『秘密』(ひみつ)は、東野圭吾の小説である。文藝春秋より1998年9月に刊行された。
概要
1999年、滝田洋二郎監督、広末涼子[注釈 1]・小林薫主演によって映画化されている。
また、リュック・ベッソン制作、ヴァンサン・ペレーズ監督、デイヴィッド・ドゥカヴニー主演によるリメイク作『秘密 THE SECRET』(原題:Si j'étais toi、The Secret)が2007年にアメリカ・フランスにて公開された。日本は未公開。
2010年10月期には、志田未来主演によってテレビドラマ化もされた。
2017年に中国で、ウェブドラマ版が制作され放送された[2]。
長らく大きなヒットに恵まれていなかった[注釈 2]東野圭吾がブレイクすることとなった出世作である。第120回直木賞、第20回吉川英治文学新人賞、第52回日本推理作家協会賞(長編部門)にそれぞれノミネートされ最終的には推協賞を受賞し、「無冠の帝王」などと呼ばれることもあった東野にとって、乱歩賞以来、つまりはデビュー以来のタイトル獲得となった。
キャッチコピーは『運命は、愛する人を二度奪っていく』。
あらすじ
杉田平介は自動車部品メーカーで働く39歳。妻・直子と11歳の娘・藻奈美との3人で暮らしていた。
1985年冬、直子の実家に行くために、直子と藻奈美の2人が乗ったスキーバスが崖から転落してしまう。直子と藻奈美は病院に運ばれたものの、直子は死亡してしまい、藻奈美は一時は回復不能といわれたにもかかわらず、奇跡的に助かる。しかしそれは、仮死状態になった娘・藻奈美の身体に、死んでしまった妻・直子の魂が宿っていたのだった。藻奈美の身体に宿った直子に、平介は戸惑いながらも周囲には決してバレないように生活する。
やがて月日はたち、娘の身体に宿った妻との生活に、次第に心のずれが生じてくる。直子は医学部を目指して、進学校とされる高校を受験し、見事合格するが、奇妙な2人の生活が限界を迎えたある日、長らく消えていた藻奈美の意識が再びあらわれるのだった。
平介は、藻奈美にそれまでの経緯を説明するが、その途中で藻奈美の意識が直子に戻ってしまう。直子は、また藻奈美が戻ってきたときのため、手紙を書くことを提案する。それから直子と藻奈美は、交互に意識を入れ替えながら生活するようになり、次第に2人は明るさを取り戻していく。しかし、藻奈美でいる時間が長くなると同時に、直子でいる時間は徐々に短くなっていくのだった。
そして藻奈美は、直子が平介と初めてデートをした山下公園に行きたいと言い、そこで直子の意識に入れ替わり、平介に別れを告げる。
25歳になった藻奈美は、事故を起こした運転手・梶川幸広の息子である根岸文也との結婚式に臨む。一方、平介は、幸広の形見の懐中時計を修理してもらうため、時計店へと向かう。そこで店主から、直子が隠した結婚指輪を藻奈美が持ってきて、その指輪を材料に、新しい結婚指輪を作るよう頼まれたという話を聞く。その話を聞いた平介は、直子がまだ藻奈美の中で生きていることを悟り、その永遠の秘密を守ろうとする直子の意思を認める。そして、新郎となる文也と2人きりになった平介は、娘と「もう一人」をとられた分として文也を殴ろうとするが、涙があふれ、その場で泣きだしてしまうのだった。
登場人物
- 杉田平介
- 主人公。自動車部品メーカーの生産工場に勤務するエンジニア。
- 物語の設定当時がバブル景気に向かう時期であったため、多忙な日々を過ごしていた。
- 直子との奇妙な生活にも徐々に慣れてくる一方で、肉体が藻奈美であることからそれまで直子としていたことができなくなったり、また、彼女の新しい恋に苦悩する。
- 杉田直子
- 平介の妻。転落事故によって死去するが、魂が娘の藻奈美に移ったことで藻奈美として転生する。小説中は直子の魂が宿った藻奈美を「直子」と表現している。
- 藻奈美が生きられなかった分と自分の新しい人生が始まったことをきっかけに勉学に励み、医学部に進学する。新たな青春の日々を過ごすがそのことで夫である平介の嫉妬を買い関係がぎくしゃくする。
- 杉田藻奈美
- 平介と直子の子供。
- 直子が身を呈して守ったおかげで外傷はほとんどなく肉体は奇跡的に助かった。植物状態となった身体に直子の魂が宿る。
- 橋本多恵子[注釈 3]
- 藻奈美の小学校時代の担任教師。
- 藻奈美の魂が直子に変わったことを当然知らない。
- 藤崎和郎
- スキーバス事故の被害者の会のメンバーとして平介と知り合う。娘2人を亡くしていた。
- 梶川幸広
- スキーバス事故を起こし死去したバスの運転手。仕事熱心な性格。
- 超過勤務をしていたことが事故の原因になる。
- 根岸文也
- 幸広の息子。事故当時大学生。
- 幸広のことを、自らを捨てたとして憎んでいる。
- 相馬春樹
- 藻奈美(彼女に宿った直子)の高校時代の先輩。テニス部に所属し、彼女にアプローチをする。
- 彼の行動により、平介がナーバスになり直子との間にいさかいが生じる。
この作品ができるまで
東野は、この作品を短編『さよなら「お父さん」』として書いたが、出来が気に入らずに長編として書き直した。没になった短編は短編を見た担当編集者の、「これはこれで別物として面白い」という意見と、ダニエル・キイスが『アルジャーノンに花束を』の短編版を短編集に収録していることに力を得た[4]ため、短編集『あの頃の誰か』に収録したという経緯がある。
