ユビキチン活性化酵素(ユビキチンかっせいかこうそ、英: ubiquitin-activating enzyme)またはE1酵素(E1 enzyme)はユビキチン化反応の最初の段階を触媒し、タンパク質をプロテアソームによる分解の標的とする。標的タンパク質へのユビキチンまたはユビキチン様タンパク質の共有結合による付加は、真核生物でタンパク質の機能を調節する主要な機構である[2]。細胞分裂、免疫応答、胚発生など多くの過程がユビキチンとユビキチン様タンパク質による翻訳後修飾によって調節されている[2]。
ユビキチン化の概要
ユビキチン活性化酵素(E1)は、ユビキチン化のプロセスを開始する。E1酵素はATPとともにユビキチンタンパク質を結合する。その後、E1酵素はユビキチンを2番目のタンパク質、ユビキチン結合酵素(E2)へ受け渡す。E2タンパク質はユビキチンリガーゼ(E3)と複合体を形成する。ユビキチンリガーゼはタグ付けを必要とするタンパク質を認識し、標的タンパク質へのユビキチンの転移を触媒する。この経路は標的タンパク質に十分なユビキチン鎖が形成されるまで繰り返される[3]。
構造と機構
ユビキチン化カスケードの開始時にE1酵素はATP-Mg2+とユビキチンを結合し、ユビキチンのC末端のアシルアデニル化反応(acyl adenylation)を触媒する[4]。次の段階として、E1酵素の触媒残基のシステインがユビキチン-AMP複合体を攻撃し、アシル基を置換するとともにチオエステル結合を形成しAMPが脱離する[2]。最終的に、E2酵素の触媒システインがE1~ユビキチン複合体を攻撃し、チオエステル交換反応(transthioesterification)によってE1~ユビキチン複合体からE2酵素へユビキチンが転移される[5]。しかし、チオエステル交換反応の過程はきわめて複雑であり、E1酵素とE2酵素が中間体となる複合体を形成し、双方の酵素が互いに結合するために一連のコンフォメーション変化が引き起こされる[5]。
この機構を通じて、E1酵素は2分子のユビキチンを結合している。2つ目のユビキチンも同様にアデニル化が行われるが、同様のチオエステル複合体の形成はこれまで記載されていない。2つ目のユビキチンの機能は大部分が不明であるが、チオエステル交換反応の際にE1酵素のコンフォメーション変化を促進する可能性が考えられている[2]。
アイソザイム
次に挙げる遺伝子はユビキチン活性化酵素をコードしている
疾患との関連
ユビキチン-プロテアソームシステムは、細胞内での適切なタンパク質分解に重要である。このシステムの機能不全は細胞の恒常性を破壊し、多くの異常をもたらす。正常に機能している細胞では、ユビキチンまたはユビキチン様タンパク質が共有結合することで標的タンパク質の表面が変化する。これらのユビキチン化されたタンパク質はタンパク質分解経路または非タンパク質分解経路による分解へと向けられる[7]。このシステムの異常によって、がん、糖尿病、脳卒中、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、喘息、炎症性腸疾患、自己免疫性甲状腺炎、炎症性関節炎、全身性エリテマトーデスなど多数の先天性・後天性疾患が引き起こされる可能性がある[7]。
UBE1遺伝子のミスセンス変異とXL-SMA
ユビキチン-プロテアソーム経路が関係するさまざまな疾患の中に、X-linked infantile spinal muscular atrophy(XL-SMA、X連鎖型の乳幼児期の脊髄性筋萎縮症)がある[8]。この致命的な小児疾患は、前角細胞の喪失と乳幼児期の死亡と関係している。臨床的な特徴には、低血圧、反射消失、先天性多発性拘縮がある。大規模な変異解析によってXL-SMAの6家族のスクリーニングが行われ、2家族で新規ミスセンス変異、3家族で新規のC→T同義置換がみられた。これらはすべて、ユビキチン活性化酵素をコードするUBE1遺伝子のエクソン15に位置しており、家族内で疾患と共にsegregationしていることが観察された。簡潔に言うと、UBE1のミスセンス変異は、軸索構造と神経細胞の維持に関与するタンパク質ギガキソニン(英語版)との複合体形成の阻害をもたらす可能性がある。それによって微小管結合タンパク質MAP1B(英語版)の分解が阻害されて蓄積し、神経細胞死の増加がもたらされる[8]。そのため、UBE1遺伝子の変異はXL-SMAの遺伝的原因であることが疑われる。
出典
関連項目
外部リンク