生する毛
胞子嚢群 は葉縁 の脈端に付く。包膜 は胞子嚢群を包むような二弁状で、クロロフィル を持たず、円形(外側)または楕円形 (内側)である。胞子嚢は先端に付くものから順に成熟する(順熟 gradate )。環帯 は斜め巻きで、糸状の側糸を持つ。1つの胞子嚢当りの胞子数は64個で、胞子 は丸みを帯びた四面体 形の三溝粒 である。
基本染色体数は x = 68 。
配偶体
配偶体 は緑色で心臓形の前葉体 をなす。クッション部の細胞層がウラボシ目 と比較してやや厚い。無毛である。
下位分類
タカワラビ属は環太平洋 地域に。9–11種が知られ、そのうち6種がハワイ に固有である。以下、Hassler (2024) による種のリストを示すを含む。日本では沖永良部島 以南の琉球列島 にタカワラビ Cibotium barometz 1種のみが分布する。
タカワラビ科 Cibotiaceae Korall (2006 )
化石記録
日本の岩手県 の上部白亜系 から、タカワラビ属の1種 Cibotium iwatense Ogura の化石記録がある。また同じく岩手県の上部白亜系 久慈層群 玉川層 からは、ヘゴ目の中での系統関係ははっきりしないものの、Concavissimisporites punctatus , Cyathidites spp., Deltoidospora spp., Uvaesporites sp. などの胞子化石が知られる。
また、アメリカ合衆国 オレゴン州 の上部始新統 からは葉柄基部と茎の周縁が保存された Cibotium oregonense Barr. が知られる。
現生種と同種と考えられている化石は中国 の桂平市 の中新統 から見つかっており、タカワラビ Cibotium barometz (L. ) J.Sm. と同定されている。
利用
プルに覆われたハープウ・プル C. glaucum 。
タカワラビ は海外では根茎が工芸品として用いられるほか、薬用にも供される。幹はヘゴ材 と同様、蘭 やアンスリウム の培地として用いられる[ 6] 。
ハワイ では、タカワラビ属の植物はハープウ (ハプウ、hāpuʻu )と呼ばれる[ 6] 。かつてのハワイ人 はハープウの若い茎を用いて帽子を作った[ 6] 。また、フィドルヘッド は調理して食用とされた[ 6] 。毛 はプル (pulu [ 15] ) と呼ばれ、包帯 として用いられたほか、枕 やマットレス の詰め物としてアメリカ本土に輸出された[ 6] 。また、澱粉 を含む茎はブタ の飼料に使われたこともある[ 6] 。
系統関係
従来、木生シダであるディクソニア属 Dicksonia に代表される広義タカワラビ科は、同じく木生シダであるヘゴ科 と近縁であるのか収斂 であるのか議論があったが、様々な手法による系統解析が進み近縁であることが明らかになった。
分子系統解析からも、タカワラビ科は何れの系統仮説においてもヘゴ目に属することが示されている。その中でも、ヘゴ科、ディクソニア科、メタキシア科とともに単系統群をなす。
旧タカワラビ科
広義のタカワラビ科は、根茎 は直立か斜上し、高く伸びてヘゴ科 と同様に木生シダ となる種を多く擁する[ 注釈 3] 。多系統であるため解体された。
かつては薄嚢シダ類 は胞子嚢群 の付き方で2群に大別できるという考えがあり、胞子嚢群が葉縁に付く縁生類 と胞子嚢群が葉面上に付く面生類 が区別されていた[ 注釈 4] 。木生シダのうち、胞子嚢群が葉縁に付く形質のものが本科に分類されてきた。それに対し、ヘゴ科では葉の裏面の葉脈上に生じる。また、本科は包膜 がコップ形か2弁形なのに対し、ヘゴ科のものでは球状や鱗片状などで、時にこれを欠く。
茎には複雑な網状中心柱 があり、表面は多細胞性の長くて黄金色の毛で一面に覆われている。本科やメタキシア属、ロフォソリア属 では、茎や葉に毛があるが鱗片がないのに対し、広義ヘゴ属 Cyathea s.l. (=狭義ヘゴ科 Cyatheaceae s.s. )には鱗片がある。なお、広義タカワラビ科の中にも鱗片を持つものが知られる。
下位分類
現生の5ないし6属に加え、化石属が含められていた。ディクソニア属は熱帯域に約20種、タカワラビ属は10種ほどがあるが、他の属はごく少数の種を含むのみである。
広義タカワラビ科 Dicksoniaceae M.R.Schomb. (1849 )
PPG I (2016) では、このうちディクソニア属とカロクラエナ属、そしてヘゴ科(または ロフォソリア科)とされていたロフォソリア属 Lophosoria の3属がディクソニア科 Dicksoniaceae に残され、残りのクルキタ属、タカワラビ属はヘゴ目ではあるもののそれぞれ独立した科に移された。キストディウム属に関しては単型科キストディウム科 Cystodiaceae に移され、ウラボシ目 に置かれた。
なお、Christenhusz & Chase (2014) では、タカワラビ属などとともに木生にならないキジノオシダ科 を含むヘゴ目全体がヘゴ科 として扱われ、PPG I (2016) におけるヘゴ目の科は亜科として扱われた。タカワラビ科はタカワラビ属のみからなる亜科 Cibotioideae Nayer )として扱われた。
脚注
注釈
^ もとの Dicksoniaceae はディクソニア科 と呼ばれる(#旧タカワラビ科 を参照)。
^ クミンタカワラビのシノニムともされるが、Knapp (2011) などでは独立種として認められている。
^ 木生シダは直立した根茎 (茎)から不定根が塊状に生え、葉柄基部や不定根が重なることで見かけ上幹のようになったものであり、真の木本ではない。
^ この考え方に基づけば、縁生類の中でもっとも原始的な形態を持つフサシダ科 から巨大化し、タカワラビ科が進化したと考えられていた。また、コケシノブ科 は真の縁生なのに対し、ディクソニア属の胞子嚢群は正確には「次縁生 」で、胞子嚢群は葉縁の周辺に生じるが、葉縁の細胞が分裂組織としての能力を失い、柔組織になる。
出典
^ a b c “Cibotium glaucum ”. Native Plants Hawaii . 2022年10月22日時点のオリジナル よりアーカイブ。2024年7月27日 閲覧。
^ “Cibotium ”. Wiktionary . 2024年7月27日 閲覧。
^ a b c d e f g h 崎津 鮠太郎. “ハープウ ”. Anuhea ハワイの花・植物・野鳥図鑑 . 2024年7月27日 閲覧。
^ “野ブタによる害 ”. Hawaii Nature Explorers (2008年6月2日). 2024年4月16日時点のオリジナル よりアーカイブ。2024年7月27日 閲覧。
^ “pulu ”. Hawaiian Dictionary. Ulukau, the Hawaiian Electronic Library . University of Hawaii Press (2003年). 2024年7月27日 閲覧。
参考文献
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外部リンク
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