貸倒引当金(かしだおれひきあてきん、英: Allowance For Bad Debt, Loan Loss Reserve、米: Allowance for Doubtful Accounts[注 1])は、金銭債権の貸倒見積高を計上することにより生じる引当金である。貸方に計上される勘定であるが、貸借対照表上は評価勘定として資産から控除される形で表示される。つまり勘定科目では資産のマイナスを意味する。
これは適正な資産評価および損益計算のために計上される抽象的な概念であり、リスクを定量的に表現したものにすぎない。そのため、貸倒引当金に相当する資金(現金)が現実に確保されるわけではない。
貸付金や売掛金などの金銭債権は、計上額すべてを回収できるとは限らず、相手の返済不能等による信用リスクが発生する。貸倒れが生じた場合、当該債権を取崩す(貸方に記入)とともに同額の費用が計上(借方に記入)される。このとき、財務会計上、この費用をどの会計期間に計上するかが問題となるが、基本的には当該債権が生じた会計期間の費用とすべきである。たとえば、第1期に貸し付けを行い、第2期に貸倒れたとするなら、当該貸付金の貸倒れによる費用は第1期に計上すべきである。しかし、第1期においては実際に貸倒れが起こったわけではないので、費用の計上は見積もりによるしかない。よって、各期の決算において翌期以降の貸倒れを見積もり、あらかじめ費用を計上(借方に記入)する。このとき同時に計上(貸方に記入)される勘定が貸倒引当金である。
金融商品会計上は、金銭債権の見積方法により次の3つに区分する。
一方、税務上の区分は
である。[1]
両者の対応としては、一般債権が一括評価金銭債権に、貸倒懸念債権と破産更生債権が個別評価金銭債権におおよそ対応するが、貸倒引当金の見積算定方法について金融商品会計(企業会計上)と税務上で若干定義が異なるため両者間には計上額の差異が発生し、税効果会計にも影響する。主な相違点としては、
などがあり、金融商品会計上の貸倒引当金が税務上の算定額を上回れば、差分は算入限度超過額として、当期への損金算入が認められない。
この金融商品会計と税務上との差分は、税効果会計上将来減算一時差異として当期に繰延税金資産に計上(借方)され、翌期以降の損金算入が認められる時点で取り崩しされることになる。
俗にいう不良債権処理とは、貸倒引当金設定を指す場合が多い。実際に貸倒れが生じる前にあらかじめ費用を計上しておく(費用を先送りしない)こと、資産の過大計上を避けるという意味で、健全な会計処理と評される。ただし、過度な会計処理による貸倒引当金の計上は、企業の財政状態や経営成績の真実な報告をゆがめることにもつながるため、注意を要する。