『ルータ王国の危機』(ルータおうこくのきき、英: The Mad King)は、エドガー・ライス・バローズによるアメリカの冒険小説。
概要
本作は全2部で構成されている。第1部は"The Mad King"のタイトルで「オール・ストーリー」に1914年に掲載され、第2部は"barney cuter of bestrice"のタイトルで「オール・ストーリー・キャバリアー」に1915年に掲載された。単行本のタイトルは"The Mad King"(1926年)[1]。日本語訳は『ルータ王国の危機』のタイトルで厚木淳訳、東京創元社〈創元推理文庫〉、1981年7月24日。挿絵、カバーイラスト、口絵は加藤直之。
ヨーロッパにある、ゲルマン系の小国(という設定の架空の王国)[2]ルータを舞台にした冒険小説で、アンソニー・ホープの『ゼンダ城の虜』(1894年)を参考に執筆されている[2]。
第1部「摂政公の反逆」("The Mad King")は、本作の主人公、アメリカ人バーニー(バーナード)・カスターが「母の生国だから」と気まぐれな理由でルータを訪れたところ、幽閉されたレオポルト(ルータ王)がそっくりだったため、陰謀と冒険に巻き込まれる。なお、日本語版題名の「摂政公」はブレンツ公ペーテルを指す。
第2部「2人の国王」("barney cuter of bestrice")は、前作から2年後の物語となる。第一次世界大戦にルータが巻き込まれ、レオポルトがブレンツ公ペーテルを再登用、彼にそそのかされてルータをオーストリア=ハンガリー帝国に売り渡そうとし、アメリカにいる邪魔なバーニーを消そうとしたことから、再びバーニーがルータを訪れる。
補足
第1部と第2部の間に『石器時代から来た男』の第1部が書かれており、バーニーの妹ヴィクトリアがヒロイン役となっている[3]。ただし、本作第1部では、バーニーが父母に思いを馳せるシーンはあるものの[4]、妹については言及されていない。本作第2部では、冒頭(アメリカのシーン)で、わずかながらヴィクトリアが登場している。
登場人物
第1部、第2部を通した登場人物。
- バーニー・カスター
- 本作の主人公。フル・ネームはバーナード・カスター・ジュニア[5]。アメリカ人の父と、ルータ人の母の間に生まれた。流暢なドイツ語を操る。グレーのオープン・カー(ロードスター)で旅をしている最中、ルータに立ち寄った。
- 目は灰色で、髪は褐色、ヒゲは赤褐色である(レオポルトも同様)。ただし、ヒゲは第1部のラストで剃る。
- エマ公女の危機を救うが、誤解から双方が相手を精神異常者だと思い込んだ。
- 30年前にルータを去った母親(ヴィクトリア・ルビンロード)はルータ王族(ルビンロード家)の血を引いており、そのためバーニーとルータ国王レオポルトの容貌が似ていた(レオポルトの父祖の肖像画にも似ている)。本作の最後で王位を継承する。
- エマ・フォン・デア・タン
- 本作のヒロイン。エマ公女、と呼ばれ(たり、または本文に書かれてい)る場合が多い。バローズの(当時の)妻であるエマから名前をとっている[3]。
- 偶然の事故からバーニーに救われる。彼が冗談で「王」と名乗ったことを真に受け、彼を王だと思い込み、周囲を巻き込んだ(ただし、レオポルトとバーニーは瓜二つであり、他の誰もが見抜けなかった。レオポルトの少年期の面影があるほか、バーニーはレオポルトの父祖の肖像画にも似ており、エマはそれらを眺めて育っている)。
- バッツォウ
- ルータ王国の軍人で、階級は中尉。第1部では、初期と終盤に登場。初登場時は「外国帰りで、ルータの実情に疎い」ため、バーニーに敵対した。しかし、礼儀を重んじる態度で接している。終盤での再登場以降は、頼もしい友人となった。
- 第1部のラストで、バーニーと共に国外に逃れる。以後、アメリカのネブラスカ州ビアトリス(バーニーの故郷)で暮らしていたが、ルータが戦争に巻き込まれることが判り、帰国する。第2部でも優秀な軍人であり、なおかつ信頼できる友人として活躍した。
- 本作に先駆けて邦訳された『石器時代から来た男』では、「バッツオー中尉」と訳されている。
- ブレンツ公ペーテル
- ルータ王国の摂政。王位継承を目論んでおり、邪魔なレオポルトを幽閉していた。さまざまな権謀術策を使い、我欲を遂げようとする。第1部で国外追放となったものの、第2部では政治的手腕を発揮してレオポルトに接近、復位しており、なおも王位を狙っている。
- コブリッヒ
- 第1部では陸軍大臣。ペーテルの腹心。
- エルネスト・メンク
- ルータ王国の軍人で、階級は大尉。ペーテルの部下で、現場での荒事や指揮を担当する。
- レオポルト
- 当代の正当なルータ国王。13歳の時(第1部の10年前の少年期)に、先代王(実父)が崩御し、王位を継承した。しかし、ペーテルの「少年王は精神に乱れがある」との言により幽閉生活を余儀なくされていた。
- 第1部では、「長年の幽閉により、猜疑心が強い一方、気が弱く人を信用しない」という状態だった(生来そういう、本当に「精神に乱れがある」性格だった可能性もある)。第1部ラストでは、王位に着いたことにより尊大な地金を発露し、貢献者であるバーニーを処刑しようとする。
- 第2部でも傾向は変わらず、ペーテルに丸め込まれ復位を許し、国を外国に売ろうとするなど、暗君ぶりを発揮する。しかし、頭脳の回転は悪くなく、バーニーとソックリな容貌を利用し、エマ公女との結婚式に花婿として登場した。
- ルートヴィヒ・フォン・デア・タン
- ルートヴィヒ公とも呼ばれる。エマの父親。信望の厚い貴族で、ペーテルの政敵。
第1部のみの登場人物。
- クラーメル
- ターフェルベルク村にある店の主人。国王への忠誠心が厚い。バーニーを国王だと思い込んだ最初の人物で、「ドイツ語を使わないよう」注意した(流暢すぎて外国人だとは思われないため)。
第2部のみの登場人物。
- ヴィクトリア・カスター
- バーニーの妹。『石器時代から来た男』ではヒロインを務めた。本作では、第2部冒頭に登場、バッツォウ中尉との交際を楽しんでいる模様が描かれた。
脚注
- ^ エドガー・ライス・バローズ 「訳者あとがき」『ルータ王国の危機』 厚木淳訳、東京創元社〈創元推理文庫SF〉、1981年、368頁。
- ^ a b 「訳者あとがき」『ルータ王国の危機』 367頁。
- ^ a b 「訳者あとがき」『ルータ王国の危機』 368頁。
- ^ 『ルータ王国の危機』 14頁、他。
- ^ 『ルータ王国の危機』 20頁。