を満たす整数 q が唯一つ定まるとき、m ÷ n = q によって除算を定める。m は被除数(ひじょすう、英: dividend)あるいは実(じつ)と呼ばれ、n は除数(じょすう、英: divisor)あるいは法(ほう、英: modulus)と呼ばれる。また q は m を n で割った商(しょう、英: quotient)と呼ばれる。商 q は他に「m の n を法とする商」「法 n に関する商 (英: quotient modulo n)」 などとも言う。
またこのとき、m は n で整除(せいじょ)される、割り切れる(わりきれる、英: divisible)あるいは n は m を整除する、割り切るなどと表現される。このことはしばしば記号的にn ∣ m と書き表される。
除数 n が 0 である場合を考えると、除数 0 と任意の整数 q の積は 0 となり、被除数 m が 0 なら任意の整数 q が方程式を満たすため、商は一意に定まらない。同様に被除数 m が 0 以外の場合にはどのような整数 q も方程式を満たさないため、商は定まらない。
整数の範囲では上述のような整数 q が定まる保証はなく、たとえば被除数 m が 7 の場合を考えると除数 n が 1, 7, −1, −7 のいずれかでない限り商 q は整数の範囲で定まらない。整数の範囲で商が必ず定まるようにするには、剰余(じょうよ、英: remainder, residue)を導入して除法を拡張する必要がある。つまり、方程式
m = qn + r
を満たすような q, r をそれぞれ商と剰余として与える。このような方程式を満たす整数 q, r は複数存在するが(たとえばある q, r に対して q − 1 と n + r の組は同様に上記の方程式を満たす)、剰余 r の取り得る値に制限を与えて一意に商 q と剰余 r の組を定めることができる。よく用いられる方法は剰余 r を除数 n より絶対値が小さな非負の数と定めることである。このような除法はユークリッド除法と呼ばれる。
m = qn + r かつ0 ≤ r < |n|
これは、感覚的には被除数から除数を引けるだけ引いた残りを剰余と定めているということである。こうして定められる剰余はしばしば「m の n を法とする剰余」「m の法 n に関する剰余 (英: residue modulo "n") 」などと言い表される。
剰余rが0でないことはしばしば「mはnで割り切れない」と表され、記号的にn ∤ m と表される。
ユークリッド除法による計算例は以下の通りである。以下では除数を 4, −4, 被除数を 22, −22 としている。
の範囲に剰余 r が含まれる。この場合、ユークリッド除法と違い r は負の値を取り得る。このように定められる剰余を絶対的最小剰余 (絶対値最小剰余とも。英: least absolute remainder, absolutely least residue, minimal residue) と呼ぶ。
絶対的最小剰余を用いる場合の計算例は以下の通りである。以下では除数を 4, −4, 被除数を 22, −22 としている。
−|n|/2 < r ≤ |n|/2
22 = 5 × 4 + 2:商 5, 剰余 2
22 = (−5) × (−4) + 2:商 −5, 剰余 2
−22 = (−6) × 4 + 2:商 −6, 剰余 2
−22 = 6 × (−4) + 2:商 6, 剰余 2
−|n|/2 ≤ r < |n|/2
22 = 6 × 4 − 2:商 6, 剰余 −2
22 = (−6) × (−4) − 2:商 −6, 剰余 −2
−22 = (−5) × 4 − 2:商 −5, 剰余 −2
−22 = 5 × (−4) − 2:商 5, 剰余 −2
いずれの方法であっても、除数 n が0の場合、剰余 r は0でなければならず、被除数 m がどんな数であっても商qを一意に定めることはできない。
絶対的最小剰余とユークリッド除法によって定められる最小非負剰余、あるいは別の方法のいずれを用いるかは自由であり、与えられる剰余がそのいずれかであるかは予め決められた規約に従う。この規約は、計算する対象や計算機の機種、あるいはプログラミング言語により、まちまちである。簡単な分析とサーベイが "Division and Modulus for Computer Scientists" という文献にまとめられている[2]。
実数は有理数の極限として表され、それによって有理数の演算から実数の演算が矛盾なく定義される。すなわち、任意の実数 x, y (y ≠ 0) に対し xn → x, yn → y (n → ∞) を満たす有理数の列{xn}n ∈ N, {yn}n ∈ N(例えば、x, y の小数表示を第 n 桁までで打ち切ったものを xn, yn とするような数列)が与えられたとき
と定めると、この値は極限値が x, y である限りにおいて数列のとり方によらずに一定の値をとる。これを実数の商として定めるのである。
複素数の除法
実数の除法を用いれば複素数の除法が、被除数が 0 の場合を除いた任意の 2 つの複素数について定義できる。
2 つの複素数 z, w について、w の共役複素数w を用いれば、複素数の除法 z/w は次のように計算できる(ただし除数 w は 0 でないとする)。
また、複素数 z, w の実部と虚部を 4 つの実数 Re z, Im z, Re w, Im w を用いて z = Re z + i Im z, w = Re w + i Im w と表せば、複素数の除法 z/w は次のように表せる。
が成立するということを意味する。この簡約律が成立しないということは、bx = by という条件だけからは x = y という情報を得たことにはならないということであり、そのような条件下で強いて除法を定義したとしても益が無いのである。
実数の乗法において、簡約が不能な一つの特徴的な例として b = 0 である場合、つまり「0 で割る」という操作を挙げることができる。実際、b = 0 であるとき a = bx によって除法 a ÷ b を定めようとすると、もちろん a = 0 である場合に限られるが、いかなる x, y についても 0x = 0 = 0y が成立してしまって x の値は定まらない。無論、a ≠ 0 ならば a = 0x なる x は存在せず a ÷ b は定義出来ない。つまり、実数の持つ代数的な構造と0による 除算は両立しない。