共同親権(英:Joint custody)とは、両方の親に親権が与えられる親権形態である。共同親権は、共同身体的親権、共同法的親権、またはその両方を合わせたものを指す場合もある。
共同法的親権では、子どもの両親が、例えば教育、医療、宗教的な養育などに関する主要な意思決定を共有する。共同親権では、共有親権または共有居住権とも呼ばれ、子供は両方の親と同等または同等に近い時間を過ごす。
離婚や別居の後、両親が共同親権を持つだけでなく、子供の共同法的親権を持つこともあれば、一般的には、片方の親が単独で法的親権を持ちながら、共同法的親権を持つこともあり、まれに、片方の親が単独で法的親権を持ちながら、共同法的親権を持つこともある[1][2]。
共同親権の反対は単独親権であり、子どもは主に一方の親と同居するが、もう一方の親は子どもに定期的に面会する面会交流権を有する場合がある。共同親権は、一部の兄弟姉妹が一方の親と同居し、他の兄弟姉妹が他方の親と同居する分割親権とは異なる。
共同親権では、子供を養育する権利を両方の親が共有する。親権の具体的内容は各国の法律によって全く異なり、アメリカではさらに州ごとに異なる。具体的に親権をどのように共同親権者間で共同行使するかは、個々の事案ごとに異なり、以下に述べる法的親権と身体的親権の両方を共有する場合もあるが、片方だけを共有する場合もある[3][4]。事案によっては単独親権となる場合もある。
離婚後共同親権を認めているアメリカでは以下のように運用されている。
共同親権行使の援助機関=メディエーションを行う民間団体がある。
日本においては婚姻中は原則として民法第818条第3項[16]により、父母の共同親権が定められている。
夫婦が離婚した場合には父母いずれかによる単独親権となるため、離婚後の親権について夫婦で紛争となることがある。日本以外の国では離婚後も父母が共同で親権を持つ「離婚後共同親権制度」を導入している国もある。
また、婚姻時に姓を変えたくない夫婦が事実婚を選択する場合があるが、その場合、父母のいずれか片方が親権を持つことになる。
「共同親権」という用語を使う場合、現行法を前提とすれば婚姻中の共同親権を指す。離婚後の共同親権の可能性については、離婚後共同親権を参照。
共同親権とは、父母が共同し、合意に基づいて子に対し親権を行うことを言う。婚姻中における共同親権の規定は民法第818条にある。
旧民法(明治31年法律第9号)においては、婚姻中も父親が単独親権を行うことが定められていた[18]。 第二次世界大戦後の民法改正により、父母の共同親権が定められるようになった。
家庭裁判所において紛争となった場合、「現状としてどちらが監護しているか」が親権者を定める大きな要因となる。
日本は1994年に子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)を批准した[19]。同条約の第9条第3項では以下のように規定されている[20]。
締約国は、児童の最善の利益に反する場合を除くほか、父母の一方又は双方から分離されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係及び直接の接触を維持する権利を尊重する。 — 子どもの権利条約第9条第3項
第164回国会で、福島瑞穂らが紹介議員となって参議院に提出された請願では、第9条第3項が引用されたうえで、「面接交渉と養育費の文言を明文化」し、「単独親権に関する規定を廃止」し、「共同親権に関する特別立法を実現すること」などが求められている[21]。
2008年5月8日、枝野幸男は衆議院に提出した質問主意書で、「多くの先進国では、離婚後の共同親権は、子にとって最善の福祉と考えられており、虐待などの特別な理由がない限り、子と親の引き離しは児童虐待と見なされている。」と述べ、第9条第3項に言及したうえで、「日本では、民法第七六六条及び第八一九条によって、離婚後の共同親権は認められず、また、面接交渉についての明確な規定やこれを担保する手続が不十分であるために、一方の親と面接交渉できない子が少なくない。」などと主張した[22]。
