ティツィアーノは女性の化粧の場面を描いている[1]。絵画には若い女性と男性の2人の人物が登場するが、画面の大部分を占めるのは若い女性である。彼女の腰は画面の右方向を向いているが、上半身は左側に回転しており、肩は鑑賞者の側に向き、さらに顔は4分の3正面像となって左側を向いている。彼女の瞳はこの回転を完了し、男性が手に持った小型の鏡を見つめている[2]。彼女は右手に髪の毛を束ねて持っている[3]。美術史家エルヴィン・パノフスキーは、若い女性は髪を「整え」ているのであって「髪をとかしているのではない」と主張している[4]。彼女はもう一方の手で自分の前に置かれた小瓶を持っている。小瓶には香水が入っている可能性もあるが[5]、おそらくは当時ヴェネツィアで髪を脱色するために一般的に使用されていた「アクア・ディ・ジオヴェンディ」(Acqua di Giovendi)と呼ばれるローションと考えられている[6]。若い女性の背後にはひげを生やした男性が立って、彼女をじっと見つめている。彼は彼女に長方形の鏡を見せる一方で、楕円形の大きな別の凸面鏡を持ち上げている。その非常に暗い表面は若い女性の背中と男性の輪郭を映している[5]。それはまた同時にいくつかのインテリアも提示している。窓は最も目に見える要素であり、長方形の白色の光源で表示されているが[5]、明確に区切られていない[7]。したがって、この窓は場面全体の光源を構成しており、その下にある若い女性の後頭部を際立てている[7]。周りには窓枠とその上にある天井の梁といった、いくつかの建築要素が認められる[7]。また寝室には家具として部屋の奥にベッドのように見える大きな長方形の家具が置かれている[7]。最後に逆説的ではあるが、鏡では若い女性が左手を置いている家具を見ることができない[7]。
一方『鏡の前の女』の女性像は1つではなく2つの鏡を使って見ている[32]。ここではより意味のある方法で時間の経過について言及している若者の概念が影響している。ヴァニタスは『旧約聖書』「コヘレトの言葉」の「なんという空しさ、なんという空しさ、すべては空しい」という別の意味を持つ[4]。これは人間の労働や財産の無益さを証明しており、ティツィアーノは美しさなど、誇りに思うことができるあらゆる身体的特徴といった人間の状態の一時的な性格について疑問視している[32]。ここでパノフスキーは『鏡の中の女』と象徴的な相手になるであろうジョルジョーネの『老女』とを結びつけている。2つの絵画はラテン語の「私はかつてあなただった。あなたはいずれ私になるだろう」(Ego fui quod es, eris quod sum)、つまりすべての人間の共通の運命である「死」を思い起こさる[16]。鏡の表面の黒さも重要である。直接見える発光面ではなく、モデルの後ろ姿の見通しの悪い図像を返すこの表面には、退化、したがって死の概念が含まれている[30]。この象徴性が画家の個人的な問いかけの一部である証拠は、同じ時期に制作された絵画『ヴァニティ』を通して現れている。ティツィアーノは『ヴァニティ』で準備素描にはなかった鏡を追加している[33]。最後に『鏡の前の女』の男性とは異なり、女性は自身のはかなさを認識しているようであり、物思いにふける彼女の悲しい視線は絵画の深い意味を伝えている。「我々の前にあるのは、鏡で自分自身を見て、不意に時が過ぎ去り、死を悟るという美である」[4]。
本作品は多くの複製が知られている。ダフィット・テニールスの『ブリュッセルの画廊における大公レオポルト・ヴィルヘルム 』のプラド美術館のバージョンは大公レオポルト・ヴィルヘルム・フォン・エスターライヒのコレクションの中に本作品の複製が存在したことを証言している。1919年、ルイ・ウールティックは大公の所有したもの以外にも、18世紀にオルレアン公フィリップ2世のコレクションで記録された第2の複製や、1815年にフェラーラで記録された第3の複製、1919年にミュンヘンのレーヴェンフェルド男爵(Baron of Lœwenfeld)のコレクションに記録された4番目のものなど、いくつかの複製を挙げている[37]。現在、特にプラハ城美術館とカタルーニャ美術館の2つの複製が際立っている。この2点はルーヴル美術館のオリジナルに非常に近いことが指摘されている。
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