『アイティオピス 』(ギリシア語 : Αἰθιοπίς, Aithiopis , ラテン語 : Aethiopis )は、古代ギリシア の叙事詩 で、トロイア戦争 を描いた叙事詩環 の1つ。話の年代順にいうと『イーリアス 』の直後の話になる。作者はミレトスのアルクティノス と言われる。全部で5巻から成り、ダクテュロス ・ヘクサメトロス (長短短六歩格)で書かれている。しかし、わずかに断片が残っているだけである。
創作年代
『アイティオピス』は紀元前7世紀頃に作られたと言われるが、確かではない。古代の文献は紀元前8世紀としていたが、主要登場人物の1人であるペンテシレイア が芸術の中で表現された最古のものは紀元前600年頃で、それ以降に書かれた可能性もある。
テキスト
『アイティオピス』のオリジナルのテキストはわずか5行が残っているだけである。内容については、プロクロスの『Chrestomathy』の書いた「叙事詩の環」の散文のあらすじに頼るしかない状況である。
内容
『イーリアス 』のラストのヘクトール の葬儀の直後から話ははじまる。
アマゾーン の女戦士ペンテシレイア がトロイア の援軍として到着する。戦闘で束の間の勝利を得た後、ペンテシレイアはギリシア軍のアキレウス に殺される。
アキレウスがペンテレイシアに恋していたと言ったのを、同じギリシア軍兵士のテルシーテース が嘲笑う。アキレウスはテルシーテースを殺し、それで罪を浄める。
ヘーパイストス の作った鎧をつけたメムノーン (エーオース とティートーノス の子)が、エティオピア軍(このエティオピアは、現在のエチオピア とする説と、現在のイスラエル 、ヨルダン 、エジプト の一部を含み、ヤッファ を都としたフェニキア の王国とする説[ 1] がある)を率いてトロイアの加勢にやって来る。
戦いの中で、メムノーンがギリシア軍戦士アンティロコス (ネストール の子)を殺す。アンティロコスはアキレウスの大のお気に入りだったため、アキレウスはメムノーンを殺害。ゼウス はエーオースの頼みでメムノーンを不死にする。しかしアキレウスの怒りはおさまらず、トロイアの城門までトロイア軍を深追いする。そしてスカイアイ門で、アポローン の助けを得たパリス の放った矢によってアキレウスは死んでしまう。アキレウスの死体は大アイアース とオデュッセウス が回収する。
ギリシア軍はアンティコロスの葬式を行う。
アキレスの母親で海のニュンペー (ニンフ)のテティス が姉妹たち、ムーサイ (ミューズ)とやって来て、アキレスの死を嘆き悲しむ。
アキレウスを讃えて葬式の競技が催される。勝者には賞品としてアキレウスの武具が与えられるという。それをめぐって、大アイアースとオデュッセウスの間で確執が広がる。
話はそこまでで、『小イーリアス 』に続く。
影響
ペンテシレイアを殺すアキレウスを描いたアッティカ の赤絵式杯(紀元前470年 - 紀元前460年頃)
古代ギリシアの陶器画家の間で『アイティオピス』の中で描かれた話は人気があった。とくに、ペンテシレイアの死、大アイアースがアキレウスの死体を捜す場面である。
十分な証拠がないにもかかわらず、現代の研究者はよく『アイティオピス』をホメーロス の『イーリアス』のことで引き合いに出す[ 2] 。とくに「新分析 」の研究者たちは、『アイティオピス』のアキレウス:アンティコロス:メムノーンと『イーリアス』のアキレウス:パトロクロス ・ヘクトールの類似性から、そのことを重要なパラダイムとして使っている。このような類似性が存在することの主張は「メムノーン理論(Memnon theory)」として知られている[ 3] 。
脚注
^ サモスのコノン "Narr. 40"
^ G. Schoeck 1961, Ilias und Aithiopis: kyklische Motive in homerischer Brechung (Zurich); J. Burgess 1997, "Beyond Neo-analysis: problems with the vengeance theory", American Journal of Philology 118.1: 1-17; M.L. West 2003, "Iliad and Aithiopis", Classical Quarterly 53.1: 1-14.
^ W. Schadewaldt 1965, Von Homers Welt und Werk (4th ed.; orig. publ. 1944; Stuttgart).
参考文献
A. Bernabé 1987, Poetarum epicorum Graecorum testimonia et fragmenta pt. 1 (Leipzig: Teubner)
M. Davies 1988, Epicorum Graecorum fragmenta (Göttingen: Vandenhoek & Ruprecht)
M.L. West 2003, Greek Epic Fragments (Cambridge, Massachusetts: Harvard University Press )
外部リンク
断片の英語訳