「サボイ・トラッフル 」(Savoy Truffle )は、ビートルズ の楽曲である。1968年に発売された9作目のイギリス盤公式オリジナル・アルバム『ザ・ビートルズ 』に収録された。ジョージ・ハリスン によって作詞作曲された楽曲で、ハリスンの友人で「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス 」でリードギター を弾いたエリック・クラプトン が、虫歯であるにもかかわらずチョコレートを大量に摂取していたというエピソードがモチーフとなっている。歌詞もクラプトンへの警告となっている。
アルバム『ザ・ビートルズ』のためのセッションの終盤にあたる1968年10月にレコーディングされた。ソウル の要素を持ったロック 調の本作は、2年にわたってシタール を研究していたハリスンが、ギターを主体としたロックの路線に復帰した楽曲となっている。クリス・トーマス がアレンジを手がけたホーン・セクションが、コンプレッサー を強めにかけて含まれている。また、歌詞の中ではポール・マッカートニー 作の「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ 」への言及も見られる。
楽曲発表後、音楽評論家から肯定的な評価を得たほか、多数のアーティストによってカバー・バージョンが発表された。
背景・曲の構成
ジョージ・ハリスンは、1968年9月に「サボイ・トラッフル」を書いた。同月21日に発行された『NME 』誌に掲載された記事で、ハリスンは「『おい、あれは何なんだ?あれはどういう意味なんだ?』と聞いてくる連中には、少しばかりウンザリしていて、何の意味もない曲を書こうと思っている」と語っている。ハリスンは、1965年に発表された「ノルウェーの森 」でシタール を演奏したのをきっかけに、1966年よりラヴィ・シャンカル のもとでシタールについて学んでいたが、1968年に入ってからは再びギターを主体とした楽曲を書くようになっていた[注釈 1] 。これについて、『NME』誌の記事でハリスンは「僕は再びロッカーになった」と宣言し、「もう『神秘的なビートル・ジョージ』のイメージに拘泥するつもりはない。未だに万事が『ウィズイン・ユー・ウィズアウト・ユー 』だけど、もうそっち方面に向かうつもりはない。なぜなら今の僕はロックンロール・スターになろうとしてるんだ!」と語っている[12] 。
様々な中身の入ったチョコレート菓子。ロントリー・マッキントッシュ 社のこのような菓子のセットが歌詞の元になった。
「サボイ・トラッフル」のキーは、基本的にEマイナー に設定されているが、同主調 (Eメジャー )に何度も転調を繰り返し[15] 、Gメジャー で一時的に終止する。全体的に4分の4拍子で[15] 、主にソウル の要素を持っている。
ヴァースの歌詞では、「Creme tangerine (クリーム・タンジェリン)」、「Montelimart (モンテリマ)」、「Ginger sling (ジンジャー・スリング)」など、チョコレートの名前が含まれており、歌詞に登場する「Good news (グッド・ニューズ)」もイギリスの菓子メーカー、ロントリー・マッキントッシュ 社のチョコレートの詰め合わせの名前で 、歌詞の大部分はグッド・ニューズの箱の蓋に記載されている名前を流用している。歌詞について、ハリスンは「エリックとつるんでいた時期に書いた笑える曲。当時の彼は虫歯がたくさんあって、本当なら歯医者に行かなきゃならなかった。いつも歯が痛いと言っているのに、たらふくチョコレートを食べていた。とにかく我慢できなくて、チョコレートを見ると食べずにはいられなかったんだ」と語っている。
ビートルズの広報担当であったデレク・テイラー (英語版 ) も作詞を手伝っており、2回目のブリッジの「You know that what you eat you are(知ってのとおり、食は人なり)」というフレーズは、テイラーによるアイデアによるもので[20] 、テイラーの友人が制作した映画の題名(You are what you eat )に由来している。[21] 。なお、同じセクションでは、「We all know Obla-dibla da / But can you show me, where you are?...(みんなオブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダを知っているけど、教えてくれないか、君はどこにいる?)」というマッカートニー作の「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ 」への言及が見られる[21] 。音楽ジャーナリストのロバート・フォンテノットは、ジョン・レノン と同様にハリスンも同作を嫌っていることから、「マッカートニーの歌に対する、ハリスンなりの意見」と見ている[23] 。
