位相群

実数の全体は加法に関して位相群を成す

数学における位相群(いそうぐん、: topological group)は、位相の定められたであって、そのすべての群演算が与えられた位相に関して連続となるという意味において代数構造と位相構造が両立する。したがって位相群に関して、群としての代数的操作を行ったり、位相空間として連続写像について扱ったりすることができる。位相群の連続群作用英語版は、連続対称性を調べるのに利用でき、例えば物理学などにも多くの応用を持つ。

文献によっては、本項に言うところの位相群を連続群と呼び[1]、単に「位相群」と言えば位相空間として T2ハウスドルフの分離公理)を満たす連続群[2]すなわちハウスドルフ位相群を意味するものがある。

定義

位相空間 G群演算乗法あるいは積とよばれる二項演算逆元をとる単項演算)が定義されているとき、G において群構造と位相構造とが両立する(あるいは可換である、うまくいっている、compatible)とは、条件

  1. 乗法 G × GG; (g, h) ↦ gh連続である。
  2. 反転 GG; gg−1 は連続である。

がともに成り立つことを言う(ここで乗法演算の連続性は、G × G直積位相を与えて位相空間と見たときの連続性(二変数の連続性)であり、各因子それぞれに関して連続(偏連続)というよりも強い)。

定義
両立する群構造と位相構造を持つ集合 G位相群であるという。すなわち位相群は、すべての群演算が連続な群を言う。

この定義では入れていないけれども、多くの文献[3]G 上の位相がハウスドルフであることを仮定する。これは単位元 1G において閉集合を成すと仮定することと同値になる。その理由およびいくつか同値な条件は後述する。いずれにせよ、任意の位相群は適当な商をとることでハウスドルフにすることができる。

圏論の言葉で言えば、位相群とは位相空間の圏における群対象英語版としてちょうど定義できる。これは通常の群が集合の圏における群対象であると言うのと同じ仕方である。群の定義が射(二項の積、単項の反転、零項の単位元)によって与えられているという意味で圏論的定義となっていることに注意せよ。

準同型

位相群 G, H に対し、写像 GH が位相群の準同型であるとは、それが連続群準同型となるときに言う。位相群の同型は、群同型であって、なおかつ台となる位相空間の間の同相でもある。これは単に連続な群同型であるという条件よりも強く、逆写像もまた連続でなければならない。代数的な群同型だが位相群としては同型でないという位相群の例が存在する。実際、任意の非離散位相群に対し、その位相を離散位相に取り換えた位相群を考えれば、台となる群は同じ(特に同型)だが、位相群としては同型にならない。

すべての位相群と、それらの間のすべての準同型を併せたものは、ひとつのを成す。

性質

  • 位相群 G の反転演算は G 上の自己同相である。同様に、各元 aG の左乗および右乗は G の自己同相を与える。
  • 任意の位相空間は、二通りの仕方で、一様空間と見ることができる。左一様性は各元の左乗を一様連続写像とする一様構造を言い、右一様性は右乗を一様連続写像とする一様構造を言う[4]G が非アーベルならば、これら二つが一致する必要はない。この一様構造により、完備性英語版一様連続性あるいは一様収束性を位相群上で述べることができる。
  • 一様空間として、任意の位相群は完全正則英語版である。これにより、単位元(のみからなる一点集合)が G において(これは T0コルモゴロフ)条件)ならば、GT2ハウスドルフ)、さらに Tチホノフ英語版)にさえなる。G がハウスドルフでないときには、単位元の閉包 K による剰余群 G/H によってハウスドルフ位相群を得ることができる[5]。これは Gコルモゴロフ商をとることと同値である。
    定理 (BirkhoffKakutani)
    以下の三つは同値[6]
    • 単位元 1G において閉であり、G において 1 の可算基本近傍系が存在する。
    • G は位相空間として距離付け可能である。
    • G 上に左不変距離が存在して、それによる距離位相がもともとの位相に一致する。ただし、G 上の距離が左不変であるとは、各元 aG の左乗 xaxG 上の等距変換となるものをいう。)
  • 位相群の任意の部分群は、相対位相に関してそれ自身が位相群になる。G の部分群 H に対し、左剰余類全体の成す集合 G/H商位相を入れたものは G等質空間と呼ばれる。商写像 q: GG/H は常にになる。例えば、正整数 n に対し、超球面 Sn は、Rn+1回転群 SO(n + 1) の等質空間で、実際 Sn = SO(n + 1)/SO(n) が成り立つ。等質空間 G/H がハウスドルフとなるための必要十分条件は、HG において閉となることである[7]。半ばこれを理由に、位相群の研究において部分群としては閉部分群を主に考えるのが自然である。
  • 任意の開部分群 HG において閉である。これは H の補集合が、開集合 gH (gG\H) の合併に等しいことからわかる。
  • G正規部分群 H に対し、剰余群 G/H は商位相に関して位相群を成す。この剰余群がハウスドルフとなるための必要十分条件は、HG において閉となることである。例えば、剰余群 R/Z は円周群 S1 に同型である。
  • G の部分群 H に対し、H の閉包もまた部分群となる。同様に、HG の正規部分群ならば、H の閉包も G において正規になる。
  • 任意の位相群において、単位成分英語版(すなわち、単位元を含む連結成分)は閉部分群を成す。単位成分 C と任意の点 aG に対し、左剰余類 aCGa を含む連結成分となる。したがって、G における C の左剰余類全体の成す集合、あるいは右剰余類全体の成す集合は、G の連結成分全体の成す集合に等しい。これにより、剰余群 G/C は完全不連結であることが従う[8]
  • 通常の群論における代数的な群の同型定理は、位相群に対しては必ずしも正しくない(これは全単射な準同型が必ずしも位相群の同型でないことによる)。それでも、定理に現れる写像を適切に制限すれば、定理は成り立つ。例えば、第一同型定理の主張「f: GH が準同型ならば、それが誘導する写像 G/ker(f) → im(f) は同型」が成り立つための必要十分条件は、f がその像の上への開写像となることである[9]

