シリア軍 (シリアぐん、アラビア語:アラビア語 : القوات المسلحة العربية السورية 、英語 :Syrian Armed Forces)は、シリア の軍隊 である。正式にはシリア・アラブ軍 と称する。
シリア軍の法律上の最高司令官は大統領 だが、事実上の指揮権はシリア政府の長である首相 が有している。
シリア軍の管理・運営は国防省 (Ministry of Defence) が担当する。
現在、シリア軍は徴兵制度を採っており、男子は18歳に達すると兵役の義務がある[1] 。兵役期間は2005年に2年半から2年に短縮され、2008年には21ヶ月に、2011年には1年半へとシリア内戦 前までは短縮されつつあった[2] 。
戦歴
人員
内戦勃発以前
組織
現役
予備役
陸軍
215,000
500,000
海軍
5,000
4,000
空軍
40,000
20,000
防空軍
40,000
20,000
内戦勃発以後(推計値)
組織
現役
予備役
陸軍
125,000[3]
不明
海軍
5,000[4]
不明
空軍および防空軍
63,000[4]
不明
機構
陣地を守るシリア陸軍の兵士(湾岸戦争 )
シリア空軍のMiG-23 戦闘機
軍種
シリア軍は、陸軍、海軍、空軍、防空軍の4つの軍種から成る。
軍情報機関
シリア軍は、2つの情報機関を有す。
シリア陸軍
シリア陸軍は内戦勃発以前、平時で22万人の兵力を保有していた。シリア内戦 では、自由シリア軍 やムジャヒディーンの軍 、ヌールッディン・アル・ザンキー運動 などの比較的穏健とされるスンニ派武装組織の他、アル=ヌスラ戦線 やISIL 、イスラーム軍 、シャーム自由人イスラーム運動 などのイスラム過激派武装組織を数多く含む、反体制武装勢力 と激しい攻防を展開している。また、これらの組織はISILを除き協力関係にある。
内戦初期には体制への不満や反体制武装勢力の攻勢により軍から離脱する将兵も多く、特に陸軍において顕著であった。離脱者は、概ね脱走者と離反者に分かれ、後者が先述の自由シリア軍を形成した。また、脱走者および徴兵忌避者は難民として国外へ流出した者も多い。
2013年3月14日に発表されたイギリス の国際戦略研究所 の分析では、正規の陸軍兵力は平時定員の半分に満たない10万人まで減少したと推定されたが[5] 、その後の戦時動員による徴兵強化や戦局の好転により兵力は若干回復し、現在は13万人弱であると推定されている。しかし、有事下の現有兵力は内戦以前の平時定員すら充足しておらず、正規軍の兵力不足は慢性的となっている。
特殊戦力師団 通称「虎部隊」の臂章
内戦による荒廃によって兵の応召は機能不全に陥っており、正規軍の兵力不足を補うために予備役部隊が創設され、他にもバアス党の民兵組織やシーア派民兵組織のヒズボラ 、アル=アッバス旅団 、AAH 、カターイブ・ヒズボラ 等に加え、シリア社会民族党 民兵組織、ドゥルーズ派民兵組織、アラウィー派民兵組織ならびにパレスチナ人の民兵組織など、シリア人のみならずレバノン人やイラク人、パレスチナ人などによって構成される数多くの親政府武装組織が活動している(予備役部隊および国内を拠点とする親政府武装組織については、次節にて詳述)。ゆえに正規軍自体の兵力は平時定員に満たないが、予備役部隊および各種親政府などの非正規軍と正規軍を合算した広義の政府軍の兵力は、内戦勃発以前における陸軍正規軍の平時定員を上回っている(ただし、内戦以前の陸軍予備役は50万人であり、有事定員には満たない規模である)。
また、ロシア・イランは政府軍に軍事顧問を派遣しており、イランはそれに加えて自国民兵およびハザラ人 民兵を派遣し、ロシアは海上戦力および航空戦力と、シリアにおけるロシア空・海軍根拠地防衛のための地上戦力を派遣している。
共和国防衛隊の臂章
陸軍の戦力のうち最精鋭は、共和国防衛隊 と第4機甲師団 、および空挺部隊・装甲部隊などを含む2個特殊戦力師団 と6個独立特殊戦力連隊である。このうち共和国防衛隊は、3個機械化旅団・1個砲兵連隊および、警護部隊にあたる2個歩兵連隊を有し、バアス党 の党員資格を持つ者で構成される(シリア・バアス党の中核支持層は、アラウィー派・キリスト教徒・ドゥルーズ派・イスマーイール派の他、スンニ派世俗層の一部も含まれる)。また第4機甲師団は3個機甲旅団・1個機械化旅団・1個砲兵連隊および、特殊戦力にあたる1個空挺連隊を有し、大部分は現大統領バッシャール・アル=アサド の出身宗派であるアラウィー派 によって構成されているとされる。そして特殊戦力師団は3個特殊戦力連隊を有し、6個独立特殊戦力連隊は特殊戦力司令部に属す。なお、共和国防衛隊に関しては内戦勃発後、隷下に一個旅団が増設され[6] 現在は少なくとも4個旅団を有する他、女性兵士部隊が新規編成された(本部隊の規模は、旅団もしくは連隊であるが詳細は不明)。内戦以前における共和国防衛隊と第4機甲師団の規模の差は、共和国防衛隊が第4機甲師団を数個大隊分上回る程度に過ぎなかったが、前記のような戦時の部隊増設により、数個連隊分の差となっている。
第4機甲師団の肩章
