コリン・ルーサー・パウエル (英語 : Colin Luther Powell , 1937年 4月5日 [ 1] -2021年 10月18日 )は、アメリカ合衆国 の政治家 、陸軍 軍人 。退役陸軍大将 。学位はM.B.A. (ジョージ・ワシントン大学 )。ジョージ・W・ブッシュ 政権で第65代国務長官 を務めた。ジャマイカ 系アメリカ人。
来歴
1937年4月5日にニューヨーク州 ニューヨーク市 のハーレム にて、ジャマイカ系移民の息子として誕生した[ 1] 。サウス・ブロンクス地区にて育ち、ニューヨーク市立大学シティカレッジ で地学 を専攻する傍ら、予備役将校訓練課程 (ROTC)を受講した[ 1] 。
1958年 にニューヨーク市立大学シティカレッジを卒業すると、少尉 としてアメリカ陸軍に任官する[ 1] 。それはトルーマン 大統領が1948年に大統領令9981号 (英語版 ) で、アメリカ軍 における「人種、肌の色、宗教または出身国に基づく」差別を撤廃した丁度10年後のことであった。ドイツ ・韓国 での勤務を含めてベトナム戦争 に2度従軍・負傷した(ベトナムでの従軍は1962-1963、1968-1969)。まだ南部では厳しい人種隔離政策があった時代に、アフリカ系アメリカ人として異例の出世を遂げる。1971年にはジョージ・ワシントン大学 大学院経営学修士 課程を修了している。ニクソン政権 時代には「ホワイトハウス・フェロー 」に選ばれた。レーガン政権 では、予備役 に退いた上で国家安全保障問題担当大統領補佐官 を務めた。1989年のレーガン政権の終了と同時に現役に復帰し、大将に昇進してアメリカ陸軍 総軍司令官となる。同年10月にジョージ・H・W・ブッシュ 政権の指名により、アフリカ系アメリカ人 初のアメリカ軍 制服組トップである統合参謀本部議長 に就任し[ 1] 、パナマ侵攻 や湾岸戦争 の指揮を執った。
1992年アメリカ合衆国大統領選挙 では、支持率低迷に喘ぐ共和党 現職のジョージ・H・W・ブッシュ 大統領 が不人気のダン・クエール 副大統領 に替えて新たな副大統領候補を検討していると報じられた際、その候補者として取りざたされた。結局は擁立には至らなかった。またこの選挙で当選したビル・クリントン が国務長官にパウエルを充てることを検討しているという報道もあったが、これも現実にはならなかった。
国務長官職
1993年 に退役後、自伝「マイ・アメリカン・ジャーニー」を出版した。1996年アメリカ合衆国大統領選挙に向けての世論調査では幅広い層からの圧倒的な支持を示したが出馬しなかった。選挙戦における激しい中傷合戦に巻き込まれたくないと妻が懸念したからとも[ 2] 、「黒人が大統領になったら暗殺される」とする妻の反対があったからとも言われる[ 3] 。
2000年アメリカ合衆国大統領選挙 ではブッシュ 陣営の外交問題アドバイザーを務めた。ブッシュの当選後、アフリカ系アメリカ人初の国務長官 に任命された(上院 では全会一致で承認)。同政権では、息子のマイク・パウエル が1997年11月から2005年1月までの間連邦通信委員会 (FCC) 委員長を務めた。国務副長官 に任命されたレーガン政権からの盟友リチャード・アーミテージ と共にブッシュ政権での穏健派を形成していた。2004年 11月に国務長官辞任の意思を表明し、2005年 に職を辞した。中道派 で国連協調路線 であったため、有志連合指向の右派 が主導する政権内での孤立が原因と考えられている。
国務長官在任時、国際連合安全保障理事会 で「イラク が大量破壊兵器 を開発している証拠」を列挙した[ 4] 。しかしCBS の60 Minutes などによると、イラクからドイツに出国した男性エージェント 、コードネーム 「癖玉 (英語版 ) 」が永住権 を得るためにドイツの情報機関 に話した虚偽の話(例:生物兵器 製造中に事故で12名が死亡した)をCIA が事実と誤認したものだった。長官退任後にパウエルはこの発言を間違いだったと認め[ 5] 、自らの著書である「リーダーを目指す人の心得」において「人生最大の汚点」と述べている。
国務長官退任後
バラク・オバマ が大統領になった時は「アフリカ系アメリカ人の歴史を考えれば、非常に感動した」と涙を目に浮かべた[ 6] 。
晩年は多発性骨髄腫 との闘病生活を2年近く送ったほか、パーキンソン病 とも戦っていたとされる[ 7] 。
2021年 10月18日 、新型コロナウイルス感染症(COVID-19) の合併症のため、メリーランド州 ベセスダ のウォルター・リード国立軍事医療センター (英語版 ) で死去した[ 8] [ 9] [ 10] 。84歳没。
政策・主張
陸軍大将時代
共和党員だが、リベラル や中道にも理解を示すことがある。人工妊娠中絶 や積極的差別是正措置 を容認[ 11] 、合理的範囲の銃規制にも賛成している。著書「マイ・アメリカン・ジャーニー A case of the munchies」によると、ベトナム戦争の経験から軍隊の抑制的使用という意見を持つようになった。ただし、軍事力の行使は、やるからには国際的協調 を得た上で圧倒的な規模で行うべきという意見である。
2004年 にイギリス のジャック・ストロー 外務・英連邦大臣 との電話会談で、ネオコン のことを「狂った連中」と述べた[ 12] 。2004年の共和党全国大会 を欠席するなど、共和党内で台頭するネオコンと距離を置いているとされる。そのため反対派からは「ロックフェラー・リパブリカン 」というレッテルを貼られることがある。