ヒルベルトの第五問題

位相群とリー群との間の関係について、いくつか強力な結果が存在する。まず、リー群の間の任意の連続準同型 GH は滑らかになる。これにより、位相群がリー群の構造を持つならば、その構造は一意に決まる。また、カルタンの定理英語版は、リー群の任意の閉部分群がリー部分群、特に滑らかな部分多様体となることを述べる。

ヒルベルトの第五問題英語版は、位相多様体の構造を持つ位相群 G がリー群となるか(つまり、滑らかな多様体の構造が入り、群演算が滑らかであるようにできるか)を問うものである。この問題はGleason, Montgomery, Zippinらによって肯定的に解決された[10]。実は G実解析的構造英語版を持つ。この可微分構造を用いて、G のリー環を定義することができる(これは被覆空間の違いを除いて連結G を決定する線型代数学的な対象である)。結果として、ヒルベルトの第五問題の解は、位相多様体であるような位相群の分類という代数的な問題に帰着されたが、一般には複雑な問題である。

この定理は位相群の広範なクラスに対しても帰結を持つ。まず、任意のコンパクト群(ハウスドルフと仮定する)はコンパクトリー群の射影極限である。その重要な場合の一つが射有限群と呼ばれる有限群の射影極限で、例えば p-進整数全体の成す加法群 Zp や、体の絶対ガロワ群は射有限群である。さらに任意の連結局所コンパクト群が、連結リー群の射影極限になる[11]。他の極端な例で、完全不連結局所コンパクト群(TDLC群)は常にコンパクト開部分群を含み、それは射有限群である必要がある[12]。例えば、局所コンパクト群 GL(n,Qp) はコンパクト開部分群 GL(n,Zp)(これは有限群 GL(n,Z/pr)r → ∞ の射影極限)を含む。

(局所)コンパクト群の表現

位相群 G の位相空間 X への(連続)作用は、GX への群作用であって、対応する写像 G × XX が連続となるものをいう。同様に、位相群 G の実または複素線型空間 V における表現(線型表現)は、GV への連続作用であって、各 gG に対する写像 vgvV 上の線型変換となるものを言う。

群作用および表現論は特にコンパクト群に対してはよくわかっており、それは有限群の表現論英語版の内容を一般化するものになっている。例えば、コンパクト群の任意の有限次元表現は既約表現直和である。また、コンパクト群の無限次元ユニタリ表現は、ヒルベルト空間として既約表現(これらはすべて有限次元)の直和に分解することができる。これはピーター–ワイルの定理英語版の一部である[13]。例えば、フーリエ級数論が述べるのは、円周群 S1 の複素ヒルベルト空間 L2(S1) におけるユニタリ表現の分解である。S1 の既約表現はすべて一次元であり、適当な整数 n に対する zzn の形をしている(ここで S1 は非零複素数の成す乗法群 C* の部分群と見ている)。これら既約表現は L2(S1) に各々重複度 1 で現れる。