政府の権力基盤であるこれら精鋭部隊のうち共和国防衛隊と特殊戦力司令部および第4機甲師団の指揮権は軍参謀本部の所轄である(共和国防衛隊は大統領直轄との説もある)が、第4機甲師団は現大統領の弟マーヘル・アル=アサド の強い影響下にあるため、実質的に当該人物が指揮権を握っており、軍参謀本部の指揮権は表面的とされる(マーヘル・アル=アサドの階級は准将であり、名目上は同師団隷下の一個機甲旅団の旅団長に過ぎない)。また、特殊戦力師団は第一軍団隷下である。シリア陸軍は前記した軍参謀本部直属の精鋭部隊、特殊戦力師団の属する第一軍団のほか、第二軍団および第三軍団からなる。また、正規軍の兵力が不足する中、2015年中ごろより、ロシア軍の指導によって予備役部隊を再編した第四軍団の建設が進行中であるが内実は不明である。
一個あたりの定員は、軍団が5万人、師団が5千人弱から1万5千人強まで、また旅団一個あたりの定員は、それぞれ機械化旅団が3500人、機甲旅団および歩兵旅団が2500人、砲兵旅団は不詳である。また特殊戦力連隊ならびに歩兵連隊と砲兵連隊は1500人からなる。そして、大隊の定員は300人から500人程度である。旅団および連隊は大隊を基幹に編成され、師団の編成は、旅団および連隊が基幹となる。
なお、シリア軍は基本的にバアス党によって政治化された軍隊であり、党への加入は強制されないが、上位階級への昇進にはバアス党籍が必須であるとされる。
予備役部隊および親政府武装組織
これら上記の武装組織は、内戦が長期化する中、損耗の激しい正規軍とともに作戦に参加している。
そして先述のごとく、これらの国内を拠点とする組織の他にもレバノンのヒズボラ をはじめ、国外を拠点とするいくつかのシーア派民兵組織が正規軍を支援するためシリア国内にて活動している。
ただし、シーア派民兵組織のうちアル=アッバス旅団は、イラク人を中心とする武装組織であるが2012年にシリア国内において結成されたものである。アル=アッバス旅団の構成員は、2006年以後激化したイラク国内の宗派間暴力 から逃れシリアに住み着いた人々(内戦以前のシリア国内には120万人に上るイラク人難民が存在し、うち十二イマーム派 の人々が集住したのがサイイダ・ザイナブ 市であった。)と、シリア内戦勃発後にシリアへ来援したマフディー軍 関係の要員からなる。また、当該武装組織の類似組織としてイラク国内で活動するアル=アッバス部隊 がある。また、ヒズボラについてもレバノン人のみならず、シリア人の十二イマーム派住民が参加しているとされる。
この他、 シリア社会民族党民兵およびドゥルーズ派民兵には、シリア国内の住民のみならずレバノンからの来援者も含まれる。[17]
シリア海軍
シリア海軍は5,000人の兵力を保有している。第四次中東戦争 やラタキア沖海戦 でイスラエル軍 と戦闘を行った。
シリア空軍
シリア空軍は60,000人の人員を保有する。このうち現役は40,000人で、20,000人は予備役である。装備する航空機はロシア から購入しており、主力はSu-22 ・MiG-23 ・MiG-21 等の旧式機で、現代的な航空機は少ないがSu-24 ・MiG-25 ・ MiG-29 等を保有する。
また前大統領ハーフィズ・アル=アサド の古巣という事もあり、四軍の中でも政権に対する忠誠心が高いとされる。
シリア防空軍
シリア防空軍は40,000人の人員を保有する。Lavochkin CP-75 Dvina/S-75M Volga やIsayev S-125 Neva/S-125M Pechora などロシア製のものを多数保有している。
情報機関・治安警察組織
シリア軍の一部として組織されている軍事情報局と空軍情報部は内務省 所管の総合情報部や政治治安部、バアス党 シリア地域指導部所管の民族治安局は、国軍参謀本部所管、ないしは大統領直轄である共和国防衛隊と共に「真の権力装置」と言われるムハーバラート を構成している[18] 。
これらムハーバラートの内、軍事情報局は軍参謀本部所轄であり、首都ダマスカス の治安維持やパレスチナ人 の監視などを主な任務としている。加えて、2005年 4月まではレバノン 実効支配を統括していた。また空軍情報部はシリア空軍によって別途所轄され、国内外における治安・諜報活動を担っているが、1990年代以後、地位が低下したとされる。
これに対して内務省 は、既述のとおり総合情報部や政治治安部を所轄しており、国内の政治組織および活動家の監視を任されている。
また、民族治安局は2009年 の国民安全保障会議の発足と同時に解体された。国民安全保障会議の成員には、従来の情報機関・治安組織の高官の他に文民も含まれ、軍事情報局、空軍情報部および総合情報部、政治治安部の統括が設置の目的とされるが、具体的な活動内容は知られていない。
脚注
関連項目
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勢力 (勢力図 )
人物
主な戦闘・事件(年表 (英語版 ) )
2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 2021年
文化 関連項目
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