2008年アメリカ合衆国大統領選挙 では、マケイン選挙陣営にも許容最大限の寄付をし、マケインの副大統領候補として名前があがっていたにもかかわらず、大統領選挙2週間前の10月19日に、NBC の「ミート・ザ・プレス 」に出演し、民主党 候補バラク・オバマ への支持を表明した。声明では共和党 候補のジョン・マケイン への不支持は容易な決断では無かったとし、マケイン陣営のネガティブ・キャンペーン が行き過ぎであり、金融危機への対処能力においてオバマがマケインを上回ると述べた[ 13] [ 14] 。またマケインが経験の浅いサラ・ペイリン を副大統領候補に据えたことを無責任であるとした[ 15] 。また、「共和党の中にはオバマ議員がムスリム ではないかと問う者がいる。正しい答えはノーであり、彼はずっとキリスト教徒 であった。だが、もっと正しい答えは、『もし彼がムスリムだったとして、それが一体何の問題があるというのか?』というものだ。この国ではムスリムであることがいけないのか。もちろんノーだ、アメリカではそんなことは問題ではない。7歳のムスリムのアメリカ人たる子供が将来大統領になろうと思ったとして、一体どこに問題があるのか」と、語った[ 16] 。一連のパウエル発言に、共和党内の右派は反発を示し、パウエルを「裏切り者」と一斉に批判。ディック・チェイニー 元副大統領は、NBCテレビの番組収録でパウエルはリパブリカンではないと批判したが、本人は同テレビの番組で一連の発言を撤回せず、逆にチェイニーを批判した。
2012年アメリカ合衆国大統領選挙 では、10月25日にCBSのインタビューで、再選を目指すオバマの支持を表明した[ 17] [ 18] 。政界引退後はブルームエナジー (英語版 ) の社外取締役を務めている[ 19] [ 20] 。
2016年、パウエルがジャーナリストあてに送った電子メールが流出。2016年アメリカ合衆国大統領選挙 の有力候補であったドナルド・トランプ (共和党)やヒラリー・クリントン (民主党)の双方を批判する内容が公開された[ 21] 。
2020年にジョージ・フロイドの死 と一連の抗議運動に対して軍の投入をも辞さないとしたトランプ大統領の対応に対して、憲法から逸脱していると強く批判した[ 22] 。元海兵隊大将でトランプ政権の元国務長官も務めたジェームス・マティス ら多くの元軍幹部や外交官がトランプ大統領への批判を表明していることに誇りに思うと語り、2020年アメリカ合衆国大統領選挙 では民主党 のジョー・バイデン を支持すると表明した[ 23] 。8月18日の民主党党大会 では、故マケイン 上院議員のシンディ夫人に続き、ビデオで登場してバイデン支持を訴えた[ 24] 。
その他
軍人としての最終階級 は陸軍大将 。政治家としての最高位はジョージ・W・ブッシュ政権での国務長官 である。軍人としての栄誉にはディフェンス・ディスティングシュドサービスメダル ・陸軍最高殊勲章・国防省第1等殊勲章・青銅章・多数の名誉負傷章・軍人殊勲章・勇猛戦士章・国防長官賞などがある。文民としての栄誉には2度の大統領自由勲章 ・大統領国民栄誉賞・連邦議会栄誉賞・国務長官栄誉賞などがある。またイギリス女王 からバス勲章ナイト・コマンダー(KCB) に叙されている。また英米の相互理解に対して2003年にベンジャミン・フランクリン・メダル が授与された。
勲章
階級履歴
少尉, 1958年6月9日
中尉, 1959年12月30日
大尉, 1962年6月2日
少佐, 1966年5月24日
中佐, 1970年7月9日
大佐, 1976年2月1日
准将, 1979年6月1日
少将, 1983年8月1日
中将, 1986年7月1日
大将, 1989年4月4日
著書
My American Journey , with Joseph E. Persico, (Random House, 1995). ISBN 0-67-943296-5
脚注
出典
^ a b c d e United States Department of State. “Biographies of the Secretaries of State: Colin Luther Powell (1937–) ”. 2016年8月7日 閲覧。
^ Sam Potolicchio (2021年10月27日). “高潔なる政治家、コリン・パウエルの死と「歴史のif」” . ニューズウィーク . https://www.newsweekjapan.jp/sam/2021/10/if_2.php 2021年11月24日 閲覧 . "どうして、パウエルは根強い待望論に応えず、大統領選に出馬しなかったのか。最愛の妻が選挙戦の容赦ない中傷攻撃に巻き込まれたくないと言ったのだろうと、推測する人も多い。"
^ “くろしお「上司ガチャ」” . 宮崎日日新聞 . (2021年10月24日). https://www.the-miyanichi.co.jp/kuroshio/_57587.html 2021年11月24日 閲覧 . "党派を超えて信頼され人気があったパウエル氏。暗殺されるのを恐れた妻の反対で出馬はしなかったが、黒人として初の米大統領になっていたかもしれない人だった。"
^ “Transcript of Powell's U.N. presentation” (英語). CNN . (2003年2月6日). https://edition.cnn.com/2003/US/02/05/sprj.irq.powell.transcript/ 2021年11月24日 閲覧。
^ “Powell admits Iraq evidence mistake” (英語). BBC . (2004年4月3日). http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/3596033.stm 2021年11月24日 閲覧。
^ “オバマ大統領誕生に黒人の名士たちは涙” . 日刊スポーツ . (2008年11月6日). http://www.nikkansports.com/general/news/f-gn-tp1-20081106-426759.html 2014年6月22日 閲覧。
