『FLOWERS』は、Innocent Greyが開発したミステリーADVジャンルのコンピュータゲームシリーズ。全4部作。第一章『FLOWERS -Le volume sur printemps-(春篇)』、第二章『FLOWERS -Le volume sur été-(夏篇)』、第三章『FLOWERS - Le volume sur automne -(秋篇)』、第四章『FLOWERS - Le volume sur hiver -(冬篇)』、全四篇収録の『FLOWERS - Les quatre saisons -(四季)』が発売されている。
本作は全寮制のミッション系女学院を舞台とし、少女たちの恋愛と青春を描いた百合系ミステリィ・アドベンチャーゲームである。基本的なシステムはチャプター形式のアドベンチャーゲームだが、考え込みがちな主人公・蘇芳の性格を反映して、彼女の考えが吹き出しとして現れるという演出がとられている[2]。
これまでInnocent Greyが発表してきた猟奇的な成人向けミステリ作品とは異なり、今作は一般向け(全年齢対応)で、18禁版の発売予定はなく、未成年のユーザーでも楽しめるようにするため、過去作品とは無関係の独立した作品となっている[3]。Innocent Greyのスタッフである杏は、Game-Styleに寄せたコメントで「このゲームには死者が出るといったショッキングなシーンはない」と明言している[4]。
また、Innocen Greyの代表で、本シリーズの総監督を務めるスギナミキは「本作は『マリア様がみてる』の影響を受けており、少女たちの心のつながりに重きを置いた」と話している[3]。
2014年10月9日発売のPSP移植版にはスクリーンショット等の機能が追加された。同時発売のPS Vita版ではPSP同様の機能に加えてタッチ操作にも対応。PlayStation Vita TVでのプレイにも完全対応している[5]。
女子校である聖アングレカム学院は、仮初の友をつくって学園生活を共にする制度"アミティエ"を設けていた。白羽蘇芳は"アミティエ"によって自らの心の傷をいやすべく、その学校に編入した[6]。
匂坂マユリは白羽蘇芳と恋人同士になるも、なぜか学院を去る。同じころ、考崎千鳥という少女が編入し、八重垣えりかのアミティエとなるが、出会って早々えりかを卑怯者呼ばわりする。 ある日、生まれたばかりの子うさぎがいなくなるという事件が起き、飼育小屋の管理者である千鳥に疑いがかけられる。 千鳥本人は自分の状況については気にかけていない一方、蘇芳がうさぎの世話で寂しさを紛らわしていたことを知っていたえりかは事件の調を預かることを決め、千鳥とともに事件解決にあたった。 その後も、えりかと千鳥はアミティエとして、学院で起きた奇妙な事件の解決に動くのであった[7]。
夏に、八重垣えりかに背中を押された白羽蘇芳は、学院を去った勾坂マユリの行方を探す決意をする。その中、八代譲葉はある条件を達成すれば、白羽蘇芳に「勾坂マユリが消えた事に関する手掛かりを教える」旨を伝え、白羽蘇芳はそれを達成しようと奔走する。
蘇芳は、困難の末にニカイアの会の会長の座と「始まりであり終わりの七不思議」の名を得、念願だったマユリとの再会を果たすが、マユリから自分のことを忘れるように言われてしまう。
登場人物は花にちなんだ名前がつけられている。各篇のタイトルロゴ背景には、物語の中心人物のモチーフとなった花々が描かれている。
スギナはInnocen Greyのデビュー作『カルタグラ 〜ツキ狂イノ病〜』を制作中に『マリア様がみてる』を知り、心のつながりに重きを置いた百合作品を作ることを目指した[3]。 スギナは、「流行に流されることなく、自分たちが作りたい百合を作る」という方向性を打ち出しており、ライトノベル調ではなく、耽美さや文学的な要素を求めていたため、シナリオライターには文学的な文体を得意とする志水はつみが採用された[24]。採用されてからまもないころの志水が提出したサンプル文章はライトノベル調だったが、やり直しと話し合いを繰り返した結果、志水の持つ文学的な要素が現れ、スギナの思惑が当たる形となった[24]。 一般的なギャルゲーのシナリオではセリフを多用するのに対し、本シリーズのシナリオはト書きを多用する[24]。
スギナは冬篇の発売前に行われたおたぽるとのインタビューの中で、「元々『FLOWERS』は息抜きのつもりで制作を始めたが、いざ作り始めると作品を重ねるごとにより良い作品を作ろうという気持ちが強まり、息抜きどころかライフワークとも言うべき規模になってしまった」と振り返っている[25]。その例としてスギナはCGの枚数の増加を挙げており、初期案にはなかった「季節ごとに制服のデザインを変化させる」といった作業が行われた結果、シリーズが進むにつれてCGの枚数が増加し、秋篇のCGが差分込みで春篇よりも20枚増加した[25]。
キャスティングは、作品性と嗜好性を重視した人選が行われた[25]。
