ルーヴル宮殿(ルーヴルきゅうでん、仏: Palais du Louvre、IPA: [palɛ dy luvʁ])は、かつて歴代フランス王の王宮として使用されていた宮殿。パリのセーヌ川右岸に位置し、西側のテュイルリー庭園と東側のサンジェルマン・ロクセロワ教会の間にある。ルーヴル宮殿の北側はリヴォリ通り (en:Rue de Rivoli) に面し、南側はフランソワ・ミッテラン通り (en:Quai François Mitterrand) に面している。中世に建築が始められ、16世紀以降増改築を繰り返されてきた。1682年にフランス王ルイ14世がヴェルサイユ宮殿に遷宮するまで、事実上の歴代フランス王宮としての役割を果たしている。ルーヴル宮殿は1682年以降も、アンシャン・レジームが終焉する1789年まで、名目上、あるいは公式な政庁として使用されていた。その後ルーヴル宮殿内にルーヴル美術館が創設され、また、様々な官公庁部署が収容されていった。
1190年に、第3回十字軍を主導したことでも知られるフランス王フィリップ2世が、パリ全域を囲む城壁 (en:Wall of Philip II Augustus) の建設を命じた。「フィリップ・オーギュストの防壁」とも呼ばれるこの城壁は、北西からの敵侵攻に備えたもので、城壁外部には数棟の堅固な城塞が建設された。これらの城塞のうちセーヌ川に建設されたのが、現在のルーヴル宮殿の前身にあたる城塞としてのルーヴルである。ルーヴルが建設されたのは、現在のクール・カレ南西部分のおよそ四分の一に相当する場所で、1202年に完成した。現在でもルーヴルのシュリー翼で、建設当時のルーヴルの遺物が一般公開されている[6][7]。
パリの隆盛と百年戦争の勃発が商人頭エティエンヌ・マルセルの台頭を招き、実質的にパリ市長ともいえる地位にいたマルセルは、フィリップ・オーギュストの防壁の外側に土塁を築き始めた。フランス王と対立していたマルセルの暗殺後にフランス王位に就いたシャルル5世も、この土塁建造を継続してさらに防壁へと強化していった[10]。「シャルル5世の防壁 (en:Wall of Charles V)」と呼ばれるこの防壁は、現在でもルーヴル美術館のギャルリ・カルーゼル(カルーゼル展示室)で見ることができる[9]。マルセルの土塁の最西端に設置されていた木造の塔から、シャルル5世の防壁がセーヌ右岸を巡っていたフィリップ・オーギュストの防壁の外側にも延長された。二重の防壁に囲まれたルーヴルの軍事的重要性とその価値は飛躍的に高まっていった[12]。
ユグノー戦争中に断絶したヴァロワ家の後、1589年にブルボン家がフランス王位を継ぎ、アンリ4世(在位1589年 - 1610年)がルーヴルの「大計画 (Grand Design)」を開始した。中世の城塞時代からの遺構をすべて破却して中庭クール・カレを拡張するとともに、ルーヴルとテュイルリー宮殿を結ぶ長大な回廊の建造計画を推し進めたのである。建築家ジャック・アンドルーエ・デュ・セルソー (en:Jacques II Androuet du Cerceau) とルイ・メテゥゾーが完成したこの回廊はグランド・ギャルリ(大展示室、Grande Galerie)と呼ばれるようになった[22]。セーヌ川に沿って長さ400メートル超、幅およそ30メートルに及ぶこの長大な回廊は、完成当時で世界最長の建造物だった。アンリ4世は、数百人にのぼる芸術家、工芸家をルーヴルに住まわせて芸術活動を後援した。この慣習は200年後にナポレオン3世が廃止するまで続いている。
グランド・ギャルリで結ばれたルーヴルとテュイルリー宮殿。1615年のパリ地図。
レイニール・ノームスが描いたルーヴルの南側ファサード(1650年頃)。
17世紀初頭にルイ13世が、レスコ翼を北へと倍の長さへの延長を決定し、建築家ジャック・ルメルシエが1642年ごろに完成させた。このときに延長されたレスコ翼の中央棟は、1857年に時計が設置されたことから「時計棟 (en:Pavillon de l’Horloge) と呼ばれるようになっていった[22]。ルメルシエは、北翼を東へと延伸する第一期の工事も手がけている[23]。
1644年頃のルーヴル西側ファサード。ジャック・ルメルシエが北へ延伸したレスコ翼が見える。レスコ翼終端のボーヴェ棟 (Pavillon de Beauvais)は一階部分しかない。イスラエル・シルヴェストルの銅版画。
