エンドヌクレアーゼ (英 : endonuclease )は、ポリヌクレオチド 鎖内部のホスホジエステル結合 を切断する酵素 である。デオキシリボヌクレアーゼI (英語版 ) (DNase I)など一部の酵素はDNAを非特異的に(配列に関係なく)切断するが、一般的に制限酵素 と呼ばれる多くの種類は特定のヌクレオチド配列のみを非常に高い特異性で切断する。エンドヌクレアーゼは、認識配列の末端ではなく内部(endo-)を切断する点で、エキソヌクレアーゼ とは異なる。一方、一部の酵素は"exo-endonuclease "として知られ、エンドヌクレアーゼ様の活性とエキソヌクレアーゼ様の活性の双方を示す[ 1] 。エンドヌクレアーゼの活性には、エキソヌクレアーゼの活性と比較して遅れがみられることが示唆されている[ 2] 。
制限酵素は、特定のDNA配列を認識する、真正細菌 や古細菌 由来のエンドヌクレアーゼである[ 3] 。一般的に、制限酵素認識部位は4から6ヌクレオチドの長さの回文配列 となっている。大部分の制限酵素は、相補的な一本鎖末端を残すような形で切断する。こうした末端はハイブリダイゼーションによって再連結することができ、「粘着末端」と呼ばれる。末端どうしが対合すると、断片はDNAリガーゼ によって連結される。これまで数百種類の制限酵素が知られており、それぞれ異なる部位を攻撃する。同じ酵素によって切断されたDNA断片は、異なる起源のDNAどうしであっても連結することができる。こうして作られたDNAは組換えDNA と呼ばれる[ 4] 。制限酵素はその作用機序によってタイプI、II、IIIの3つのカテゴリに分類される。こうした酵素は、細菌、植物、動物細胞へ導入するための組換えDNAを作製するための遺伝子操作 によく利用され、また合成生物学 においても利用される[ 5] 。Cas9 もよく知られたエンドヌクレアーゼの1つである。
制限酵素
制限酵素は、特異的配列の切断に関して3つのカテゴリに分類される。タイプIとIIIはエンドヌクレアーゼ活性とメチラーゼ 活性を持つ多サブユニット複合体である。タイプIは認識配列から約1000塩基対もしくはそれ以上離れたランダムな部位を切断し、エネルギー源としてATP を必要とする。タイプIIは1970年にHamilton Smithによって初めて単離された、より単純なエンドヌクレアーゼであり、分解過程にATPを必要としない。タイプII制限酵素の例としては、Bam HI、Eco RI 、Eco RV 、Hin dIII 、Hae IIIなどがある。タイプIIIは認識配列から約25塩基対離れたDNAを切断し、ATPを必要とする[ 4] 。
DNA修復
エンドヌクレアーゼはDNA修復 にも関与している。APエンドヌクレアーゼ (英語版 ) はAP部位 (英語版 ) でのみDNAへの切り込み(incision)を触媒し、その後のDNAの切除(excision)、修復合成、ライゲーションに備える。例えば脱プリン 化が生じた際には、塩基 を持たないデオキシリボース が残される[ 6] 。APエンドヌクレアーゼはこうした糖を認識してこの部位のDNAに切り込みを入れ、DNA修復の継続を可能にする[ 7] 。
一般的なエンドヌクレアーゼ
原核生物、真核生物の一般的なエンドヌクレアーゼの表を下に示す[ 8] 。
原核生物酵素
由来
コメント
RecBCD エンドヌクレアーゼ
大腸菌
一部はATP依存的、エキソヌクレアーゼ活性も持つ。組換えや修復に機能する。
T7エンドヌクレアーゼ (P00641 )
T7ファージ (gene 3)
複製に必要不可欠。二本鎖DNAよりも一本鎖DNAに対する選択性。
T4エンドヌクレアーゼII (P07059 )
T4ファージ (denA)
-TpC-配列を切断し、5'-dCMP末端を持つオリゴヌクレオチドを形成する。反応産物の長さは条件によって変化する。
Bal 31エンドヌクレアーゼ
Pseudoalteromonas espejiana
エキソヌクレアーゼとしても作用する。二本鎖DNAの3'、5'末端を削りとる。反応が速い酵素と遅い酵素の少なくとも2種類のヌクレアーゼの混合物である[ 9] 。
エンドヌクレアーゼI (endoI; P25736 )
大腸菌 (endA)
ペリプラズム に局在。反応産物の平均的長さは7塩基。tRNA によって阻害される。二本鎖切断を形成する。tRNAとの複合体形成時にはニック が形成される。この酵素の変異体は正常に生育する。
ミクロコッカスヌクレアーゼ (英語版 ) (P00644 )
ブドウ球菌
3'-P末端を形成する。Ca2+ 要求性。RNAにも作用する。一本鎖DNAとATリッチ領域に対する選択性。
エキソヌクレアーゼIII (exoIII; P09030 )
大腸菌 (xthA)
AP部位の隣で切断する。3'->5'エキソヌクレアーゼ活性も持つ。3'-P末端に対するホスホモノエステラーゼ活性。
真核生物酵素
由来
コメント
Neurospora endonuclease[ 10]
アカパンカビ , ミトコンドリア
RNAにも作用
S1ヌクレアーゼ (英語版 ) (P24021 )
ニホンコウジカビ
RNAにも作用
P1 nuclease (P24289 )
Penicillium citrinum
RNAにも作用
Mung bean nuclease I
緑豆 スプラウト
RNAにも作用
Ustilago nuclease (DNase I)[ 11]
Ustilago maydis
RNAにも作用
DNase I (P00639 )
ウシ膵臓
反応産物の平均的長さは4塩基。Mn2+ の存在下で二本鎖切断を形成する。
APエンドヌクレアーゼ (英語版 )
核, ミトコンドリア
DNA塩基除去修復 経路に関与
Endo R[ 12]
HeLa細胞
GC部位特異的
疾患との関係
色素性乾皮症 は、エンドヌクレアーゼの欠陥によって引きこされる稀な常染色体劣性 遺伝疾患である。変異を抱える患者は、日光によって引き起こされたDNA損傷を修復することができない[ 13] 。
鎌状赤血球症 はヘモグロビン β鎖の点変異 によって引き起こされる疾患である。変異による配列の変化によって制限酵素MstIIの認識部位が消失するため、この酵素を診断に利用することができる[ 14] 。
tRNAのスプライシング に関与するエンドヌクレアーゼの変異によって、橋小脳低形成 (英語版 ) (PCH)が引き起こされる。PCHはtRNAスプライシングエンドヌクレアーゼ複合体の4つのサブユニットのうちの3つの変異によって引き起こされる、常染色体劣性神経変性疾患 群である[ 15] 。
出典
^ “Properties of Exonucleases and Endonucleases ”. New England BioLabs (2017年). May 21, 2017 閲覧。
^ Slor, Hanoch (April 14, 1975). “Differenttation between exonucleases and endonucleases and between haplotomic and diplotomic endonucleases using 3H-DNA-coated wells of plastic depression plates as substrate” . Nucleic Acids Research 2 (6): 897–903. doi :10.1093/nar/2.6.897 . PMC 343476 . PMID 167356 . https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC343476/ .
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関連項目