ルフット・ビンサル・パンジャイタン（インドネシア語: Luhut Binsar Pandjaitan, 1947年9月28日 - ）は、インドネシアの政治家、実業家、元軍人。同国第5代海洋・投資担当調整大臣、第13代政治・法務・治安担当調整大臣、エネルギー・鉱物資源大臣代行、初代大統領首席補佐官、第19代産業貿易大臣、駐シンガポールインドネシア大使を務めた。
経歴
1947年9月28日にインドネシア、北スマトラ州、トバ県（英語版）にて5人兄弟の長男として誕生する。父ボナル・パンジャイタンは退役軍人で、シブアルブアリのバス運転手となり、インドネシアのカルテックス石油会社の重役となり、アメリカ合衆国のコーネル大学に留学した。母のシティ・ファリダ・ナイボルフは小学校を卒業していない。ルフットは後に、母親は正式な教育を受けていないにもかかわらず、5人の子供たちに常に正直であること、よく勉強すること、よく働くことを教えたと語っている。ルフットが3歳のとき、一家は父親がカルテックスに就職したリアウ州に引っ越した。ルフトはカルテックスが所有するヤヤサン・センダナ小学校に通った。 その後、プカンバルの中学校に通った。ルフットはシアク川（英語版）で練習する熱心な水泳選手となり、1962年にはリアウ州代表として全国スポーツ大会に出場した。スポーツでの成功にもかかわらず、両親はケンカ好きで素行が悪いと感じ、西ジャワ州バンドンの学校に通わせた[1]。ルフットはバンドンのBPKペナブル高校に通った。高校最後の年、彼は後に妻となるデヴィ・シマトゥパンと出会った。バンドンでもインドネシア学生行動戦線の創設者のひとりとなり、スカルノ大統領の旧体制とインドネシア共産党に抗議した[2]。
1967年、ルフットは父親の反対を押し切ってインドネシア士官学校（英語版）に入学した。3年後、最優秀卒業生に贈られるアディ・マカヤサ賞を受賞した。1974年1月15日、ルフットはジャカルタのマラリ事件反政府暴動で実戦に参加した。ルフットは、中央ジャカルタ市（英語版）のパサール・スネンで暴徒を鎮圧するために、部隊の中隊を率いるよう命じられた。ルフットによると、暴徒はもはや学生デモ隊ではなく、ルフットの部隊に石を投げ始めた。ルフットは部下に威嚇射撃を命じたが、暴徒に影響はなかったという。その後、ルフットは暴徒たちの足に向けて発砲するよう部下に命じたが、部隊はゴム弾を装備していなかったため、その後の混乱で数人が死亡した疑いがあった。ルフットの部下は暴徒をジャラン・ジュアンダ、グロドック（英語版）、そして北ジャカルタのクラマット・トゥンガク売春宿複合施設まで追跡し、ルフットはそこで人権活動家ポンケ・プリンセン（英語版）を逮捕した[3]。ルフットは東ティモールに4回従軍し、最初は28歳のときに1975年12月のインドネシアによる東ティモール侵攻に参加した。当時、ルフットは中尉の階級にあり、アタン・スチスナ少佐が率いるサンディ・ユダ部隊司令部の戦闘分遣隊A中隊長だった。1981年に、プラボウォ・スビアントとともに西ドイツのGSG-9で22週間の訓練を受けた後、ルフットは1982年6月にコパスス対テロ分遣隊81を設立した。歩兵少佐の階級を持つルフットは81分隊の指揮官であり、歩兵大尉のプラボウォはその副官であった[4]。ヘンドロ・スブロト（インドネシア語版）によるシントン・パンジャイタン（英語版）の伝記『Perjalanan Seorang Prajurit Para Komando』によると、プラボウォは1983年3月、軍司令官ベニー・ムルダニと他の将軍たちがスハルトに対するクーデターを計画していることを恐れ、第81派遣部隊に警戒態勢を敷いた。その後、ルフットと野心家のプラボウォの関係は悪化し、ルフットは若い将校の中で「ベニーの部下」とみなされていた。