全てのコンパクト連結リー群の既約表現は、分類が済んでいる。特に各既約表現の指標ワイルの指標公式で与えられる。

より一般に、局所コンパクト群は、ハール測度によって与えられる自然な測度および積分の概念が入り、調和解析の豊かな理論を含む。局所コンパクト群の任意のユニタリ表現は、既約ユニタリ表現の直積分英語版として記述できる。この分解は GI-型(アーベル群や半単純リー群などの重要な例の大部分がこれに含まれる)ならば本質的に一意である[14]。基本的な例はフーリエ変換で、これは実数の加法群 R のヒルベルト空間 L2(R) への作用を R の既約ユニタリ表現の直積分に分解する。R の既約ユニタリ表現はすべて一次元で、適当な aR に対する xe2πiax の形をしている。

局所コンパクト群の既約ユニタリ表現は無限次元となり得る。表現論の大きな目標は、認容表現英語版(許容表現)のラングランズ分類英語版に関係して、半単純リー群に対するユニタリ双対(既約ユニタリ表現全体の成す空間)を求めることである。ユニタリ双対は、SL(2,R)英語版など多くの場合について知られているが、全てではない。

局所コンパクトアーベル群 G に対しては、任意の既約ユニタリ表現は一次元である。この場合、ユニタリ双対 ˆG は群となり、実は局所コンパクトアーベル群になる。ポントリャーギン双対性とは、局所コンパクトアーベル群 G に対して ˆG のユニタリ双対がもとの群 G に等しいことを述べるものである。例えば、整数の加法群 Z の双対群は円周群 S1 であり、実数の加法群 R の双対群は R に同型である。

任意の局所コンパクト群 G は十分多くの既約ユニタリ表現を持ち、例えば G の任意の点を区別することができる (ゲルファント–ライコフの定理英語版)。対照的に、局所コンパクトでない位相群の表現論は、特別な場合を除きほとんど発展しておらず、おそらく一般論を期待するのは妥当でない。例えば、アーベルなバナッハ・リー群英語版でそのヒルベルト空間上の任意の表現が自明となるものはたくさんある[15]

位相群のホモトピー論

位相群はすべての位相空間の中でも特別のものだが、それはそれらのホモトピー型の意味でもそうである。基本となるのは、位相群 G が弧状連結な位相空間である分類空間 BG を決定することである(分類空間は、緩やかな仮定の下で位相空間上のG-束を分類する)。群 Gホモトピー圏英語版において BGループ空間英語版に同型である。これは G のホモトピー型に様々な制約があることを意味する[16]。これら制約の中にはH空間英語版の広い文脈で満足されるものもある。

例えば、位相群 G基本群はアーベル群である(より一般に、G のホモトピー群のホワイトヘッド積英語版は零になる)。また、任意の体 k に対するコホモロジーH*(G, k)ホップ代数の構造を持つ。ハインツ・ホップ英語版アルマン・ボレルによるホップ代数の構造定理の観点から、これは位相群の取りうるコホモロジー環に強い制約をかけるものになっている。特に、G が弧状連結な位相群でその有理係数コホモロジー環 H*(G, Q) が各次数で有限次元となるならば、この環は Q 上の自由次数付き可換環でなければならない。これはすなわち、偶数次生成元上の多項式環と奇数次生成元上の外積代数との代数のテンソル積である[17]

特に、連結リー群 G に対し、G の有理係数コホモロジー環は奇数時の生成元上の外積代数である。さらには、連結リー群 G極大コンパクト部分群英語版 K を(共軛を除いて一意に)持ち、KG への包含はホモトピー同値になる。したがって、リー群のホモトピー型を記述することは、コンパクトリー群のそれに帰着される。例えば、SL(2, R) の極大コンパクト部分群は円周群 SO(2) で、その等質空間 SL(2, R)/SO(2)双曲平面英語版に同一視できる。双曲平面は可縮であるから、円周群の SL(2, R) への包含写像はホモトピー同値になる。

最後に、コンパクト連結リー群はキリング英語版カルタンヴァイルによって分類がされた。結果として、リー群の取りうるホモトピー型の本質的に完全な記述ができる。例えば、高々三次元のコンパクト連結リー群は、トーラス、二次特殊ユニタリ群 SU(2)(三次元球面 S3微分同相)、その剰余群 SU(2)/{±1} ≅ SO(3)(三次元実射影空間英語版 RP3 に微分同相)の何れかである。

一般化

位相群の様々な一般化が、連続性条件を緩めることによって得られる[18]

