アイルランド王立外科医学院 (アイルランドおうりつげかいがくいん、英語 : Royal College of Surgeons in Ireland 、公用語表記: Coláiste Ríoga na Máinleá in Éirinn )は、ダブリン2区 セント・スティーブンス・グリーン公園に本部を置くアイルランド の私立大学 。1446年 創立、1784年 大学設置。大学の略称 は、RCSI 。
本項は以下、アイルランド王立外科医学院を「RCSI 」と記す。
概要
大学全体
RCSIの旗
RCSIは、アイルランド島全体で外科の診療科 を担当する専門職協会と教育機関で、2020年現在アイルランド で唯一の私立大学 である[ 1] 。私立大学だが学費は概算で国立大学 と同等である[ 2] 。アイルランド国立大学 の「認可カレッジ (Recognised College )」である[ 3] 。イギリスとアイルランドが相互に認めた4箇所の王立外科医学院で、60か国から3,000人以上の学生が在籍するアイルランド最大の医学部 がある。2019年 に大学として認可され、アイルランド初の私立大学 となった。RCSIの本キャンパスはダブリン のセント・スティーブンス・グリーン公園にあり、1784年 に王室の勅許を受けている。
名称
歴史的経緯を踏まえ、イングランド王立外科医師会 を考慮すると「アイルランド王立外科医師会付属外科学院」となる。
アイルランドはかつて大英帝国 の一部であった歴史から、RCSIなどは現在も「王立」と称する。RCSIは私立大学 だが、アイルランド国立大学 (NUI) から「NUI基準を満たしているRTCs」の一つと認定された「認可カレッジ (Recognised College )」で、「国立」の名称が誤用されることがある。認可カレッジの学位は、NUIから発行される[ 3] 。現在は欧州連合外のマレーシア や北米 の学生が多く在籍しておよそ75パーセント (%) を占め、60か国以上から留学している。
モットー
RCSIのモットーである 「Consilio Manuque (奨学金と器用さ)」は、フランス の外科医大学への敬意から採用されたものである[ 4] [ 5] 。フランスの王立外科医学院の前身であるサン・コートとサン・ダミアンの兄弟団にて使用されていた。
大学評価
大学評価の世界的指標の一つである、クアクアレリ・シモンズによる「QS世界大学ランキング 2021」(2020年)の医学ランキングで世界第201から250位台である[ 6] 。
タイムズ・ハイアー・エデュケーション 『THE世界大学ランキング 2020』(2019年)で世界第201から250位台で、ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン (アイルランド国立大学ダブリン校)と並び国内第2位である。同年のインパクトランキング「良好な健康と幸福」カテゴリーで世界第1位である[ 7] 。
入学試験
中央出願局 (CAO) は、RCSIに代わり、アイルランド 、イギリス 、欧州連合 および欧州自由貿易連合 の学部課程の出願を担当している。学部課程への入学の決定は、CAOに合格受験者に通知を出すよう指示するRCSIによって行われている。大学への入学は専ら学力に基づいている。大学には最低限の入学要件があり、英語またはアイルランド語の合格最低点と数学の合格最低点が必要である。数学の高レベル試験で40%を超えると総合点数に25点加算される[ 8] 。医学部では卒業試験のほか、保健師入学試験 (HPAT) を受ける必要がある[ 9] 。
個々の学部はさらに入学要件があり、一定の総合点数(625満点中)を超える必要がある。例えば、2019年の薬学部は、合格最低総合点数は555点である[ 10] 。アイルランドのリービング・サーティフィケートのみならず、イギリス の一般教育修了上級レベル 、フランス のバカロレア などの欧州連合 の試験や国際バカロレア などでも出願はできる[ 11] 。欧州連合の国民または居住者ではない出願者には、異なる出願手順が適用される。
大学院への入学は、RCSIが直接担当する。
日本を含む欧州外の入学基準
国際バカロレア 、一般教育修了上級レベル などの受験者で最低入学条件を満たすならば、直接入学できる。ただし、入学を保証するものではなく、優れた試験結果を保有している受験者を順に定員を埋める。上記以外であればパスウェイプログラム(進学準備コース)も用意されている[ 12] 。
沿革
ギルド
中世 以来、外科手術は理容師 - 外科医のギルド (当時は聖マグダラのマリア のギルドとしても知られていた)によって許可されていた。ギルドの礼拝堂は、キリスト教会大聖堂にあった。3年間の徒弟 と2年間の修士によって得られていた。実際は、外科医学院は1828年 まで資格を持った外科医への見習いの義務期間を維持した。
