ピルビン酸 (ピルビンさん、Pyruvic acid)は有機化合物 で、カルボン酸 の一種。IUPAC命名法 で 2-オキソプロパン酸 (2-oxopropanoic acid) と表される。α-ケトプロピオン酸 (α-ketopropionic acid) あるいは焦性ブドウ酸 (pyroracemic acid) とも呼ばれる。水、エタノール、エーテルなど、さまざまな極性溶媒 や無極性溶媒 と任意な比率で混和する。酢酸 に似た酸味臭を示す。2位のカルボニル基 を還元すると乳酸 となる。
生体内では解糖系 による糖の酸化で生成する。
ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体 の作用により補酵素A と結合するとアセチルCoA となり、クエン酸回路 や脂肪酸合成系 に組み込まれる。
また、グルタミン酸 からアミノ基 を転移されるとアラニン になる。
化学
1834年、テオフィル=ジュール・ペルーズ は酒石酸 (L -酒石酸)およびブドウ酸(D- およびL -酒石酸の混合物)を蒸留し、焦性酒石酸(メチルコハク酸[2] )およびもう一種の酸を単離した。後者は翌年イェンス・ヤコブ・ベルセリウス が分析を行い、焦性(pyro)+ラテン語でブドウ(uva)+酸(-ic acid)からピルビン酸(Pyruvic acid)と命名した[3] 。ピルビン酸は、酢酸 に似た臭いの無色液体であり、水 と混和 する。実験室では、ピルビン酸は酒石酸 および硫酸水素カリウム の混合物の加熱や[4] 、強力な酸化剤(例えば過マンガン酸カリウム や漂白剤 )によるプロピレングリコール の酸化 、塩化アセチル とシアン化カリウム の反応によって得られるシアン化アセチル の加水分解などによって調製される。
CH
3
COCl
+
KCN
⟶ ⟶ -->
CH
3
COCN
+
KCl
{\displaystyle {\ce {CH3COCl + KCN -> CH3COCN + KCl}}}
CH
3
COCN
⟶ ⟶ -->
CH
3
COCOOH
{\displaystyle {\ce {CH3COCN -> CH3COCOOH}}}
生化学
ピルビン酸は生化学 において重要な化合物 である。ピルビン酸は解糖系 として知られるグルコース の嫌気性代謝の生産物である[5] 。グルコース1分子はピルビン酸2分子へと分解し[5] 、ピルビン酸はさらにエネルギーを得るため2つの方法で使われる。ピルビン酸は、クレブス回路 として知られる一連の反応の主要な材料であるアセチル補酵素A へと変換される。また、ピルビン酸は補充反応 によってオキサロ酢酸 へ変換される。オキサロ酢酸はクレブス回路の中間体を補充し、糖新生 にも使用される。これらの反応は、代謝過程の研究でフリッツ・アルベルト・リップマン と共に1953年のノーベル生理学・医学賞 を受賞したハンス・アドルフ・クレーブス に因んで命名された。この回路はまた、クエン酸がこれらの反応中の中間体として生成するため、クエン酸回路あるいはトリカルボン酸 (TCA) 回路としても知られている。
十分な酸素 が供給されない場合、ピルビン酸は嫌気 的に分解され、動物では乳酸 、植物 や微生物 ではエタノール が生成する。解糖系からのピルビン酸は乳酸発酵 において乳酸脱水素酵素 と補酵素 NADH を用いて、あるいはアルコール発酵 においてアセトアルデヒド 、さらにエタノール へと変換される。
ピルビン酸は代謝経路 ネットワークの鍵となる物質である。ピルビン酸は糖新生によって炭水化物 、アセチルCoA を介して脂肪酸 あるいはエネルギー、アミノ酸 のアラニン 、エタノール へと変換することができる。
血液検査の参考基準値 。ピルビン酸(中央付近にスミレ色で示されている)の血中含量をその他の成分と比較している。
ピルビン酸誘導体のブロモピルビン酸 は、抗がん剤候補として研究されている(ワールブルク仮説 を参照)。
解糖系によるピルビン酸の産生
解糖系において、ホスホエノールピルビン酸 (PEP) はピルビン酸キナーゼ によってピルビン酸へと変換される。この反応は自発的かつ不可逆的である。糖新生では、ピルビン酸からPEPへの逆変換を触媒するために、ピルビン酸カルボキシラーゼ とホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ の2種の酵素が使われる。
アセチルCoAへの脱炭酸
ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体 によるピルビン酸脱炭酸反応 がアセチルCoA を産生する。
オキサロ酢酸へのカルボキシル化
ピルビン酸カルボキシラーゼ によるカルボキシル化はオキサロ酢酸 を産生する。
アラニンへのアミノ基転移
アラニントランスアミナーゼ によるアミノ基転移でアラニン が産生する。
乳酸への還元
乳酸脱水素酵素 による還元で乳酸 が産生する。
双方向伝達経路地図
以下の遺伝子、タンパク質、代謝それぞれの記事をクリックできる [6]
[[File:
|{{{bSize}}}px|alt=クエン酸回路
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脚注
^ Dawson, R. M. C. et al., Data for Biochemical Research , Oxford, Clarendon Press, 1959.
^ Thomson, Thomas (1838). “II. Of fixed acids Section” . Chemistry of organic bodies, vegetables . London: J. B. Baillière. p. 65. https://books.google.co.jp/books?id=Wq45AAAAcAAJ&pg=PA65&redir_esc=y&hl=ja#v=onepage&q&f=false 2010年12月1日 閲覧。
^ Thorpe, Sir Thomas Edward (1922). “Glutaric acid” . A dictionary of applied chemistry . 3 . London: Longmans, Green, and Co.. pp. 426–427. https://books.google.co.jp/books?id=MgA5AAAAIAAJ&pg=PA426&redir_esc=y&hl=ja#v=onepage&q&f=false 2010年12月1日 閲覧。
^ Organic Syntheses, Coll. Vol. 1, p.475 (1941); Vol. 4, p.63 (1925) [1]
^ a b Lehninger, Albert L.; Nelson, David L.; Cox, Michael M. (2008). Principles of Biochemistry (5th ed.). New York, NY: W.H. Freeman and Company. p. 528. ISBN 978-0-7167-7108-1
^ この双方向伝達経路地図はWikiPathwaysで編集できる: TCA_Cycle_WP78 , http://www.wikipathways.org/index.php/Pathway:WP78