自転車ロードレースにおけるクラシック(英: Classic, 仏: Classique, 伊: Classiche)とは、一般的には一日で競技を終了する「ワンデイレース」のなかで、特に高い格式を持つレースを指す[注釈 1]。ツール・ド・フランスのように複数日にわたって行われる「ステージレース」は、いかに歴史や格式があってもクラシックとは呼ばれない。20世紀終盤以降[注釈 2]に作られたレースの中にはユーロアイズ・サイクラシックスやクラシカ・サンセバスティアンのように歴史が浅くても「クラシック」を名乗るレース[注釈 1]や、ワールド・ポーツ・クラシックのようにステージレースであるにもかかわらず「クラシック」を名乗るレースが存在する。
クラシックと呼ばれるレース
ロードレースにおいては、厳密な定義はないものの、現在では以下のレースなどが「クラシック」と呼ばれることが多い。
※ ()内は第1回大会の開催年度。太字はモニュメント。
かつてワンデイレースの最高カテゴリーであったUCI・ロードワールドカップに所属していたパリ〜ツールやチューリッヒ選手権がUCIプロツアーの時期に下位カテゴリーのUCIコンチネンタルサーキット以下に格下げされたり、かつては「セミ・クラシック」と呼ばれたレースが当時最高カテゴリーのUCIプロツアーに加わったり、さらにUCIワールドツアーが2017年に拡張された際に新しいレースが最高カテゴリーのUCIワールドツアーに加えられるなど、レースの歴史の長さと格付け・権威が必ずしも一致しない傾向も強まっており、「クラシック」の定義は曖昧になっている[注釈 1]。UCIは2020年より、UCIワールドツアーのワンデイレースのうち、「クラシック」とされるレースのみのポイントによる「UCIクラシックシリーズ」を開始する予定であったが、延期となっている[1]。
モニュメント
ミラノ〜サンレモ (Milan-Sanremo)、
ロンド・ファン・フラーンデレン (Ronde van Vlaanderen)、
パリ〜ルーベ (Paris - Roubaix)、
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ (Liège - Bastogne - Liège)、
イル・ロンバルディア (Il Lombardia) の五つは、クラシックの中でも、とりわけ古い歴史があり、記念碑的なレースという意味合いを込めて、モニュメント (The Monuments) と呼ばれ、「クラシック」の定義が曖昧になった現在でも高い権威を保ち続けている。ミラノ〜サンレモは「プリマヴェーラ(春)」「クラッシチッシマ(最高のクラシックレース)」、ロンド・ファン・フラーンデレンが「クラシックの王様」、パリ〜ルーベが「北の地獄」「クラシックの女王」、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュが「ラ・ドワイエンヌ(最古参)」、イル・ロンバルディアが「落ち葉のクラシック」と呼ばれるなど、いずれのレースにもさまざまな異名が付けられ親しまれている。
UCIポイントも2022年まではヘント~ウェベルヘムやアムステルゴールドレースと同じ500ポイントだったが2023年からモニュメント5レースのみ800ポイントに格上げされた
モニュメント全制覇達成者
過去にモニュメント全制覇を達成した選手は、以下の3人がおり、最多優勝回数はメルクスの19回となっている。達成順に列挙する。
ファン・ローイとメルクスは、ワンデイレースの最高峰と目されるロード世界選手権・個人ロードレース種目でも優勝経験がある。
- リック・ファン・ローイ(
ベルギー):8回
大会 |
優勝回数 |
優勝年度
|
ミラノ〜サンレモ |
1回 |
1958
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ロンド・ファン・フラーンデレン |
2回 |
1959・1962
|
パリ〜ルーベ |
3回 |
1961・1962・1965
|
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ |
1回 |
1961
|
ジロ・ディ・ロンバルディア |
1回 |
1959
|
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- エディ・メルクス(
ベルギー):19回
大会 |
優勝回数 |
優勝年度
|
ミラノ〜サンレモ |
7回 |
1966・1967・1969・1971・1972・1975・1976
|
ロンド・ファン・フラーンデレン |
2回 |
1969・1975