1446年 には、ヘンリー6世 の勅令により聖メアリー・マグデレーヌのギルドが法人化され、イギリス やアイルランド で最初の医療法人となった[ 13] 。
外科医学院へ向けて
ダブリンの外科医学校(1837年)[ 14]
1765年 にリムリック 出身の外科医シルベスター・オハロランは、1255年 にルイ9世 の王室憲章によって創設された外科医の養成と規制を目的として、フランス の外科医を規制していたパリ の聖コスメカレッジに倣い、外科医学院を設立することを提案した[ 15] 。ダブリン外科医協会は、1780年 にエセックス通り(現在のパーラメント通り)のエレファント・パブリック・ハウスで設立された。ダブリン大学トリニティ・カレッジ では1847年まで外科を教えていなかったため、アイルランドには外科に特化した学校が全くなかった[ 16] 。
標準化された外科教育を提供することに重点を置いた独立した組織を持つことが、この協会の目標の一つとなり、王立憲章を求め、1781年 に理容師 と別に法人化されるようにと嘆願書をアイルランド総督 へ提出した。待ちに待った憲章は、1784年 2月11日 にジョージ3世 によって承認された。初代学長のサミュエル・クロッカー・キングと初代外科教授のウィリアム・ディーズを含む統治体は、3月2日にロタンダ病院の役員室で初めて会合を開いた。当時から入学や雇用が宗派的な理由で差別されていなかった。創設者であるシルベスター・オハロランとウィリアム・ディースの2人と、最初の57人の学長のうち11人はカトリック教徒 だった。1856年 からカトリック大学が授与している医学資格も認めており、それが卒業証書に正当性を与えていた。最初の受験は、1784年 8月だった[ 5] 。
ヨーク通り
ヨーク通りの角にある現在の場所は、1805年 9月に買収され、1809年 にグラバーズ横丁の土地が追加で購入された。以前はクエーカー の埋葬地として使われていた。1810年 3月に完成した[ 5] 。
1844年 にヴィクトリア女王 によって補足的な憲章が与えられ、医学生は開業資格者とフェロー に分けられた。当初、医師は外科医と並んで訓練を受けた。1886年 に統合され、医学部が設置された。この歴史の結果、医学部の卒業生は、現在でも2つの王立学院から開業資格を授与されているほか、アイルランド国立大学 から医学学士 、産科学 士の学位を授与されている[ 5] 。
20世紀
1916年 のイースター蜂起 の間、セント・スティーブンス・グリーン公園の本キャンパスは、マイケル・マリンとコンスタンツ・マルキエビッチ に率いられたアイルランド市民軍に占領された。降伏した後、二人は裁判にかけられ、死刑 を宣告された。マリンは処刑されたが、マルキエビッチは女性で減刑 された。
RCSIは4年間の大学院入学を提供する最初の医学校 だった。現在は廃止されている科目は次の通り:論理学(1852年 - 1862年)、軍事外科(1851年 - 1860年)、植物学(1792年 - 1889年)、衛生学または政治医学(1841年 - 1921年、その後、医療法学と統合)。
1980年代 以降ダブリン のボーモント病院は、医療訓練を本大学病院としている。ほかの付属病院にコノリー病院、王立ビクトリア眼科耳鼻咽喉科病院[ 17] 、セント・ジョセフ病院などの大学病院があり、現在は保健サービス委員会 (HSE) の病院管理機構にRCSI病院グループがある[ 18] 。
21世紀
2007年 にRCSIは、ヘルスケアにおける個人の生活の質の測定について、日本 で3回講演会を行った。東京大学 、京都大学 、新潟大学 で開催され、それぞれ主要な学術・医療機関から80名の参加者が集まった。日本国政府 の資金援助を受けて、国立病院機構新潟病院 の院長 および神経内科 の中島孝が企画したものである[ 19] [ 20] 。
2010年 にアイリス・マクガバンがRCSIの学長になり、王立医学院で世界初の女性学長となった[ 21] [ 22] 。
2017年 にRCSIは、本キャンパスにハイテク施設を開館した。ヨーロッパ で最も先進的な臨床医療シミュレーションセンターとされている[ 23] 。2018年 のアイルランド建築賞 (RIAI) でアイルランドの最も評価されている建物に選ばれた[ 24] 。
2019年 の資格・質保証(教育)(修正)法により、RCSIはアイルランド初の私立大学 として認可された[ 1] 。これにより、アイルランドで私立大学の設立が可能になった[ 25] 。
キャンパス