  • 半位相群 (semi­topological group) は、群の乗法が偏連続となる位相を持つ群。すなわち、半位相群 G は各元 cG の定める二つの写像 xxc および xcx が連続になる。
  • 準位相群 (quasi­topological group) は、反転演算も連続となるような半位相群を言う。
  • パラ位相群英語版 (para­topological group) は、群の乗法が連続となる位相を持つ群(反転は連続とは限らない)、すなわち台となる半群構造が群となるような位相半群英語版を言う。

脚注

出典

  1. ^ 例えばWeisstein, Eric W. "Continuous Group". mathworld.wolfram.com (英語).
  2. ^ 例えば Rowland, Todd. "Topological Group". mathworld.wolfram.com (英語).
  3. ^ 例えば Armstrong 1997, p. 73, Bredon 1997, p. 51
  4. ^ Bourbaki 1998, section III.3.
  5. ^ Bourbaki 1998, section III.2.7.
  6. ^ Montgomery & Zippin 1955, section 1.22.
  7. ^ Bourbaki 1998, section III.2.5.
  8. ^ Bourbaki 1998, section I.11.5.
  9. ^ Bourbaki 1998, section III.2.8.
  10. ^ Montgomery & Zippin 1955, section 4.10.
  11. ^ Montgomery & Zippin 1955, section 4.6.
  12. ^ Bourbaki 1998, section III.4.6.
  13. ^ Hewitt & Ross 1970, Theorem 27.40.
  14. ^ Mackey 1976, section 2.4.
  15. ^ Banaszczyk 1983.
  16. ^ Hatcher 2001, Theorem 4.66.
  17. ^ Hatcher 2001, Theorem 3C.4.
  18. ^ Arhangel'skii & Tkachenko 2008, p. 12.

参考文献

  • Nathan Jacobson: Lie Algebras, Dover Publications, ISBN 0-486-63832-4 (1962).
  • Johan G. F. Belinfante, and Bernard Kolman: A Survey of Lie Groups and Lie Algebras with Applications and Computational Methods, SIAM, ISBN 0-89871-243-2 (1972).
  • Morton Hamermesh: Group Theory and Its Application to Physical Problems, Dover Publications, ISBN 0-486-66181-4 (1962).

和書:

  • ポントリャーギン:「連続群論 上」、岩波書店(1957年10月31日)
  • ポントリャーギン:「連続群論 下」、岩波書店(1958年5月19日)
  • 山内恭彦、杉浦光夫:「連続群論入門」、培風館(1960年10月30日).
  • 横田一郎:「群と位相」、裳華房、ISBN 4-7853-1105-3 (1971年2月25日).
  • 村上信吾:「連続群論の基礎」、朝倉書店 (1973年6月30日).
  • 竹内勝:「現代の球関数」、岩波書店、(1975年5月10日).
  • 壬生雅道:「位相群論概説」岩波書店(1976年10月8日).
  • 犬井鉄郎、田辺行人、小野寺嘉孝:「応用群論:群表現と物理学」第2版、裳華房(1977年4月1日)※初版は1976年11月20日.
  • 大森英樹:「無限次元リー群論」、紀伊國屋書店 (1978年11月).
  • 戸田宏、三村護:「リー群の位相 上:線型代数からKO-群の周期性へ」、紀伊國屋書店、ISBN 4-31400237-9(1978年12月).
  • 戸田宏、三村護:「リー群の位相 下:コンパクトリー群の理論から例外群へ」、紀伊國屋書店、ISBN 4-31400238-7 (1979年8月).
  • 岡本清郷:「等質空間上の解析学 : リー群論的方法による序説」、紀伊國屋書店、ISBN 978-4-31470122-8(1980年8月).
  • 佐武一郎:「リー群の話」、日本評論社 (1982年5月10日).
  • 東郷重明:「リー代数」、槇書店(1983年10月30日).
  • 川久保勝夫:「変換群論」、岩波書店、ISBN 4-00-005975-0 (1987年1月20日).
  • 伊勢幹夫、竹内勝:「リー群論」、岩波書店、ISBN 4-00-006140-2 (1992年5月21日).
  • 杉浦光夫:「リー群論」、共立出版、ISBN 978-4-320-01637-8 (2000年3月1日).
  • H. ワイル(著)、蟹江幸博(訳):「古典群:不変式と表現」、シュプリンガー・フェアラーク東京、ISBN 4-431-71125-2 (2004年12月8日).
  • クロード・シュヴァレー(著)、齋藤正彦(訳):「シュヴァレー リー群論」、筑摩書房、ISBN 978-4-480-09451-3 (2012年6月6日).

関連項目

外部リンク

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