この項目では、ビートルズ の楽曲について説明しています。
「アクロス・ザ・ユニバース 」(Across the Universe )は、ビートルズ の楽曲である。1969年に発売されたWWF へのチャリティ・アルバム『ノー・ワンズ・ゴナ・チェンジ・アワ・ワールド (英語版 ) 』に収録され、1970年に発売された12作目のイギリス盤公式オリジナル・アルバム『レット・イット・ビー 』には別アレンジの音源で収録された。レノン=マッカートニー 名義となっているが、実質的にはジョン・レノン によって書かれた。楽曲が発表されて以降、多数のアーティストによってカバーされ、1975年に発表されたデヴィッド・ボウイ によるカバー・バージョンには、レノンがギターとコーラスで参加している。
背景・曲の構成
「アクロス・ザ・ユニバース」の歌詞は、レノンの当時の妻であるシンシア・レノン が延々と喋り続けたことに由来している。1967年のある夜、シンシアに腹を立て、階下に降りたレノンは本作冒頭の「Words are flowing out like endless rain into a paper cup 」という一節を思いつき、しばらく考えた末に一気に歌詞を書き上げた。この経緯についてレノンは、「ベッドでシンシアの隣に寝そべっていたときのことだ。僕はイライラしていた。きっと彼女がどうでもいいことを延々と喋り続けていたからだろう。僕の耳には彼女の言葉が、尽きることのない流れのように、幾度となく聞こえてきた。階下に降りた瞬間に、それがイライラの歌から宇宙の歌へと変わった。職人技なんて関係ない。あの曲は勝手に出来上がったのさ」と振り返っている。
本作は1967年後半から1968年初頭にビートルズのメンバーが関心を寄せた超越瞑想 に影響されている。繰り返し歌われる「Jai Guru Deva Om …」は、サンスクリット語 で「我らが導師、神に勝利あれ(神に感謝を)」の意で、マハリシ・マヘーシュ・ヨーギー の師にあたるグル・デヴ に感謝を捧げるマントラ である[ 4] 。
楽曲は、ヴァースのあとに「Jai Guru Deva Om …」というフレーズが後に、「Nothing's gonna change my world 」というフレーズを3回繰り返すという構成になっている。3つのヴァースでは、それぞれ「歓びの波」、「落ち着かない風」、「百万の太陽の輝き」について歌われている。
後にレノンは、「実際のところ、最高傑作かもしれない。呼び名はどうであれ、良い詩だよ。僕が好きなのは、メロディ抜きでも単体で成り立つ歌詞。メロディを必要としなかったら、詩みたいように読めるだろう」と語っている。
レコーディング
1968年2月のセッション
1968年2月にビートルズはEMIレコーディング・スタジオ に集まり、インド での瞑想修行中に発売するシングルに収録する予定の楽曲の録音を行っていた。ポール・マッカートニー は「レディ・マドンナ 」、レノンは「アクロス・ザ・ユニバース」を書き、いずれの楽曲も同じく「ヘイ・ブルドッグ 」[ 注釈 1] やジョージ・ハリスン 作の「ジ・インナー・ライト 」のボーカル・トラックと共に2月3日から11日の間に録音された。
「アクロス・ザ・ユニバース」は、2月4日にEMIレコーディング・スタジオのスタジオ2で開始された。この日のセッションでは6テイク録音され、テイク数のナンバリングを途中で誤り、テイク3から繰り上がってテイク4からテイク7とされた。ベーシック・トラックは、レノンがアコースティック・ギター 、ハリスンがタンブーラ (英語版 ) 、リンゴ・スター がトムトム という編成で録音された。
オーバー・ダビング用にテイク7が選ばれ、トラック2にハリスンによるタンブーラで演奏したドローン 、トラック3にレノンのダブルトラッキング したボーカル を録音。ここで女性のボーカルが必要だと判断したメンバーは、スタジオの外で待っていた2名のファン(リジー・ブラヴォーとゲイリーン・ビース)を招き、バッキング・ボーカル を担当させた。その後、レノンのボーカルとギター、スターのトムトムをトラック1、ハリスンのタンブーラとファン2名のバッキング・ボーカルをトラック2にピンポン録音 し、テイク8を作成。このテイク8にベース 、オルガン 、ドラム がオーバー・ダビング された。
しかし、レノンはアレンジに満足せず、テイク8にオーバー・ダビングしたベース、オルガンを消去。代わりにロータリースピーカー を通したエレクトリック・ギター とハーモニー・ボーカルを加えた。2月8日にモノラル・ミックスが1度制作された。
メンバーは、シングルとして発売する楽曲を「レディ・マドンナ」と「ジ・インナー・ライト」に決定し[ 注釈 2] 、本作と「ヘイ・ブルドッグ」はシングル曲候補から外された。その後、同年9月に映画『イエロー・サブマリン』で使用された「ヘイ・ブルドッグ」「オール・トゥゲザー・ナウ 」「オンリー・ア・ノーザン・ソング 」「イッツ・オール・トゥ・マッチ 」の4曲の新曲[ 注釈 3] とともにEP として発売する案[ 注釈 4] があり、1969年3月13日には改めてモノラル・ミックスが作成されたが、EP発売の話が立ち消えとなった。