^ “パウエル元国務長官、生前インタビューで闘病生活に言及 「気の毒に思わないでほしい」” . CNN.co.jp . CNN . (2021年10月19日). https://www.cnn.co.jp/usa/35178245.html 2021年10月20日 閲覧。
^ “Former US Secretary of State Colin Powell Dies From COVID-19 ” (英語). Daily News Brief (2021年10月18日). 2021年10月18日 閲覧。
^ Devan Cole. “Colin Powell, military leader and first Black US secretary of state, dies after complications from Covid-19 ” (英語). CNN . CNN. 2021年10月18日 閲覧。
^ “Colin Powell, former US secretary of state, dies at 84 of Covid complications” (英語). The Guardian . ガーディアン . (2021年10月18日). https://www.theguardian.com/us-news/2021/oct/18/colin-powell-us-secretary-of-state-dies-covid-84 2021年10月18日 閲覧。
^ Barbara Frankel (2000年8月1日). “Colin Powell Lauds Bush, Rebukes GOP on Affirmative Action ” (英語). AAD project. 2011年5月25日時点のオリジナル よりアーカイブ。2014年6月22日 閲覧。
^ Martin Bright (2014年6月22日). “Colin Powell in four-letter neo-con 'crazies' row” (英語). The Guardian . http://www.theguardian.com/media/2004/sep/12/Iraqandthemedia.politicsphilosophyandsociety 2014年6月22日 閲覧。
^ “Colin Powell endorses Obama” (英語). CNN. (2008年10月20日). https://edition.cnn.com/2008/POLITICS/10/19/colin.powell/index.html 2014年6月22日 閲覧。
^
“Colin Powell backs Barack Obama” (英語). BBC. (2008年10月19日). http://news.bbc.co.uk/2/hi/americas/7678788.stm 2014年6月22日 閲覧。
^ Alex Johnson (2008年10月19日). “Powell endorses Obama for president” (英語). MSNBC. http://www.nbcnews.com/id/27265369/#.U6XvIvl_s-I 2014年6月22日 閲覧。
^ Colin Powell on NBC Meet the Press, Sunday October 19, 2008. (Archived ). also, Juliane Hammer, Omid Safi, ed. The Cambridge Companion to American Islam; Cambridge University Press, August 2013, p. 3.
^ October 25, CBS News. “Colin Powell endorses Barack Obama for president ” (英語). www.cbsnews.com . 2020年9月12日 閲覧。
^ 久留信一 (2012年10月27日). “パウエル氏がオバマ支持表明 党を超え再び” . 東京新聞 (はてな ). オリジナル の2012年10月27日時点におけるアーカイブ。. http://b.hatena.ne.jp/entry/www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2012102602000231.html 20102-10-29 閲覧。
^ “Board of Directors ” (英語). Bloom energy. 2014年6月22日 閲覧。
^ 『「Bloomエナジーサーバー」国内初号機を福岡M-TOWERで運転開始 』(プレスリリース)SoftBank 、2013年11月25日。http://www.softbank.jp/corp/news/press/sb/2013/20131125_01/ 。2014年6月22日 閲覧 。
^ “【米大統領選2016】パウエル元国務長官、トランプ氏を「国家の恥」と批判 ”. BBC (2016年9月15日). 2020年6月6日 閲覧。
^ “パウエル元国務長官、トランプ大統領は憲法から「逸脱」 ”. CNN.co.jp . 2020年8月27日 閲覧。
^ “パウエル元国務長官、トランプ氏は憲法を「逸脱」 不支持表明” . BBC News . BBC . (2020年6月8日). https://www.bbc.com/japanese/52961138 2020年6月10日 閲覧。
^ Alexandra Jaffe (2020年8月18日). “Republicans at the DNC: Colin Powell, Cindy McCain give remarks; Some progressives feel overlooked | WATCH ” (英語). ABC13 Houston . 2020年8月27日 閲覧。
関連項目
外部リンク