無菌播種(むきんはしゅ)とは、植物の人工的繁殖法の一種。種子を次亜塩素酸ナトリウムなどで殺菌して、微生物・菌類などを排除してから、栄養成分の入った培地などに無菌的に種子をまくこと。無菌培養ともいう。
ラン科の植物の種子はほとんど栄養分を含んでいないので、ラン菌と呼ばれる微生物と共生状態になり、栄養分の提供を受けないとほぼ成長しない。しかし、好適な菌類の接種はなかなかに困難である。そのため人工的に蒴果ごと殺菌して、内部の無菌状態の種子を栄養成分の入った培地に無菌的に播種することで発芽・生長させる。いわゆる洋ランの多くはこの手法によって比較的簡便に大量増殖できる。
ただし、温帯以北を原産とする地生ランの一部は種子に強い休眠(発芽抑制)があり、休眠を打破するために低温処理、洗浄処理などの特殊な播種前処置が必要となる。またランの種類によっては特殊な栄養要求性をもつものがあり、それらは一般の植物と同じ培地では育成が難しい。
一般にラン科植物は発芽初期には硝酸還元酵素の活性が低く、硝酸イオンのみを窒素源とする培地では生育が悪いか、あるいは育たない。初期栄養としてアンモニウムイオン、あるいは有機窒素源が培地に含まれなければならないが、これらの窒素源と硝酸イオンの適正比率・適正濃度はランの種類によって大幅に異なる。ある種のランに好適な培地でも、他種はまったく発芽・生長しないことがある。
着生ランの多くは、ビタミンB群やニコチン酸(ナイアシン)、その他の有機物が培地に含まれていないと生育が不良になる。洋ランの生産現場では、有効成分は確定されていないが経験的に野菜や果物のジュースや、すりおろし汁などを無機培地に加えて培養すると生育が促進されることが知られている。なお、ランの種類や品種、時には同一個体でも生長段階によって効果的な添加物は異なる。添加材料の収穫時期や、品種による成分差などもあるため、添加物の有効性について検討した報文は多数あるが確実な再現性は期待できないのが難点である。
また、地生ランでは培地に過剰な有機物が含まれているとむしろ生育阻害に働く場合がある。そのため安易に野菜類などを添加するのは避けねばならない。加える場合でも添加量を着生ラン用培地の2分の1から5分の1程度に制限したり、時には無機成分を含めて培地組成そのものを改変しないと培養できない場合がある。
熱帯・亜熱帯産のほとんどのラン、あるいは温帯産でも着生ランの場合は、適切な培地に播種し適温に保てば比較的すみやかに発芽する。一方、温帯以北の地生ランでは、春が来るまで種子が発芽しないように種子が休眠性をもっている場合がある。それらの種類では単に培地に播種するだけでは発芽せず、何らかの手段によって種子の休眠を打破する必要がある。具体的には下記のような方法がある。