Il-38
ロシア海軍のIl-38
イリューシン Il-38(ロシア語: Ильюшин Ил-38、NATOコードネーム:メイ(May、5月の意))は、ソビエト連邦のイリユーシン設計局で開発されたターボプロップ哨戒機である。
概要
原型となったのは4発ターボプロップ旅客機Il-18で、後に対潜哨戒機として生まれ変わった。これはロッキードのP-3 オライオンと軌を一とする為『ロシアン・オライオン』とも呼ばれる[1]。
Il-38の存在は1970年に西側にも知られたが、実際は1967年から量産されていた。旧ソ連時代には北大西洋やバルト海を哨戒していたが、時にはイエメンやリビア、シリア等の中東にも派遣され、地中海、紅海、インド洋にも姿を見せた。2010年代以降は日本近海にも姿を見せ、航空自衛隊機によるスクランブルが行われている。2018年11月8日には、Il-38Nも確認された[2]。
20以上の国で運用されたP-3とは対照的に、Il-38はソ連海軍とインド海軍に配備されたのみである。ソ連海軍のIl-38はロシア海軍に継承され、改装されつつ運用されている。
2024年9月23日午後1時〜3時半過ぎにかけ、本機が3回に渡り北海道礼文島北方の領海上空を領空侵犯。航空自衛隊のF-15及び、F-35戦闘機が無線による通告及び、警告をした。それに従わなかったため、自衛隊初のフレアによる警告等の対応を行った[3]。また、今回領空侵犯を行った本機は、爆弾倉が開いていた。
設計
Il-38では真円断面の胴体は原型の旅客機Il-18と基本的に変わらないが、重心位置の変化に伴い主翼が前よりに取り付けられている。胴体後端にはMADのブームが、機首下面にはマッシュルーム形のレドームが張り出し、機体各所にESM等のアンテナが見える。
主な武装は対潜ホーミング魚雷、爆雷、機雷で、主翼キャリースルー前後の兵装ベイにソノブイとともに収容する。また、Kh-35(NATOコードネーム AS-20 カヤック)空対艦ミサイルを翼下に搭載することも可能。
型式
- Il-38
- 標準型
- Il-38SD
- インド海軍向け改良型。機首上に、ノヴェッラ海上探知システム複合体を搭載した。複合体は、高解像度の熱映像システム、MAD、レーザとTVとIRを含む光学センサなどから構成され、半径320km以内の空中目標、レーダー索敵範囲内の水上、水中目標を探知可能である。デジタルコンピュータの操作には2人のオペレータを要する。
- Il-38N
- 現在配備中の改良型。Il-38SDと同様、機首上にノヴェッラ海上探知システム複合体を搭載し、機体を濃灰色の洋上迷彩に再塗装した機体。
運用国
ロシア
- ソ連からの引継いだ機体をロシア海軍が運用。
インド
- インド海軍。5機採用。2016年までにIl-38SDに近代化改修された。
保存機
1機のIl-38がウクライナルハーンシクの航空技術博物館(英語版、ロシア語版)で屋外展示されている。
性能諸元
※使用単位についてはWikipedia:ウィキプロジェクト 航空/物理単位も参照
- 全長: 39.60 m
- 全幅: 37.42 m
- 全高: 10.16 m
- 主翼面積: 140 m2
- 自重: 33,700 kg
- 全備重量: 63,500 kg
- 発動機: イフチェンコAI-20M(英語版) ターボプロップエンジン (4,250 shp)×4
- 最大速度: 650 km/h
- 航続距離: 9,500 km
- 実用上昇限度: 10,000 m
- 乗員: 7-8名
- 武装: 爆雷、魚雷など(9,000 kgまで)、Kh-35空対艦ミサイル
- レーダー: ウエットアイ水上捜索レーダー。ベルクート洋上捜索レーダー。
主な対潜哨戒機との比較
主な対潜哨戒機の比較表
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P-3C[4][5]
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Il-38[1]
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アトランティック
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P-8[6]
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P-1
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画像
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全長
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35.6 m
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39.60 m[1]
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31.75 m
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39.5 m
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38 m
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全幅
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30.4 m
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37.42 m[1]
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36.30 m
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37.6 m
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35.4 m
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全高
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10.3 m
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10.16 m[1]
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11.33 m
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12.83 m
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12.1 m
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発動機
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T56A-14×4
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イフチェンコ AI-20M×4[1]
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タイン RTy.20 Mk 21×2
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CFM56-7B×2
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F7-10×4
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ターボプロップ
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ターボファン
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最大離陸重量
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63.4 t
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66 t[1]
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44.5 t
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85.8 t
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79.7 t
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実用上昇限度
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8,600 m
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10,000 m[1]
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10,000 m
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12,500 m
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13,520 m
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巡航速度
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607.5 km/h
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不明
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556 km/h
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810 km/h
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833 km/h
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航続距離
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6,751 km
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7,500 km[1]
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9,000 km
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8,300 km[7]
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8,000 km
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戦闘行動半径
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4,410 km
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不明
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不明
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3,700 km[8]
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不明
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最大滞空時間
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15時間
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13時間[1]
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不明
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10時間[9]
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不明
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乗員
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5-15名
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7-8名[1]
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12名
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9名
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11名
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運用開始
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1962年8月
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1971年
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1965年
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2013年3月
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運用状況
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現役
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採用国
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20
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2
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5
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6
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1
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出典
- ^ a b c d e f g h i j k Borst, Marco P.J. (Summer 1996). “Ilyushin IL-38 May- the Russian Orion” (pdf). Airborne Log (Lockheed): 8–9. http://www.p3orion.nl/il-38%20may.pdf.
- ^ “(お知らせ)ロシア機の日本海における飛行について”. 統合幕僚監部. (2018年11月8日). https://www.mod.go.jp/js/Press/press2018/press_pdf/p20181108_01.pdf 2021年12月19日閲覧。
- ^ “ロシア軍機の領空侵犯、無線の通告に従わず3回目で空自戦闘機が「フレア」で警告…防衛省が発表”. 読売新聞. (2024年9月23日). https://www.yomiuri.co.jp/national/20240923-OYT1T50072/ 2024年9月25日閲覧。
- ^ アメリカ海軍 (2009年2月18日). “The US Navy - Fact File: P-3C Orion long range ASW aircraft” (英語). 2013年6月10日閲覧。
- ^ Lockheed (1994年2月23日). “Standard aircraft characteristics - P-3C Update II” (PDF) (英語). 2013年6月10日閲覧。
- ^ Boeing Defense, Space & Security (2013年3月). “P-8A overview” (PDF) (英語). 2013年6月10日閲覧。
- ^ Boeing: P-8
- ^ Military-Today.com (2013年). “Boeing P-8 Poseidon Maritime Patrol Aircraft” (英語). 2013年6月10日閲覧。
- ^ Boeing: P-8 Quick Facts
参考文献
- エアワールド1995年6月別冊「世界の軍用機年鑑1994~95」(エアワールド)
関連項目
外部リンク