レコーディング
「サボイ・トラッフル」のレコーディングは、1968年10月3日にトライデント・スタジオ (英語版 ) で開始された。同日に8トラック・レコーダーを使ってベーシック・トラックがレコーディングされ、トラック1にリンゴ・スター のドラム 、トラック2にマッカートニーのベース 、トラック3にハリスンのリズムギター が録音された。10月5日にハリスンはアコースティック・ギター を弾きながらリード・ボーカル を歌い、部分的にマッカートニーがハーモニー・ボーカル を加えた。
10月11日に場所をEMIレコーディング・スタジオ に移し、同日にクリス・トーマス がアレンジを書いたサクソフォーン [注釈 2] がトラック6と7にオーバー・ダビング された。「音が綺麗すぎる」と感じたハリスンは、レコーディング・エンジニア のケン・スコット (英語版 ) に音を歪ませることを提案し[27] 、サクソフォーンの音にはディストーション とコンプレッサー が強めにかけられた[21] 。プレイバックを聴く際に、ハリスンはミュージシャンに対して「プレイバックを聴いてもらう前に、皆さんの素晴らしいサウンドに手を加えたことを謝っておきます。しかし、これが僕が想像していたサウンドなんです」と伝えた[21] 。
10月14日にスターのタンバリン とトーマスのオルガン がオーバー・ダビングされた。同日にステレオ・ミックスとモノラル・ミックスが作成されたが、双方でリードギターのミックスが異なっており、モノラル・ミックスでは3番のヴァースに入っているオルガンのパートが消去されている。
リリース・評価
「サボイ・トラッフル」は、1968年11月22日にアップル・レコード より発売されたオリジナル・アルバム『ザ・ビートルズ 』のD面3曲目に収録された。同作では、本作のほかに「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス 」、「ピッギーズ 」、「ロング・ロング・ロング 」とハリスン作の楽曲が4曲収録されており、ハリスンがソングライターとして頭角を現してきたことを示すものとされている[36] 。2012年にiTunes Store 限定で配信された『トゥモロー・ネバー・ノウズ 』にも収録された。
また、2006年にシルク・ドゥ・ソレイユ のショーのサウンドトラック盤として発売された『LOVE 』に収録の「ドライヴ・マイ・カー / 愛のことば / ホワット・ユー・アー・ドゥーイング 」では、本作のサクソフォーンのパートがミックスされている[38] [39] 。2018年に発売された『ザ・ビートルズ (ホワイト・アルバム) 〈スーパー・デラックス・エディション〉 』のCD6には、バッキング・トラックのみの音源が収録された。
『メロディ・メーカー (英語版 ) 』誌のアラン・ウォルシュは「最も叙情的に曖昧なロック」と評価し[41] [42] 、音楽評論家のイアン・マクドナルド (英語版 ) は「穴埋め」「『ハニー・パイ 』のようにナンセンスな曲」と否定的な評価をしている。
一方で、音楽評論家のバリー・マイルズ (英語版 ) は、『インターナショナル・タイムズ (英語版 ) 』紙で「LPの中で最高のトラック。美しく、印象派の音楽」と評し[44] 、作家のフィリップ・ノーマン (英語版 ) はマッカートニー作の「バック・イン・ザ・U.S.S.R. 」と共に「アルバムの中で最高のロックンロール・ナンバー」として挙げており、サクソフォーンとリードギターを主体としたサウンドを「刺激的」と称賛している。また、元『クリーム (英語版 ) 』誌の評論家リチャード・リーゲルは、1996年に「The Ten Most Over- & Underrated Beatles Songs」の中に本作を挙げている[46] 。
2018年に『インデペンデント 』誌のジェイコブ・ストルワーシーは、アルバム『ザ・ビートルズ』収録曲を対象としたランキングで本作を7位に挙げ、「アルバムで最も過小評価されている楽曲」と評している[47] 。
クレジット
※出典(特記を除く)
ビートルズ
外部ミュージシャン
カバー・バージョン
脚注
注釈
^ 1968年6月にラヴィ・シャンカル はハリスンに「自分のルーツを探せ」と伝え、その後ハリスンはニューヨークでクラプトンとジミ・ヘンドリックス と出会い、これをきっかけに再びギターを主体としたロック路線に戻ることを決めたとのこと[11] 。
^ バリトン・サクソフォーン3本とテナー・サクソフォーン3本の計6本。
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外部リンク