|
パリ〜ルーベ |
3回 |
1968・1970・1973
|
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ |
5回 |
1969・1971・1972・1973・1975
|
ジロ・ディ・ロンバルディア |
2回 |
1971・1972
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- ロジェ・デ・フラーミンク(
ベルギー):11回
大会 |
優勝回数 |
優勝年度
|
ミラノ〜サンレモ |
3回 |
1973・1978・1979
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ロンド・ファン・フラーンデレン |
1回 |
1977
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パリ〜ルーベ |
4回 |
1972・1974・1975・1977
|
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ |
1回 |
1970
|
ジロ・ディ・ロンバルディア |
2回 |
1974・1976
|
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モニュメント優勝回数ランキング
モニュメント歴代優勝者
開催時期
3月にミラノ〜サンレモで春のクラシックシーズンが幕を開け、4月に入るとベルギー北部のフランドル地方を中心として、「フランドル・クラシック」もしくは「石畳のクラシック」と呼ばれる3連戦、ロンド・ファン・フラーンデレン、ヘント〜ウェヴェルヘム、パリ〜ルーベが開催される。
4月の後半からは舞台をベルギー南部のアルデンヌ地方へと移し、「アルデンヌ・クラシック」と言われるアムステルゴールドレース、フレッシュ・ワロンヌ、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュが行われる。
以後ジロ・デ・イタリア、ツール・ド・フランスといったグランツールによるしばらくの中断をはさみ、8月にはクラシカ・サンセバスティアン、ユーロアイズ・サイクラシックスが開催される。
最後のグランツールであるブエルタ・ア・エスパーニャの終了後、世界選手権の開催を経て、秋のクラシックであるイル・ロンバルディア、パリ〜ツールが行われる。
レースの特徴
アルデンヌ・クラシックのようにアップダウンが絶え間なく続くレースがあれば、パリ〜ツールのように延々平坦なコースが続くレースもあるほか、イル・ロンバルディアのように長い上りが設定されるレースもあるといった具合に特徴的なコースレイアウトがされているものが多い。またパリ〜ルーベやロンド・ファン・フラーンデレンのように通常走らないような悪路や急坂を走る、あるいはミラノ〜サンレモのように極端な長距離を走るなど、独特な性格を持つものもある。
こうしたことに加え「1日で勝負が付くこと」「レースの格式が高いこと」があいまって、クラシックでは間断のないアタック合戦の様相を呈することが多いため、ステージレースとはまた異なるそれぞれのレースの特徴にあわせた戦略や走り方が必要になってくる。
ミラノ〜サンレモやパリ〜ツールなどはスプリンターがエースになることが多いが、上りが多かったり、ゴール手前が上りになっているアルデンヌクラシックのようなレースはパンチャー、オールラウンダー、クライマーが勝利を狙う。ただ、パンクや落車などの不確定要素も多く、序盤から中盤で集団からエスケープしたルーラーたちが、そのまま逃げ切ってしまうことも少なくない。
ロードレースにおける位置づけ
クラシックでの勝利は極めて価値の高いものであり、1勝でもすれば生涯の勲章となる。自国で開催されるクラシックに対してはグランツールでの勝利以上に重きを置く選手も多い。ファンらは俗に彼らのことを、「クラシックハンター」と呼んで尊敬している。
「クラシックハンター」と呼ばれる主な選手
一方、ファウスト・コッピ(
イタリア)、エディ・メルクス(
ベルギー)やベルナール・イノー(
フランス)も多くのクラシックを制しているが、彼らはステージレースでも同様の強さを発揮したためか、そのように呼ばれることはほとんどない。
脚注
注釈
- ^ a b c 英語 "classic" の第一の意味は「一流の」という意味であり、「最高クラスの」を意味するラテン語を語源とする。必ずしも「古い」という意味ではない。研究社『ライトハウス英和辞典』1984年、237頁。
- ^ 詳しくはリンク先のそれぞれのレースの開始年を参照のこと。
出典