アルバム『ノー・ワンズ・ゴナ・チェンジ・アワ・ワールド』収録バージョン
1968年2月の録音時にスパイク・ミリガン が、スタジオに立ち寄って本作を聴いた。そこでミリガンは、世界野生生物基金 (WWF)のチャリティ・アルバムの話をメンバーに持ちかけた。メンバーはこの提案に賛同し、1969年1月にチャリティ・アルバムのためのモノラル・ミックスを作成した。このモノラル・ミックスでは、チャリティ・アルバムの趣旨に合わせるために楽曲の冒頭とフェード・アウト 部分にSE (鳥の鳴き声)が加えられた[ 10] 。その後10月2日にステレオ・ミックスが、SEが入っていないミックスとSEが入っているミックスの2種類が作成された。2種類のうち後者は、テープの回転速度が上げられたことにより、オリジナルのDからE♭ とキーが高くなった。1969年12月にチャリティ・アルバム『ノー・ワンズ・ゴナ・チェンジ・アワ・ワールド (英語版 ) 』が発売され、初めて楽曲が発表される形となった。
なお、チャリティ・アルバムでは、SEが入ったミックスが収録され、のちに1979年にイギリスで発売された『レアリティーズ 』、1980年にアメリカで発売された『レアリティーズ Vol.2 』と同年に発売された『ビートルズ バラード・ベスト20 』、1988年に発売された『パスト・マスターズ 』にも収録された。なお、1969年1月に作成されたモノラル・ミックスは、2009年に発売された『ザ・ビートルズ MONO BOX 』に使用された『モノ・マスターズ 』で初収録された。
アルバム『レット・イット・ビー』収録版
1969年1月より行われたゲット・バック・セッション にて本作も採り上げられ、翌年に公開された映画『レット・イット・ビー 』にレノンが本作を演奏している映像が含まれている。しかし、トゥイッケナム映画撮影所 でのリハーサルで演奏されたのみで、のちにアップル・スタジオ で行われた作業では取り上げられなかった。このため、映画の内容に沿ったサウンドトラックを制作することを依頼されたグリン・ジョンズ は、1970年1月5日に1968年2月にレコーディングされた音源を使用してリミックスを施した。「デビュー当時のようにオーバー・ダビングを一切行わないアルバムを制作する」という方針[ 12] に沿うために、バッキング・ボーカルと鳥の鳴き声が消去された。しかし、このアルバムの出来にメンバーが納得しなかったことから、このアルバムは未発表となった。
その後、1970年3月下旬と4月上旬にフィル・スペクター の再プロデュースにより、テープの回転速度が下げられてオーケストラ とコーラスがオーバー・ダビングされ、曲のキーもDからD♭ に変更された。このアレンジは、1970年5月に発売されたアルバム『レット・イット・ビー 』に収録された。なお、ビートルズのアルバムに収録されたのは、このアレンジの方が先である。
他のバージョン
1996年に発売された『ザ・ビートルズ・アンソロジー2 』に、テイク2が収録された。この音源では、ギターとボーカル、スワラマンダラ (英語版 ) 、アコースティック・ギターとタンブーラという編成となっている。
2003年に発売された『レット・イット・ビー...ネイキッド 』では、オーケストラやコーラスのオーバー・ダビングが消去され、レノンのアコースティック・ギターとリード・ボーカルを主体としたシンプルなアレンジになっている。なお、チャリティ・アルバムや『レット・イット・ビー』に収録された音源とは異なり、キーは元の音源と同様のDとなっている。
2018年に発売された『ザ・ビートルズ (ホワイト・アルバム)〈スーパー・デラックス・エディション〉 』のCD 6の22曲目には、テイク6が収録された。この音源では、レノンのギターでの弾き語りとスターのトムトムのみの簡潔な構成となっている。
評価や文化的影響
音楽評論家のリッチー・アンターバーガー (英語版 ) は、本作について「ビートルズで最も繊細かつ広大無辺なバラードの1つ」「アルバム『レット・イット・ビー』のハイライトにあたる」と高く評価する一方で、音楽評論家のイアン・マクドナルド (英語版 ) は「あからさまに幼稚な呪文」と酷評している。
レノンは、前述のように本作の歌詞については肯定的に見ている一方で、本作の録音については不満を持っており、1980年の『プレイボーイ 』誌のインタビューで「録音がうまくいかなかった」「ギターも僕も調子が狂っている」と語り、さらに「ポールは無意識のうちに僕の名曲を台無しにする。みんなはポールの曲には一生懸命取り組むのに、どういうわけか僕の曲の時だけ実験的なことをしたり、だらけたりする」と語っている。
