『船を見る』(1997年)は、それまで模索してきたダンス、ヴォイス、空間の要素が融合し、演出の小池博史も「自分のめざしていたレベルに達したと思った」と語った[14]、パパ・タラフマラの代表作の一つである。2002年、新演出の『SHIP IN A VIEW』がヴェネツィア・ビエンナーレの招待作品として上演されたほか、南米、アジア、北米など世界各地で公演されている。同作品は海外でも高く評価され、イタリアの『ガッゼッティーノ』紙では「振付家の小池博史は、飛び抜けた発想で東洋的なものと西洋的なものとを組み合わせ、視覚的にも感情的にも衝撃的な、独自の言語を創造していることが伺えた」[15] と評された。
『WD』(2001年)は全4章、上演約3時間の作品であり、「What have we done? われわれは何をしてきたか」をテーマに、戦争や人種差別など社会的問題をストレートに表現している。各4章はそれぞれ「I was Born」「Love Letter」「So What?」「The Sound of Future SYNC.」と題され、約2年かけて章ごとに制作、公演していくワーク・イン・プログレスという手法が取られた。韓国、マレーシア、アメリカ出身のパフォーマーを出演させ、各章のワーク・イン・プログレス公演も海外で行われている。音楽の面でも、それまでは菅谷昌弘によるミニマル・ミュージックが多かったが、リュウ・ソーラ(劉索拉)、中川俊郎、種子田郷らを加え、ブラスバンドやオーケストラ等の新たな取り組みを行った。
第8期
小池は、ガルシア=マルケスの『百年の孤独』を上演することがパパ・タラフマラ創設時からの目標の一つであったと述べている[16]。ある一族の誕生・繁栄・終末までを描いた『HEART of GOLD―百年の孤独』(2005年)は、結成から二十数年間の活動の一つの集大成として、ブラジル、アメリカ、日本など各国のパフォーマーとアーティストと共に制作された。「新たな身体言語、身体表現のさらなる進化・拡張を目指す刺激的な舞台」と評価されている[17]。
三浦宏之(みうら ひろゆき):1996年から2002年まで参加し、『草迷宮』(1996年)、『船を見る』(1997年)、『WD』(2001年)等、多くの作品に出演。1999年から2021年まで、ダンスカンパニーM-laboratory主宰。2021年からCenter line art festival Tokyo フェスティバルディレクターを務める。現在、Works-Mアートディレクター、作家、美術家として活動。