p
を素数、F∞/F
を有限次代数体
F
の
Zp
拡大とする。第 n 層
Fn
のイデアル類群Cl(Fn)
のシロー p 部分群(p 部分)[注釈 2]を
An
とする。ここでの動機というのは、F = Q(ζp) のとき、そのイデアル類群の p 部分こそがフェルマーの最終定理の直接証明における主要な障害となっている、ということがクンマーによって既に特定されていたということによるものである。An
は有限 p 群 なのでその位数#An
はある整数
en
を用いて
#An = pen
と書ける。岩澤は、ある3つの整数 μ, λ, ν(最初の2つは非負整数)が存在して、n が十分大きいとき
が成り立つことを示した[1]。これを岩澤類数公式(Iwasawa class number formula)といい、この公式に現れる3つの数を岩澤不変量(Iwasawa invariant)という。3つのうちどれか1つを指し示したいときは、例えば岩澤 λ 不変量などという[11]。
(*) 素数 p の上にある F の素イデアルは唯一つで、さらにその素イデアルは F∞/F で完全分岐する
証明は、まずイデアル類群の極限をとることからはじまる。2つの正整数
m ≦ n
があったとき、代数体の有限次拡大
Fn/Fm
のノルム写像からイデアル類群の準同型
Am ← An
ができる[13]。これによる逆極限
lim←An
を
X
と書き、F∞/F
の岩澤加群という[14]。岩澤の独自性は、「無限大に飛ばす」という新しい着想にあった。
岩澤加群
X
がわかれば
An
もわかる。実際、Γ=Gal(F∞/F)
の元
γ0
を
Zp
の乗法単位元1に対応する元(位相的生成元といっても同じこと)とすると
An = X/(γpn 0 − 1)X
が成り立つことがわかる[15][注釈 3]。
岩澤加群
X
の構造は、これを完備群環上の加群とみることによって調べられる。An
は有限 p 群なので自然に
Zp
の元の乗算が定義でき、またガロア群
Γ/Γn
が作用しているので、その極限の
X
には完備群環
Λ ≔ Zp⟦Γ⟧ = lim←Zp[Γ/Γn]
の作用が定義できる[16]。この環
Λ
は、実は
Zp
係数の形式的べき級数環
Zp⟦T⟧
と
T + 1 ↔ γ0
によって同型であることが示される(位相的生成元の取り方に依存するので、標準的ではない)[17]。Λ や
Zp⟦T⟧
は岩澤代数(英語版)と呼ばれている[18]。岩澤代数は岩澤理論において中心的な役割を演ずる。例えば、岩澤主予想と呼ばれる予想は
Λ
のある2つのイデアルが等しいという予想である。
岩澤加群
X
は岩澤代数
Λ ≃ Zp⟦T⟧
上の加群であることがわかった。さらに有限生成であることが示される[15]。Λ
は2次元の正則局所環とよばれる(その上の加群のそれほど粗くない分類が非常に容易であるという意味で)素性の良い環であるので、その有限生成加群には構造定理がある[19]。これを使うことにより、X は次の形の加群
を岩澤加群
X
の特性多項式(characteristic polynomial)といい、これによって生成される
Λ
のイデアルを特性イデアル(characteristic ideal)という[19]。charΛ(X)
で特性イデアルの方を表すこともある。特性多項式は任意の有限生成 torsion
Λ
加群
M
に対して定義され、同様に
charΛ(M)
という記号で書かれる。岩澤不変量の λ は特性多項式
charΛ(X)
の次数であり、μ は特性多項式を割り切る最大
p
べきの指数である。岩澤主予想は
Λ
のある2つのイデアルが等しいという予想であるが、そのイデアルのうちの一つが、簡単にいうとこの特性イデアルである。
固有空間への分解
代数体
F
に複素共役や
Gal(F/Q)
が作用している場合には、その作用でイデアル類群を固有空間(eigenspace)[22]に分解することができ、分解したものたちに対して同様の公式が得られる。
まず複素共役の場合を見る[23]。F をCM体、p を奇素数、F∞/F
を円分
Zp
拡大とする。このとき、Fn のイデアル類群のシロー p 部分群
An
には自然に複素共役が作用し、複素共役が±1倍で作用する部分空間
A± n
の直和
An = A+ n ⊕ A− n
に分解できる。A+ n
をプラス部分(+-part)[24]、A− n
をマイナス部分(−-part)という。それぞれの部分空間に対して岩澤類数公式が成り立ち、対応する
λ
と
μ
をそれぞれ
λ±
と
μ±
とすると、F∞/F の
λ
と
μ
は
λ = λ+ + λ−,
μ = μ+ + μ−
と分解できる。同様の方法で岩澤加群
X
を
X±
に分解したとき、X+
は
F
の最大実部分体
F +
の円分
Zp