2008年2月4日米東部時間午後7時(日本時間5日午前9時)に、NASA が設立50周年を迎えることを記念して、北極星 へ向けて本作が発信された[ 16] [ 17] 。マッカートニーとレノンの未亡人であるオノ・ヨーコ は、この計画を賞賛した。なお、地球から北極星の距離は約431光年であることから、北極星に本作が到着するのは2439年ごろとされている[ 18] 。
クレジット
※特記がない限り、出典はイアン・マクドナルド (英語版 ) の著書
参加ミュージシャン
『ノー・ワンズ・ゴナ・チェンジ・アワ・ワールド』『パスト・マスターズ』収録テイク
『レット・イット・ビー』収録テイク
ジョン・レノン - リード・ボーカル、アコースティック・ギター、エレクトリック・ギター
ポール・マッカートニー - ピアノ
ジョージ・ハリスン - タンブーラ
リンゴ・スター - マラカス、バスドラム
フィル・スペクター - ストリングス 、合唱団
『ザ・ビートルズ・アンソロジー2』収録テイク
『レット・イット・ビー...ネイキッド』収録テイク
ジョン・レノン - リード・ボーカル、アコースティック・ギター、ロータリースピーカーを通したエレクトリック・ギター
ジョージ・ハリスン - タンブーラ
リンゴ・スター - バスドラム
『ザ・ビートルズ (ホワイト・アルバム)〈スーパー・デラックス・エディション〉』収録テイク
ジョン・レノン - リード・ボーカル、アコースティック・ギター
リンゴ・スター - トムトム
スタッフ
ジョージ・マーティン - 音楽プロデューサー (1968年録音時)
フィル・スペクター - 音楽プロデューサー(『レット・イット・ビー』収録テイク)
ケン・スコット 、マーティン・ベンジ - レコーディング・エンジニア (1968年録音時)
ジェフ・ジャラット - リミックス・エンジニア(『ノー・ワンズ・ゴナ・チェンジ・アワ・ワールド』『パスト・マスターズ』収録テイク)
ピーター・ブラウン、マイク・シェディー - レコーディング・エンジニア、リミックス・エンジニア(『レット・イット・ビー』収録テイク)
カバー・バージョン
デヴィッド・ボウイによるカバー
デヴィッド・ボウイ は、1975年に発売されたアルバム『ヤング・アメリカンズ 』で「アクロス・ザ・ユニバース」をカバーした。ボウイは、1975年1月にエレクトリック・レディ・スタジオ でレコーディングし、同日には「フェイム 」のレコーディングも行われた。ボウイのカバー・バージョンは、ブルー・アイド・ソウル 調にアレンジされていて、レノンがギターとバッキング・ボーカルで参加している。後にレノンは「自分たちで『アクロス・ザ・ユニバース』のいいアレンジを作ることができなかったから、本当にいいことだと思った。お気に入りの曲だけど、自分たちの演奏は好きじゃない」と語っていて、ボウイもビートルズの演奏については「とても湿っぽい」と語っている。
しかし、ボウイによるカバー・バージョンは、音楽評論家などからは否定的な評価を得ており、『ピッチフォーク・メディア 』のダグラス・ウォーク (英語版 ) は「アルバムで正真正銘のやっかい者の1つ。大げさな仕上がり」と評していて[ 24] 、作家のピーター・ドゲット (英語版 ) も同様に「大げさで、型にはまったアレンジ」「レノンを感動させる奇妙な術」と評している。ボウイの黄金期とされる時期で、否定的な評価を得たカバー・バージョンとなったが、伝記作家のニコラス・ペッグ (英語版 ) は「非常に素晴らしいカバー」と評している。
クレジット
※出典
ミュージシャン
スタッフ
その他のアーティストによるカバー
2005年の第47回グラミー賞 授賞式で、スマトラ島沖地震 の被害者支援として、スティービー・ワンダー 、ブライアン・ウィルソン 、ノラ・ジョーンズ 、ボノ (U2 )、スラッシュ 、スティーヴン・タイラー (エアロスミス )、ビリー・ジョー・アームストロング (グリーン・デイ )によってチャリティー・バンドが結成され、本作がライブ演奏された。なお、このカバー・バージョンでは、「Nothing's gonna change my world」というフレーズが「Something's gonna change my world」に変更されている[ 27] 。後にライブ音源がiTunes Store で配信され[ 27] 、2005年3月5日付のBillboard Hot 100 で最高位22位を記録した[ 28] 。なお、このカバー・バージョンによる配信売上は、国際連合児童基金 を経由して被害者支援のために寄付された[ 27] 。
2011年にビーディ・アイ が、同年4月3日にブリクストン・アカデミー で開催された日本支援ライブ『Japan Disaster Benefit』のエンディング・ナンバーとして本作を演奏。このイベントの前日にはRAKスタジオでレコーディングが行われており、このスタジオ音源は4月4日より期間限定で東日本大震災 復興支援チャリティーソングとして配信限定で発売された[ 29] 。ビーディ・アイによるカバー・バージョンは、全英シングルチャート で最高位88位を記録した[ 30] 。