第171回国会で、衆議院では枝野幸男、泉健太らが、参議院では福島瑞穂、仁比聡平らが紹介議員となって「離婚後の共同親権制度を導入すること」などを求める請願が提出された[23][24]。
2011年5月20日、菅直人内閣はハーグ条約に加盟する方針を閣議了解した[25]。
第183回国会で、ハーグ条約の承認と、ハーグ条約実施法案が、全会一致で可決された[26]。
2013年4月8日、浜田和幸は参議院に提出した質問主意書で、欧米では離婚後も共同親権が一般的であり、ハーグ条約の基本理念も同様の趣旨であるのにもかかわらず、日本では単独親権制度が採用されおり条約と国内法の間に矛盾が生じているため、「法律を改正し単独親権から共同親権へと制度を変更すべきと考える」などと主張した[27]。これに対し、第2次安倍内閣はハーグ条約においては、「子の親権又は監護権に関する事項及び面会交流の在り方については各締約国の法制に委ねており、各国に共通する基準はないものと承知している。」などと答弁した[28]。
2020年4月、法務省民事局は外務省に依頼した、日本以外のG20諸国を含む海外24か国の家族法制を対象とした調査の結果についてまとめた文書を公表した[29]。同文書によれば調査対象となった24か国で離婚後の共同親権が認められていない国はインドとトルコのみであった[29]。
2023年4月18日、法制審議会の家族法制部会は、2021年3月から行われてきた共同親権の賛否をめぐる激しい議論を踏まえたうえで、離婚後の共同親権を導入する方向で検討することを確認した[30]。
2024年4月16日、離婚時に「父母の協議によって共同親権か単独親権かを決め、合意できない場合は家庭裁判所が親子の関係などを考慮して判断」すること、などを内容とする民法などの改正案が衆議院で可決した[31]。自民党、公明党、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党などが賛成し、日本共産党、れいわ新選組、自民党の野田聖子が反対した[31]。
2024年5月17日、上記の改正民法などが参議院本会議で可決・成立した[32]。自民党、公明党、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党などが賛成し、日本共産党、れいわ新選組などが反対した[32]。
2005年頃から、国際結婚において、諸外国で婚姻した日本人が、もう一方の配偶者の許可なく子供を連れて帰国してしまう問題が諸外国から指摘されている(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約も参照)[33]。日本の離婚に関する裁判では離婚時に子供を監護していた親にそのまま実質的に親権や監護権が認められることが多く、かつ裁判所による監護者の変更の命令があっても執行されない場合があることが問題視されている。こうした背景には、暴言や家庭内暴力(DV)に対する法整備が不十分であり、「逃げるしかない」ことがあるとされる[33]。
2010年2月2日、アメリカのカート・キャンベル国務次官補は日本のハーグ条約締約をめぐり、東京都内で会見を行った[34]。キャンベルはDVから逃れて帰国する日本人妻がいるのでハーグ条約を締約しないという日本政府の主張に対し、「実際に暴力があった事例はほとんど見つからない。相当な誤認だ」と反論し、「大半は米国内で離婚して共同親権が確立しており、これは『誘拐』だ」、「解決に向けて進展がないと、日米関係に本当の懸念を生みかねない」と主張した[34]。
2018年5月にアメリカ合衆国国務省が発表したハーグ条約に関する年次報告書で、日本は中国、ブラジル、アルゼンチンなどとともにハーグ条約の不履行国に認定された[35]。
国連の子どもの権利委員会は2019年2月1日に採択された総括所見で、日本に対して、「子どもの最善の利益に合致する場合には(外国籍の親も含めて)子どもの共同親権を認める目的で、離婚後の親子関係について定めた法律を改正するとともに、非同居親との個人的関係および直接の接触を維持する子どもの権利が恒常的に行使できることを確保すること。」などと勧告した[36]。
