リンゴ酸 (林檎酸 、リンゴさん、malic acid)とは、ヒドロキシ酸 に分類される有機化合物 の一種。オキシコハク酸 ともいう。リンゴ酸の和名は、リンゴ から見つかったことに由来する。IUPAC置換命名法 では 2-ヒドロキシブタン二酸 (2-hydroxybutanedioic acid) と表される。2位に光学中心を持ち、リンゴに多く含まれる異性体は (S )-(-)-L体 である。0.1% 水溶液の pH は 2.82。 リンゴ酸は2つの光学活性形態とラセミ混合物として存在する。ヨーロッパとアメリカで商業的に生産されている合成材料はラセミ混合物であり、リンゴや多くの他の果物や植物で発見されている天然材料は左回りである[ 2] 。
生化学
天然にはL -リンゴ酸が見られる。
リンゴ酸は生化学 で重要な役割を果たす。
C4型光合成 では、カルビン回路 のCO2 源となる。クエン酸回路 ではH2 O がフマル酸 のSi 面に付加することで(S )-リンゴ酸が生成する。(S )-リンゴ酸はリンゴ酸デヒドロゲナーゼ によって酸化され、オキサロ酢酸 となる。ピルビン酸 から補充反応 によって生成されることもある。
サボテンなどのCAM型光合成 では、夜間に気孔を開き二酸化炭素をリンゴ酸の形で取り込み、日中にリンゴ酸から二酸化炭素を取り出すことで、水分の蒸散を最小限としている[ 3] 。
孔辺細胞 では、ホスホエノールピルビン酸 のカルボキシル化 によっても合成される。これは細胞がカリウムを取り込む際にその対イオンとなる。細胞内の溶質の濃度が上昇すると浸透圧が低下し、水が流入して細胞が膨張することで気孔が閉じる。
生理学
ラット においてリンゴ酸はごく少量しか血液脳関門 (BBB)を通過しないと示唆されている[ 4] 。
小規模な実験ではクエン酸同様、尿のpHを上昇させ尿中クエン酸の排出を増やすとする報告がある[ 5] 。
用途
(S )-(-)-L-リンゴ酸
爽快感のある酸味を持つため、飲料や食品の酸味料 として用いられる。また、pH調整剤、乳化剤 など、食品工業 においてさまざまな用途に利用されている。
キレート 性を持つ酸であることから、金属表面の洗浄などにも用いられる。アルミニウム をキレートする能力が高い。
食品、工業に使われるリンゴ酸は、多くの場合ラセミ体 が用いられる。
食品との関連
リンゴ酸は1785年、カール・ヴィルヘルム・シェーレ によってリンゴジュース から単離された。1787年、アントワーヌ・ラヴォアジエ がラテン語 mālum (リンゴ)に由来するacide malique という名を提唱した[ 6] 。リンゴ の酸味に寄与する。ブドウ にも存在し、ワイン では5g/l以上の濃度になることもある[ 7] 。ブドウが熟していくと共にその量は減少するが、ワインに酸味を与える。マロラクティック発酵 は、2塩基のリンゴ酸をよりまろやかな1塩基の乳酸 に変換する。
食品添加物としては、E296というE番号 が与えられている。酸味の少ないクエン酸 の代用としても使われるが、過剰摂取により口の中に炎症を引き起こす可能性もある。食品添加物 として欧州[ 8] ・米国[ 9] ・オーストラリア、ニュージーランド[ 10] で認可されている。
サプリメント としてはアメリカなどで販売されている。
サプリメントにおいてはリンゴ酸のカルシウム化合物であるリンゴ酸カルシウム がクエン酸カルシウム の溶解性を高めるために用いられる。この混合物は特にクエン酸リンゴ酸カルシウム (CCM - calcium citrate malate(英語版 ) )と呼ばれている[ 注 1] 。
反応
工業的には無水マレイン酸 の水和によって得られる[ 11] 。
発煙硫酸 によって自己縮合 し、ピロン であるクマリン酸 (o -クマル酸 ではないので注意)を与える[ 12] 。
発煙硫酸によるクマリン酸の合成
(-)-リンゴ酸はPCl5 の作用で(+)-クロロコハク酸となり、(+)-クロロコハク酸は酸化銀(I) 触媒により(+)-リンゴ酸となる。(+)-リンゴ酸にPCl5 を作用させると(-)-クロロコハク酸となる。このことからヴァルデン反転 が発見された。
脚注
注釈
^ 1981年に日本の特許(特開昭56-097248)でクエン酸リンゴ酸カルシウムが比較的溶解しやすい事が示されてから、その構成比率(カルシウム:クエン酸:リンゴ酸のモル比5:2:2等)についての調整が行われつつ現在に至っている。
出典
^ chemBlink Online Database of Chemicals from Around the World
^ “Malic acid ”. 2023年6月19日 閲覧。
^ “サボテンの秘密(形態・生理的特徴) 堀部研究室(園芸学研究室) ”. 中部大学(www3.chubu.ac.jp) . 2024年3月25日 閲覧。
^
Bjornar Hassel, Anders Brathe and Dirk Petersen (July 2002). “Cerebral dicarboxylate transport and metabolism studied with isotopically labelled fumarate, malate and malonate” . Journal of Neurochemistry 82 (2): 410-419. doi :10.1046/j.1471-4159.2002.00986.x . https://doi.org/10.1046/j.1471-4159.2002.00986.x 2020年8月24日 閲覧。 .
^ “Malic acid supplementation increases urinary citrate excretion and urinary pH: implications for the potential treatment of calcium oxalate stone disease”. Journal of endourology 28 (2). (2014). doi :10.1089/end.2013.0477 . PMID 24059642 .
^ The Origin of the Names Malic, Maleic, and Malonic Acid Jensen, William B. J. Chem. Educ. 2007 , 84, 924. Abstract
^ "Methods For Analysis of Musts and Wines", Ough and Amerine, John Wiley and Sons, 2nd Edition, 1988, page 67
^ UK Food Standards Agency: “Current EU approved additives and their E Numbers ”. 2011年10月27日 閲覧。
^ US Food and Drug Administration: “Listing of Food Additives Status Part II ”. 2011年10月27日 閲覧。
^ Australia New Zealand Food Standards Code“Standard 1.2.4 - Labelling of ingredients ”. 2011年10月27日 閲覧。
^ Karlheinz Miltenberger "Hydroxycarboxylic Acids, Aliphatic" in Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry,2005, Wiley-VCH, Weinheim. doi :10.1002/14356007.a13 507
^ Richard H. Wiley and Newton R. Smith (1963). "Coumalic acid" . Organic Syntheses (英語). ; Collective Volume , vol. 4, p. 201
関連項目
+ H 2 O
CoA + ATP (GTP)
Pi + ADP (GDP)
NADH + H+ + CO2
CoA
NAD+