ベニーは後にスハルトの寵愛を受けなくなったが、それはベニーが自分の子供たちの貪欲さが政治的責任になりつつあると大統領に警告したからであり、スハルトはルフットを含むベニーに近い将校の権限を縮小するよう促した[5]。インドネシアの軍事史家サリム・サイードによれば、ルフットはベニーの「黄金の息子」であったため、軍の「脱ベニー化の犠牲者の一人」となり、コパスス長官になることはなかった。コパスス長官の地位は1996年にプラボウォに渡り、ルフットはその年に歩兵兵器・兵器センターの長官に任命された。1988年、ルフットはワシントンD.C.のジョージ・ワシントン大学を卒業し、行政学の修士号を取得した。翌年には、同市の国防総合大学を卒業。1998年5月のスハルト政権崩壊後、1999年1月のウォール・ストリート・ジャーナルは、ルフットは「高く評価されている...スハルト時代の広範な汚職や人権侵害の疑惑に染まっていない」と報じた[6]。同報道は、数十年にわたる弾圧の末に政治的イスラム教が台頭していた時代に、ルフットがキリスト教徒であることを除けば、軍司令官候補候補になりうると指摘した。キブラン・ゼン退役将軍によると、ルフットとプラボウォの関係は、両者とも軍を去り実業界に入った後に改善された。
1999年、ユスフ・ハビビ大統領はルフットを駐シンガポールインドネシア大使に任命し、両国関係の改善に貢献したと評価された[7]。2000年4月26日、ハビビ大統領の後任アブドゥルラフマン・ワヒド大統領は、ルフットを19代産業貿易大臣に任命し、2001年7月にワヒド大統領が退陣するまで同職を務めた。ワヒドの後継者であるメガワティ・スティアワティ・スカルノプトゥリはルフットに同じ役職を提案したが、ルフットはそれを辞退し、後にワヒドに対する道義的責任を感じたと説明した[8]。最初の大臣就任後、ルフットは2003年にインドネシア国家スポーツ委員会（英語版）の委員長に立候補したが、同じ退役将軍のアグム・グメラル（英語版）に敗れた[9]。その後、ルフットはゴルカルに入党し、2008年から2014年まで副党首となった。2014年5月、ゴルカルがプラボウォ・スビアントの大統領選立候補を支持することを決定したため、党を辞任した。
木材プランテーションを所有するルフットの会社PTトバ・セジャトラは2009年、当時中部ジャワ州のスラカルタ市長だったジョコ・ウィドドが所有する家具会社PTラカブと合弁会社を設立した。ルフットはウィドドの政治的出世の手助けをした。2014年にインドネシア大統領に選出されたウィドドは、2014年12月31日にルフットを初代大統領首席補佐官に任命した。アナリストたちは、ルフットはメガワティとの庇護関係がないため、ウィドドがメガワティの傀儡であるという主張に対抗できると指摘した[10]。2014年、ルフットはウィドドの選挙活動を支援するボランティア組織のブラボー5の議長を務めた。2015年8月12日、ルフットは第13代政治・法務・治安担当調整大臣に任命され、2016年7月27日に第5代海洋・投資担当調整大臣に任命されるまで同職を務めた。 2019年10月のウィドドの再選に伴い、ルフットの大臣職は投資をカバーするように拡大された。その強い影響力から、インドネシアのメディアはルフットを「首相」「大統領に次ぐ影響力を持つ閣僚」「実質的な副大統領」と表現している[11]。2020年1月、ルフットはゴルカル諮問委員会の委員長に任命された。同年3月13日、ルフットは新型コロナウイルス感染症に陽性反応を示したブディ・カリヤ・スマディの後任として、運輸大臣代行に任命された[12]。
脚注
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