本シリーズの音楽は、長年Innocent Greyの作品の音楽を手掛けたMANYOが制作した[24]。 春篇では春の優雅な雰囲気を出すためにストリングスが、夏篇では涼しさを出すためにアコーディオンがそれぞれ多用されており、これらの提案はMANYOによるものである[24]。 春篇から秋篇までの主題歌は『カルタグラ』の主題歌を歌った霜月はるかが担当しており[3]、冬篇では霜月と鈴湯が一緒に主題歌を歌っている[26]。 スギナは霜月を採用した理由について「歌声の中に狂気を感じさせられる」と述べている[3]。
本シリーズははじめから全年齢向け作品として制作されており、未成年のユーザーでも楽しめるようにするため、過去にInnocen Greyが発表した成人向け作品とはつながりのない世界観が構築された[3]。
春篇はブランド初の全年齢向け作品だったこともあり、スタッフは全年齢向け作品における性的表現の規制に対する理解が不十分だったため、開発末期にはCGの修正に翻弄された[27]。
スギナは春篇ではマユリが学院を去る結末が反響を呼んだことについて、「あの結末は四部作全て通して一番重要なところなのでそれを踏まえてあの内容にした」と工画堂スタジオとの対談の中で述べたほか[24]、冬篇発売前に行われたおたぽるとのインタビューの中でも同様の考えを示している[27]。
夏篇ではメインとなるカップルが春篇とは異なることから、きちんと恋愛してすっきりした結末を迎えることが意識され、えりかと千鳥の恋愛をメインとしつつも、マユリを想う蘇芳の姿も描かれた。その一環として、初回限定版として付属したサウンドドラマはえりかと千鳥が恋人同士という前提で物語が展開する[24]。 また、百合ものの作品を発表しているブランドの広報担当者からのアドバイスを基に、カップリングを前面に出した広報活動が行われた[24]。
「オトナ百合」をテーマにした秋篇は、上級生である譲葉とネリーの二人に焦点を当てている[28]。 スギナはテックジャイアンとのインタビューの中で、「本作は色気を重視しているためエロくなるのはNGであり、二人の胸回りや谷間などどうしてもエロくなりそうなところもあるが、エロさを主張しすぎないように気を付けた」と述べている[28]。
スギナは秋篇のシナリオを「メリーバッドエンド(受け手によって解釈が変わる結末)」にするつもりだったが、本シリーズのシナリオを担当する志水はつみを説得できず、当初案からその要素を弱めた内容にした[27]。
冬篇は蘇芳とマユリの再会をメインの題材としており、スギナは2人の再開までの道のりとその後の関係が課題だったと冬篇の発売前インタビューの中で振り返っている[29]。
初期のシナリオ案ではマユリの登場を後半に限定していたが、それでは感動するだけのいい話に終わってしまうことから、プロット全体の見直しが行われ、序盤でマユリと蘇芳が切ない再会を果たすという内容に変更された[29]。スギナは「冬篇の制作までに想定以上の時間がかかってしまい、マユリ役の岡本理絵には待たせて申し訳ないが、その分素晴らしい演技を見ることができ、夏・秋篇で中途半端にマユリを登場させなくてよかった」と冬篇の発売前インタビューの中で振り返っている[29]。
スギナは「秋篇が発売された段階で本シリーズ全体のプロモーションは完了しており、ユーザーにはまっさらな気持ちで冬篇を迎えてほしい」と冬篇の発売前に行われたおたぽるインタビューの中で述べており、ユーザーが冬篇の物語の結末を先に想像してしまうことを防ぐため、発売日まではホームページのCGのページをあえて公開せず、CMやパンフレットなどの宣材にはネタバレにならない素材を使用した[29]。 また、同様の理由で冬篇のオープニングムービーも本編からの流用ではなく、本編とは別に描き下ろされたものが使用された[26]。
本シリーズは開発費を回収できるほどの売り上げは達成できなかったものの、コンサートなどゲーム以外の分野での活動により開発費を回収できた[25]。 また、本シリーズの人気に伴いInnocent Greyの成人向け作品の人気も上がった[25]。
春篇はユーザーから好評を持って受け入れられ、週刊ファミ通新作ゲームクロスレビューシルバー殿堂入りを果たした[30]。
ゲームライターのTOKENはゲーム情報サイトGamerによせたコラムの中で「主人公・蘇芳に起きた一つ一つの出来事が丁寧に描かれているだけでなく、蘇芳の考えが吹き出しとして現れる演出により、彼女の心の機敏さがよく表れている」と評価している[2]。 また、Hardcore Gamerのマーカス・エストラーダは春篇を「百合好きにとってのビッグニュース」と呼び、本シリーズのデザインを非常に美しいと評した[31][32]。 その一方、ユーザーからは「物語に推理パートのヒントが少なく、推理というよりはむしろユーザーの知識を基にしたクイズのようだ」という指摘や、「レイニー止め」とあだ名されるほど衝撃的な結末についての指摘がInnocent Greyに多く寄せられた[24]。
リプトン熊田は電撃オンラインに寄せた記事の中で夏篇の第1章について、「主人公が違うためか、しっとりしていた春篇に対し、夏篇はからっとした感じがした。」と評価した[8]。
秋篇は、ユーザーの間では「メリーバッドエンド」として扱われた[27]。
風のイオナは4Gamer.netに寄せた記事の中で、冬篇のサウンドトラックについて、「外気の寒さと屋内の暖かさが同居した、季節を感じられるような上品な音楽に仕上がった」と評価した[33]。