ヒルギダマシ (蛭木騙し、学名:Avicennia marina )はキツネノマゴ科 ヒルギダマシ属 の常緑木本。分類によってはクマツヅラ科 や独立科であるヒルギダマシ科 に含められることもある。潮間帯に生育するマングローブ 樹種のひとつ。ヒルギという名がついているが、ヒルギ科 ・ヒルギモドキ (シクンシ科 )などの植物とは別の系統に属する。
特徴
成木で高さ10m程度となる常緑高木だが、生息地北限となる沖縄 では高さ数mの低木となる。同じマングローブ 植物のハマザクロ (マヤプシギ)と同じく、干潟の泥の中に放射状に広く水平に根を張り、高さ数cm程度の柔らかい筍根 と呼ばれる呼吸根 を、土壌表面より垂直に突き出すのが大きな特徴となる。この呼吸根は二次肥大成長 をしないため、マヤプシギと比較してなめらかで弾力性に富む。また根には葉緑素 を持つ。葉は卵状からへら状、太披針状とバラエティに富み、革質で、対生する。葉には本種のもう一つの大きな特徴として塩類腺 がある[ 2] 。塩類腺 は、常に海水に曝される本種の塩分の排出機構であり、葉の表面・裏面に存在するため、代謝が活発で気温が高い夏季などには、塩類腺 から排出された塩分が結晶化しているのを観察できることがある。雌雄異株。花期は夏で、葉腋または枝先に集散花序 をつけ、5mm程度の大きさの黄色ないし橙色の花を数個咲かす。蜜腺は花弁自体に細かい突起状の分泌腺として存在する。[ 3] 果実は2cm程度の楕円形で表面に細かい毛が生え、灰白色に熟す。海水に浮くため、海流に流されることで分布域を広げる。
分布
東アフリカ 熱帯域から東南アジア 、オセアニア 、ニュージーランド 等の熱帯 および亜熱帯 の海岸に広く分布する。日本では先島諸島 (宮古島 ・石垣島 ・小浜島 ・西表島 )に分布する。
日本における生育地
先島諸島 の干潟 域にマングローブ として生える。石垣島 や西表島 に多く、宮古島 島尻の生育地は本種の世界的な北限でもある。高い耐塩性を持ち、日本のマングローブの帯状分布 では最も外側(海側)に生育する。本種は南アジア 等では15mほどの高木となるが、日本 の生息地では、多くが1m程度の低木である。そのため潮位が高い時には海水に完全に水没することも多い。世界的には広い分布域を持つ本種であるが、分布域の北限にあたる日本 では数が少なく、絶滅危惧IB類 (EN) (環境省レッドリスト )に指定されている。
日本国外における生育地
ゲシュム島 のヒルギダマシ(ハラー)林
イラン ・ゲシュム島 付近のヒルギダマシ林は「ハラー生物圏保護区」としてユネスコ の生物圏保護区 に指定されている[ 4] 。
利用
植生が豊富な地方では、伐採して木炭 原料としたり、パルプ化して製紙 原料とする。蜜 が採れるので、養蜂 の採蜜対象とすることもある。
また高い耐塩性を活用し、紅海 海岸に植樹することで海岸線の緑化が試みられている。[ 5]
また、ヤギ の飼料としての価値も検討されている、利用価値の高い植物である。
保護上の位置づけ
脚注
^ a b Duke et al. (2010).
^ “財団法人 亜熱帯総合研究所 日本におけるマングローブ研究の動向 ”. 2012年8月23日 閲覧。
^ マングローブ植物の花蜜分泌機構
^ UNESCO (2019年2月25日). “Hara Biosphere Reserve, Islamic Republic of Iran ” (英語). UNESCO . 2021年3月7日 閲覧。
^ “第14回ブループラネット賞受賞者記念講演 ”. 2012年8月23日 閲覧。
参考文献
沖縄県文化環境部自然保護課編 『改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物(菌類編・植物編)-レッドデータおきなわ-』、2006年。
環境庁自然環境局野生生物課編 『改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物8 植物I(維管束植物)』 財団法人自然環境研究センター、2000年、ISBN 4-915959-71-6
島袋敬一編著 『琉球列島維管束植物集覧』 九州大学出版会、1997年。
多和田真淳監修・池原直樹著 『沖縄植物野外活用図鑑 第8巻 ばら科~きつねのまご科』 新星図書出版、1989年。
土屋誠・宮城康一編 『南の島の自然観察』、東海大学出版会、1991年。
初島住彦 ・天野鉄夫 『増補訂正 琉球植物目録』 沖縄生物学会、1994年。
Duke, N., Kathiresan, K., Salmo III, S.G., Fernando, E.S., Peras, J.R., Sukardjo, S., Miyagi, T., Ellison, J., Koedam, N.E., Wang, Y., Primavera, J., Jin Eong, O., Wan-Hong Yong, J. & Ngoc Nam, V. (2010). Avicennia marina . The IUCN Red List of Threatened Species 2010: e.T178828A7619457. https://doi.org/10.2305/IUCN.UK.2010-2.RLTS.T178828A7619457.en . Downloaded on 07 September 2018 .
外部リンク