また、もともとは「笑える小説」として書いたつもりが、結果として「泣ける話になった」「笑いのスイッチを連打していると、関係ないスイッチがオンになってしまった」と『毒笑小説』文庫版巻末における京極夏彦との対談で語っている[5]。
映画
1999年版
1999年9月25日、東宝系にて公開。原作とやや設定が異なり、藻奈美が高校生の時から物語が始まる。
原作者の東野も大学教員役で1シーン出演している。
製作費3億円、宣伝費1.5億円、配給収入は6億円[7]。
受賞
個人賞
作品賞
- 第7回 スイス・ジュネーブ国際テレビ映画祭 グランプリ
- 第2回 イタリア・ウーディネ極東映画祭 最優秀作品賞
キャスト
- 杉田藻奈美・直子
- 演 - 広末涼子
- 入れ替わり後
- 杉田平介
- 演 - 小林薫
- 直子の夫
- 杉田直子
- 演 - 岸本加世子
- 入れ替わり前まで
- 梶川幸広
- 演 - 大杉漣
- バスの運転手
- 梶川文也
- 演 - 金子賢
- 幸広の子
- 相馬春樹
- 演 - 伊藤英明
- 藻奈美の大学の先輩
- 吉本和子
- 演 - 柴田理恵
- 木島
- 演 - 徳井優
- 亀田
- 演 - 広岡由里子
- 弁護士
- 演 - 斉藤暁
- 医師
- 演 - 並樹史朗
- 寿司屋の主人
- 演 - 螢雪次朗
- 富雄
- 演 - 冷泉公裕
- 三郎
- 直子の父
- 演 - 山谷初男
- 容子
- 直子の姉
- 演 - 橘雪子
- TV局報道記者
- 演 - 柴田秀一
- 友紀
- 演 - 浅見れいな
- 大学教員
- 演 - 東野圭吾
- 藤崎
- 演 - 國村隼
- バス事故での被害者の父
- 木村邦子
- 演 - 篠原ともえ
- 藻奈美の高校時代の級友
- 小田島
- 演 - 内山信二
- 藻奈美の高校時代の級友
- 橋本多恵子
- 演 - 石田ゆり子
- 藻奈美が通う高校の担任教諭
スタッフ
主題歌
- 作詞・作曲:竹内まりや、編曲:山下達郎
2007年版
テレビドラマ
2010年10月15日より、テレビ朝日系列『金曜ナイトドラマ』枠で放送された。同枠で東野の作品がドラマ化されるのは『名探偵の掟』以来2作目である。主演の志田未来は、『ハンマーセッション!』(TBS系)に続き、2期連続の連続ドラマ主演で、テレビ朝日のドラマ初主演作品となる。キャッチコピーは「秘密が、愛を、濃密にする。」。
舞台は原作・映画とも異なり、2007年夏・藻奈美が16歳の時から始まる。
キャスト
スタッフ
- 脚本:吉田紀子
- 演出:唐木希浩(5年D組)、高橋伸之(テレビ朝日)、日暮謙(5年D組)
- 演出補 : 伊藤彰記
- 音楽:溝口肇
- ゼネラルプロデューサー: 横地郁英(テレビ朝日)
- プロデューサー:中川慎子(テレビ朝日)、太田雅晴(5年D組)
- 企画協力:文藝春秋
- 制作協力:5年D組
- 制作:テレビ朝日
主題歌
サブタイトル
各話 |
放送日 |
サブタイトル |
演出 |
視聴率
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第1話 |
2010年10月15日 |
東野圭吾!! 伝説のベストセラー 心は38歳、体は16歳の妻 |
唐木希浩 |
10.1%
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第2話 |
2010年10月22日 |
東野圭吾原作〜今夜16才の妻を抱く!! |
8.8%
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第3話 |
2010年10月29日 |
東野圭吾原作〜16才の妻、同窓会へ!! |
高橋伸之 |
8.8%
|
第4話 |
2010年11月05日 |
東野圭吾原作〜私の記憶が消える日!! |
8.8%
|
第5話 |
2010年11月12日 |
東野圭吾原作〜妊娠!! |
唐木希浩 |
9.7%
|
第6話 |
2010年11月19日 |
東野圭吾原作〜許されない恋の始まり |
日暮謙 |
7.9%
|
第7話 |
2010年11月26日 |
東野圭吾原作〜妻の恋人 |
唐木希浩 |
7.7%
|
第8話 |
2010年12月03日 |
最終章〜妻との永遠の別れ… |
高橋伸之 |
9.5%
|
最終話 |
2010年12月10日 |
運命は妻を二度奪う…そして驚愕最終回!! |
唐木希浩 |
11.2%
|
平均視聴率 9.1% (視聴率は関東地区・ビデオリサーチ社調べ)
|
脚注
注釈
- ^ 広末は文庫版の解説も担当している[1]。
- ^ ともに仕事をした編集者の結婚披露宴における東野自身のコメント「キャリアは二十年だが、十四年間売れなかった」[3]。
- ^ 東野自身の長編小説 『時生』に、この人物の名がストーリーの展開とは無関係の部分で登場するという「お遊び」がある。
出典
関連項目
外部リンク
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