1659年フランス王ルイ14世が、建築家ルイ・ル・ヴォー (en:Louis Le Vau) と画家シャルル・ル・ブランにルーヴルの拡張計画推進を命じた。ル・ヴォーはテュイルリー宮殿の改装が完了するまで作業監督を務め、さらにルーヴルの北翼の仮組と南翼の延伸の完遂、王の別館の装飾、プティート・ギャルリに沿って設けられた新たなギャルリである王の大執務室 (Grand Cabinet du Roi) と礼拝堂の新設を担当した。ル・ブランはギャルリ・アポロン(アポロン展示室 (en:Galerie d'Apollon))の装飾を担当した。造園家のアンドレ・ル・ノートルは、カトリーヌ・ド・メディシスが1564年にイタリア風庭園として完成させたテュイルリー庭園を、フランス風庭園へと改装している[22][24][25]。「王室美術コレクション (Cabinet du Roi)」の中核は、プティート・ギャルリの上階に設置されたアポロン・ギャルリ西側の8部屋に飾られていた。1673年頃には多くの歴代フランス王の肖像画がこれらの部屋に収蔵されており、アート・ギャラリーとして公開されるようになっていった。1681年にルイ14世がフランス王宮をルーヴルからヴェルサイユ宮殿に遷すと、アポロン・ギャルリの絵画のうち26点がヴェルサイユ宮殿へと持ち出された。ルーヴルの王室美術コレクションの価値はその分低くなったとはいえ、1684年発行のパリガイドブックにも記載されており、1686年にはシャムの外交官一行が見学に訪れている[26]。
1983年に当時のフランス大統領フランソワ・ミッテランが、「パリ大改造計画 (en:Grands Projets of François Mitterrand)」を推進した。この計画の一環として「大ルーヴル計画 (Grand Louvre)」が実施されることとなり、1983年に大ルーヴル計画公団が設立された。この計画では、ルーヴルの建造物の修復と、リシュリュー翼に収容されていた財務省を移設して、建物全体を美術館として使用することが決められた。さらにアメリカの建築家イオ・ミン・ペイに、クール・ナポレオンの中央に新たに設置するメイン・エントランスの設計が任され、1989年にルーヴル・ピラミッドと呼ばれるガラス製の近未来的なデザインのピラミッドが完成した[30][31]。完成当初には、古典的建築物であるルーヴルに、このような建造物は相応しくないのではないかという議論が巻き起こったが、徐々に新たなパリのランドマークとしてパリ市に受け入れられつつある。1993年にはルーヴル・ピラミッドと対となるルーヴル・逆ピラミッドが完成した。2002年以降のルーヴルの入場者数は、大ルーヴル計画以前に比べて約2倍に増加している[32]。
^Ayers 2004, p. 34. 正方形を構成するという当初計画が破棄されて、現在のような長方形を構成する翼棟に設計変更された時期については、複数の説がある。エアーズは1594年10月だという説を唱え(Ayers 2004, p. 35)、ボーティエは計画変更を決めたのはアンリ4世だったとしている(Bautier 1995, p. 39)。その他、バロンはアンリ2世が1551年にレスコの当初計画を4倍に延伸する案を裁可したと主張し(Ballon 1991, p. 16)、ミニョはレスコ自らがアンリ2世に計画の変更を提案したとしている(Mignot 1999, p. 38)。
^Drawing by architect Henri Legrand (1868) based on historical documents reproduced in Berty 1868, after p. 168 (at Gallica).
^Figure from Berty 1868, after p. 56 (at Gallica); discussed and reproduced in Lowry 1956, pp. 61–62 (c. 1560, date of completion of the Pavillon du Roi; Lescot wing completed in 1553); Fig. 20, discussed on p. 143.
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