拡大の岩澤加群と同型になるので、プラス部分は実部分の寄与、マイナス部分は全体と実部分の差と考えられる。マイナス部分の λ については、木田の公式と呼ばれるリーマン・フルヴィッツの公式の類似が成り立つことが知られている[25][26]。
典型的なCM体は奇素数 p についての
p 分体
F = Q(ζp)
である[27]。これの最大実部分体の類数は p で割れないという予想をヴァンディバー予想(英語版)という[28]。もしこれが正しければ、Q(ζpn)
の最大実部分体の類数も p で割れないので
A+ n
は0ということになる[29]。
次に、Gal(F/Q)
でイデアル類群が分解される様子を見るため、典型的な例として
F = Q(ζp)
で
F∞ = ∪n ≧ 0Q(ζpn + 1)
の場合を考える(p は奇素数とする)[30]。Δ = Gal(F/Q)
と置き、ω: Δ → Z× p
を
Δ
の任意の元
σ
に対して
ζσ p = ζω(σ) p
が成り立つ唯一の準同型とする。Δ
は
Fn
のイデアル類群の p 成分
An
に自然に作用し
An = ⊕p − 2 k = 0A(i) n
と分解できる。ここで
A(i) n
は
σa = ωi(σ)a
が成り立つ
An
の元たちからなる部分群である。これを ωi 成分(ωi-part)という。ωi 成分に対しても岩澤類数公式が成り立ち、これらの成分に対する岩澤不変量を
λ(i),
μ(i),
ν(i)
とすると
F∞/F
の岩澤不変量は
λ = ∑ i λ(i)
などと分解できる。偶数の i に対する
ωi
成分は
A+
に含まれるので、ヴァンディバー予想が正しければこの成分は0である。部分的な結果として、栗原将人によって
Ap − 3 0
は0であることが証明されている[31]。岩澤主予想は、奇数の i に対する
ωi
成分に関する予想である。なお、このような分解はもっと一般の状況でも可能であるが、
Δ の指標の値が必ずしも
Z× p
に入らないので、係数拡大が必要となる[32]。
岩澤不変量
岩澤不変量の
λ
や
μ
は
Zp
拡大
F∞/F
に対して定まるので
λ(F∞/F),
μ(F∞/F)
などと書かれる[1]。また、代数体
F
と素数
p
に対して
F
の円分
Zp
拡大
F∞
は一意に定まるので、このときは
λ(F∞/F)
を
λp(F)
と書いたりする[11]。例えば
λ3(Q(√−239)) = 6
などが知られている[33]。
λ はイデアル類群の元の位数の増加を示すものであり、μ は p ランクの増加を示すものである[34][35]。
代数体 F の類数が p で割り切れず、p の上にある F の素イデアルが一つしかないならば、任意の Zp 拡大 F∞/F に対して λ = μ = ν = 0 である。
素数 p が F/Q で完全分解し、Zp 拡大 F∞/F において p の上にある F の素点がすべて分岐するならば λ(F∞/F) ≧ r2 である。ここで r2 は F の複素素点の個数。
特性多項式の具体例
F
がアーベル体であれば、その円分
Zp
拡大の岩澤加群のマイナス部分の特性多項式はスティッケルバーガー元を用いて具体的に構成できる[38]。さらに
F
が虚二次体であればプラス部分は自明なので[39]、マイナス部分の特性多項式が全体の特性多項式である。例えば、p = 3 で F = Q(√−239) の場合は
草創期の1950年代から理論の構築は絶えず続けられ、この加群の理論と久保田やレオポルド (Leopoldt) が1960年代に考案した p 進 L 関数の理論の間の基本的考察が提示された。p 進 L 関数は、ベルヌーイ数から始めて補間法を用いて定義される、ディリクレの L 関数の p 進の類似物である。最終的に、クンマーによる正則素数に関する結果から世紀を隔てて、フェルマーの最終定理の前進する見通しが立ったことが明らかとなった。
岩澤主予想(英: Main conjecture of Iwasawa theory)は、(加群の理論と補間法の)二種類の方法で定義される p 進 L 関数は(それが定義可能な限りは)一致するはずであるという形で定式化された。この予想は結果としては、バリー・メイザー とアンドリュー・ワイルズによって有理数体Q の場合に、またやはりワイルズによって任意の総実数体の場合に証明された。
The last step after the June, 1993, announcement, though elusive, was but the conclusion of a long process whose purpose was to replace, in the ring-theoretic setting, the methods based on Iwasawa theory by methods based on the use of auxiliary primes.[42]