Bell Telephone(AT&Tの前身)の技術者は通信システムの信頼性向上に努めてきた。増幅器などの機器は地下に埋設しなければならなかったため、故障頻度を少なくし、修理回数を減らす必要があったのである。シューハートが 1918年にウェスタン・エレクトリック(AT&Tの製造部門)の検査技術部門に配属されたとき、工業品質は完成製品を検査して問題のあるものを除くことで保たれていた。これが完全に変わったのは1924年5月16日のことであった。シューハートの上司であった George D Edwards は「シューハート博士はほんの1ページのメモを書いた。その3分の1は、我々が今日概略の管理図と呼ぶような単純な図だった。その図と前後の文章には、今日の我々がプロセス品質管理として知っている基本原則と考慮すべきことが全て記述されていた」と回想している[1]。彼は、製造工程における変化を削減することの重要性を指摘し、変化を増大させ品質を悪化させる状況を継続的な調整によって制御することを提案した。
1930年代後半以降、その興味は製造工程の品質に留まらず、科学および推計統計学全般に及ぶようになっていった。二冊目の著書 Statistical Method from the Viewpoint of Quality Control(1939年)では、製造工程における品質管理の経験を科学や統計学にどう生かせるかという大胆な質問に答えている。
シューハートの統計学の手法は、同時代の他の研究者とは大きく異なっていた。プラグマティズム哲学者 C・I・ルイス の著作に影響されて操作主義的姿勢を鮮明に表し、それが彼の統計処理に影響していた。特にルイスの Mind and the World Order を何度も読んだという。1932年、同じ操作主義者であるカール・ピアソンの後援の下でイングランドで講演を行ったことがあるが、イギリスの統計学の伝統の中では彼の講義は聴衆をほとんど引き付けなかった。英国規格は名目上はシューハートの業績に基づいているが、思想的にも方法論的にも彼の考え方とは大きく異なっている。
1938年、その業績は物理学者エドワーズ・デミングと Raymond T. Birge に注目されることとなった。彼らは科学における測定誤差を研究しており、1934年には重要な論文 Reviews of Modern Physics を発表していた。シューハートの著作に触れた後で、彼らはシューハートの用語などを取り入れ、論文を完全に書き直して学会誌に発表した。
Shewhart, Walter A[ndrew]. (1917). A study of the accelerated motion of small drops through a viscous medium. Lancaster, PA: Press of the New Era Printing Company. pp. 433. OCLC26000657
Shewhart, Walter A[ndrew]. (1931). Economic control of quality of manufactured product. New York: D. Van Nostrand Company. pp. 501. ISBN0-87389-076-0. OCLC1045408〔邦訳: 白崎文雄 訳、『工業製品の経済的品質管理』日本規格協会 1952 絶版、NCIDBN0309331X、全国書誌番号:57000413〕
Shewhart, Walter A[ndrew]. (1939). Statistical method from the viewpoint of quality control. (W. Edwards Deming). Washington, The Graduate School, the Department of Agriculture. pp. 155. ISBN0-486-65232-7. OCLC1249225〔邦訳: 坂元平八 監訳、『品質管理の基礎概念―品質管理の観点からみた統計的方法』 岩波書店 1960、NCIDBN03088058、全国書誌番号:60005062〕
参考文献
Deming, W. Edwards (1967) Walter A. Shewhart, 1891-1967, American Statistician, Vol. 21, No. 2. (Apr., 1967), pp. 39-40.
Bayart, D. (2001) Walter Andrew Shewhart, Statisticians of the Centuries (ed. C. C. Heyde and E. Seneta) pp. 398-401. New York: Springer.
Fagen, M D (ed.) (1975) A History of Engineering and Science in the Bell System: The Early Years (1875-1925)
Fagen, M D (ed.) (1978) A History of Engineering and Science in the Bell System: National Service in War and Peace (1925-1975)ISBN 0-932764-00-2
Wheeler, Donald J. (1999). Understanding Variation: The Key to Managing Chaos - 2nd Edition. SPC Press, Inc. ISBN 0-945320-53-1.