このほか、シラ・ブラック (シングル盤)、フィオナ・アップル (『カラー・オブ・ハート 』)[ 31] らによってカバーされた。
日本では、宇多田ヒカル が2010年のライヴ『WILD LIFE 』でアンコール1曲目に披露、そのほかにもクラムボン や吉井和哉 がカバー。三井不動産レジデンシャル のCMソングとして多数のアーティストがカバーしている。
脚注
注釈
^ 同年に公開されたアニメ映画『イエロー・サブマリン 』で使用されたのち、1969年に発売された映画のサウンドトラック盤 に収録された。
^ 3月15日にシングル盤『レディ・マドンナ』(B面「ジ・インナー・ライト」)として発売された。
^ いずれも1969年1月に発売されたアルバム『イエロー・サブマリン』に収録。
^ A面に「オンリー・ア・ノーザン・ソング」と「ヘイ・ブルドッグ」、そして「アクロス・ザ・ユニバース」、B面に「オール・トゥゲザー・ナウ」と「イッツ・オール・トゥ・マッチ」が収録される予定だった。
^ 『ザ・ビートルズ (ホワイト・アルバム) (スーパー・デラックス・エディション)』に付属のブックレットに記載のクレジットでは、マッカートニーの担当はベース のみとなっている。
出典
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^ Woo, Elaine (2014年9月16日). “Maharishi Mahesh Yogi; founded Transcendental Meditation movement” . Los Angeles Times . https://www.latimes.com/news/la-me-maharishi6feb06-story.html 2020年7月27日 閲覧。
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^ Karimi, Faith. “Will.i.am premieres song – from Mars ”. CNN. 2019年1月5日 閲覧。
^ “NASA、ビートルズの名曲を宇宙に向けて発射 ”. MarkeZine . 翔泳社 (2008年2月4日). 2020年7月27日 閲覧。
^ “米航空宇宙局(NASA)がTHE BEATLESの代表曲“Across The Universe”を宇宙に向けて発信することを発表 ”. TOWER RECORDS ONLINE . タワーレコード (2008年2月1日). 2020年7月27日 閲覧。
^ Wolk, Douglas (2016年1月22日). “David Bowie: Young Americans Album Review ”. Pitchfork . 2020年10月13日 閲覧。
^ a b c “グラミー賞の津波支援ライブ「Across the Universe」がiTunesで販売開始 ”. ITmedia NEWS . アイティメディア (2005年2月14日). 2020年10月13日 閲覧。
^ “The Hot 100 Chart ”. Billboard (2005年3月5日). 2020年10月13日 閲覧。
^ “ビーディ・アイ、「アクロス・ザ・ユニバース」を日本支援のためにDLリリースへ ”. rockin'on.com . ロッキング・オン (2011年4月5日). 2020年10月13日 閲覧。
^ “Official Singles Chart Top 100 ”. Official Charts Company (2011年4月10日). 2020年10月13日 閲覧。
^ Gallucci, Michael. Pleasantville [Original Soundtrack] - Original Soundtrack | Songs, Reviews, Credits - オールミュージック . 2020年10月13日 閲覧。
参考文献
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ハウレット, ケヴィン (2018). ザ・ビートルズ (ホワイト・アルバム) (スーパー・デラックス・エディション) (ブックレット). ビートルズ . アップル・レコード .
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MacDonald, Ian (2005). Revolution in the Head: The Beatles' Records and the Sixties (Second Revised ed.). London: Pimlico (Rand). ISBN 1-84413-828-3
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外部リンク