RCSIはダブリン市内にキャンパスを設けており、123セント・スティーブンス・グリーンキャンパスと26ヨーク通りキャンパス2つがある[ 26] 。
RCSIの本キャンパスは123セント・スティーブンス・グリーンである。1810年から本部を置くようになり、1970年代には拡張工事がなされた[ 27] 。
26ヨーク通りの10階建てのキャンパスは2017年 に開校し、2018年 のアイルランド建築賞(RIAI)でアイルランドの最も評価されている建物に選ばれた[ 24] 。このキャンパスは、「人生を変える次世代の医療関係者を育成することで、医療教育を変革すること」を目的としている。12,000平方フィート の学際的な国立外科・臨床技術センターがあり、アメリカ合衆国 外で初めてのセンターである[ 28] 。このセンターは、実際の病院を模して設計されており、様々な手術室がある。これらには、臨床技能実習室が2室、病室が8室、臨床外来10室ある[ 28] 。地下室にスポーツジムがある。図書館 もこのキャンパスにある[ 29] 。
大学構成
学部
以下は、RCSIの学部である[ 30] 。
研究科
以下は、RCSIの研究科である[ 30] 。
医学研究科
看護助産研究科
歯学研究科
スポーツ・運動医学研究科
放射線研究科
附属機関
ボーモント病院のRCSI疾患研究センター
以下は、RCSIの附属病院である[ 18] 。
ボーモント病院(本大学病院)
キャバン&モナガン病院
コノリー病院
ラウス県病院
ドロヘダ聖母ルルド病院
ロタンダ病院
王立ビクトリア眼科耳鼻咽喉科病院[ 17]
教育および研究
教育
医学部は、高等学校を卒業した学生用の医学部と他の学位を修了(例えば他大学の文学部卒業など)した学生用の医学部が用意されている。後者は、アイルランドで初めて導入した大学である[ 31] 。
研究
生体材料 と再生医学 、悪性腫瘍 、神経 ・精神 疾患、人口保健・保健サービス、外科学と実践、血管 生物学、化学 ・薬学 、看護 ・助産 、免疫 ・感染 ・炎症 、医療従事者教育、婦人科 ・産科 ・周産期 医療、呼吸器学 、内分泌 学の分野で研究している[ 32] 。
学生生活
サークル
2020年7月現在、RCSIには41のサークルが運営されている。眼科サークルや整形外科サークルなど医学関係のサークルがあるのが特徴である[ 33] 。
スポーツクラブ
2020年7月現在、RCSIには35のスポーツクラブが運営されている。中には、空手道 、柔道 などの日本発祥の武道もある[ 34] 。伝統的に医学はラグビー と関係があり、2000年までのアイルランドの国際的な選手980人のうち、201人が医師だった[ 35] 。
学生組合
学生組合は毎年選出される団体で、8人の役員から構成されている。学部と学生の間の大学の橋渡し役であり、ほとんどの会議に招待され、様々な問題について学生の声を聞くことができるようにしている。RCSIのすべてのクラスからの代表者で構成される学生評議会と密接に連携している[ 36] 。
対外関係
RCSI - UCDマレーシアキャンパス
RCSIは国際的にも有数の医療機関として、世界中の教育の医学関連分野で活躍している。例えば、南アフリカ のアパルトヘイト の間、RCSIは差別された人々に医学教育を提供した。2005年 にRCSIドバイ が設立され、現在はヘルスケア・マネジメントの修士課程を提供している。
2007年 にバレンティア・テクノロジー、ダブリン消防隊、病院前救急医療協議会と共同で、ドバイの救急医療サービス内での患者ケアの向上と応答時間の改善を目的とした、救急医療サービス・ドバイ研修所との研修を開始した[ 37] 。
マレーシア では、ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン (アイルランド国立大学ダブリン校、UCD)と共同で、ペナン州 の州都ジョージタウン にキャンパスを所有している。1996年に設立されたRCSI - UCDマレーシアキャンパス (RUMC) は、以前はペナン医科大学として知られており、RUMCで修了する前に、RCSIまたはUCDのいずれかで前半を過ごすプログラムを提供している[ 38] 。セランゴール州 のペルダナ大学RCSI (PU-RCSI) は、2011年 に設立された[ 39] 。
アイルランド王立外科医学院バーレーン医科大学は、RCSIの完全所有の構成大学である。2004年 10月に医学研究を開始した[ 40] 。2009年 以降、アイルランド国立大学 からも学位を授与されるようになった。
薬学部や理学療法学部では、中華人民共和国 、アメリカ合衆国 のほか日本 の大学でも交換留学を実地している[ 41] [ 42] 。
主な出身者
参考文献
出典
関連項目
公式サイト