EU議会本会議は、2020年7月8日に賛成686票、反対1票、棄権8票で採択された決議で、日本に対して、「ハーグ条約第6条及び第7条の義務の履行」、「共同親権の可能性に向けた国内法令改正」、「児童の権利条約へのコミットメントを守ること」などを要求した[37][38][39][40]。
2022年11月15日に家族法制部会が「家族法制の見直しに関する中間試案」[41]を公表したことを受けて、オーストラリアの外務貿易省と司法省は「共同親権案の検討を含む、法制審議会家族法制部会による家族法制の改革に向けた取り組みを歓迎する。」との声明を発表した[42]。
2023年6月14日、オーストラリア、ベルギー、カナダ、EU、フランス、ドイツ、イタリア、ニュージーランド、イギリスの駐日大使らは日本の外務省と法務省に送付した「家族法制改正を支持する駐日大使の共同声明」と題された声明で、日本の家族法制の改正に関心を持っているとしたうえで、「現在検討されている、離婚後の単独親権からの脱却を目指す改正案は、日本を子どもの権利条約の締約国としての国際的義務に沿わせるものである」という評価を示した[43][44] 。
欧米における共同親権は、以下のような歴史を持つ[45][46][47]。3つの時期に分けることができる。
子供は、父親の持ち物ではなく、母親の体の一部分でもない。子供自身の利益が尊重される必要がある。共同親権とは、子供の側から見れば、二人の親を持つ権利である。二人の親と十分な関わりを持って育てられる権利である。こうした、子供の利益の尊重や、子供が二人の親を持つ権利の保障は、「児童の権利に関する条約」にまとめられ、1989年に国連総会で採択された。ただし、アメリカは未だに「児童の権利に関する条約」を批准しておらず、アメリカでは同条約は効力を持たない。同条約を批准していないのは、世界でソマリアとアメリカの2か国だけある。
各国の共同親権法は、子供の発育に両方の親がかかわることを求めるものであり、二人の親を持つという子供の権利を守るものである。
ほぼ全ての南北アメリカ大陸諸国、ほぼ全てのヨーロッパ諸国、オセアニア両国、アジアの中国・韓国が、結婚中も離婚後も共同親権である[51]。「2人の親を持つのは子供の権利であり、親が結婚していようと、いまいと関係がない。」とされている。
離婚後共同親権は、親と子供に次のような影響を及ぼす[52][53][54]。
欧米各国は共同親権に移行しているが、単独親権から共同親権に移行すると、父親と母親の紛争が減ることが観察されている[57][58][59][60]。単独親権では、潜在的に子供を奪い合う状態にあるが、共同親権に移行し、双方の親子の時間が保障され親子関係の維持が保障されると、両親は争う必要が無くなる。両親は、単に子供の時間を分け合うだけでなく、もっと積極的に協力して子供の養育を行うようになる。また単独親権者の育児負担が減る。
共同親権に移行すると、両親の間の紛争が減る[58][59]。また、両親から子供へ提供される資金が増える[57][61]。また、両方の親がそれぞれの役割を果たすことが可能になる。これらにより、子供の精神的予後が改善する。離婚していない両親の子の精神状態に近づく。また、新しい夫や実の母による子供への虐待が減る。共同監護の方が単独監護より子どもが抱える心因性の問題がはるかに少ないとの研究報告がある[62]。
共同親権への移行後、1、2年以内に、その地域の離婚率が低下する[63][64][58]。
ベリーベスト法律事務所は「共同親権のデメリット」として、以下のようなものを挙げている[65]。
子供が両親の家の間を頻繁に行き来して生活するような場合は、子供に負担がかかる。
両親間で教育方針や生活様式、考え方などが異なる場合に、両親の間で争いが起きたり、子供が混乱したりする可能性がある。
子供の移動負担を考慮すると、離婚後も両親双方が近接した地域に住まなければならず、仕事などで遠方に引っ越ししづらくなる。
民法学者の小川富之はオーストラリアで「2006年の法改正」によって生まれた「離別後も親子の面会交流を促進することが、『子の最善の利益に合致する』という考え方に立つ法律」が原因で「DV、虐待の問題の多発」が生じたと主張している[66]。
離婚後の共同親権は、多くの人によって支持されている[67]。