ひまし油
ひまし油 (ひましあぶら、ひましゆ、蓖麻子油、英語 : Castor oil )は、トウダイグサ科 のトウゴマ の種子 から採取する植物油 の一種。
用途
工業原料
戦時中のポスター(1940年 –1945年 )
成分は不飽和脂肪酸 (リシノール酸 が87%、オレイン酸 が7%、リノール酸 が3%)と少量の飽和脂肪酸 (パルミチン酸 、ステアリン酸 などが3%)のグリセリド 。ひまし油は、脂肪油 としては粘度 、比重 ともに最大であるのに加えて、広い温度域で高い流動性をもつため、各種工業用の原料として広い用途がある。高粘度であり油性が高いため潤滑性は大変優秀であるが、酸化 されやすく熱安定性が劣るため一般用途では不向きである。なお植物油としては極めて高粘度ではあるが粘度指数 はさほど高くはなく、一般的な植物油[注釈 1] より大きく劣り、現代の潤滑用の一般鉱油よりも若干劣るレベルである。
その優れた性状と潤滑性から古くは機械油一般に用いられ、初期の航空機 用エンジン の潤滑油 としても使用される事が多かったが、航空機ではエンジンの高出力化と熱と酸化 への安定性の不足から第二次世界大戦 の頃には航空機用潤滑油はペンシルバニア・エンジンオイルに代表される鉱油 系が主力となった。上記の理由以外に植物由来であるため製造時期や生産地による品質のばらつき、鉱油に比べて高価といった事も全体的な鉱油への移行の要因となった。現代では短時間でそのつど交換するレース用エンジンオイルや、混合給油のグローエンジン などで使用される。
ひまし油およびその加工品は、石鹸 (せっけん)、 廃天ぷら油処理剤(凝固剤)、潤滑油 、作動油 、塗料 、インキ 、ワックス 、耐低温樹脂、ナイロン 、医薬品 、香水 、髪油(ポマード ・びん付け油 )などの原料として用いられる。また、セバシン酸 の原料としても重要である。有毒 なリシン もひまし油生産時の副産物 として作られる。
エンジンオイル の大手メーカーであるカストロール の社名は、鉱物油にひまし油をブレンドしたオイルを作った事からひまし油の英語名である Castor Oil に由来する。1970年代まで販売していた『カストロールR30』の主成分はひまし油で、短時間でエンジンオイルを交換するレース用エンジンや、航空機用エンジンで広く用いられていた。
医薬品
Scott & Bowne companyによる医薬品としてのヒマシ油の広告(19世紀)
病気の子供にヒマシ油を飲ませる(1894年フランス)
用途の中で、1%程度を占めるに過ぎないが、小腸刺激性瀉下薬 として用いられ、日本薬局方 にも収載されている[3] 。医師によってはリチネ と略記する。また、ケニア のキクユ族 は「maguta ma mbariki 」[5] あるいは単に「mbarĩki 」[6] と呼び、皮膚 の保護や軽い傷の手当をする際などに用いる。
ひまし油が下剤として示す作用機序として、小腸でリパーゼ により加水分解 されてリシノール酸 とグリセリン となり、生成されたリシノール酸 が小腸を刺激して蠕動運動を促進させる。また、小腸内で生成されたグリセリンの潤滑作用により水様の便を排泄させる。
四体液説 がベースにあり、傷みやすい肉を常食していたヨーロッパ・アメリカの伝統医療で下剤としてよく使われた。ヒマシ油の服用は、千年近く正式な医療行為の一環だった。とくにアメリカ北部では現在も万能薬のように扱われている[8] 。
その他
命名の由来
カストロール (Castrol)社の名称は、ひまし油の英語名(castor oil)に由来する[9] 。
朱肉 や印泥 のバインダーとして用いられる。
アニメ『ポパイ 』の主人公の恋人オリーブ・オイルの兄はキャスター・オイル(Castor Oyl )(英語版) という名であるが、同様にひまし油の英語名をもじっている。
いたずらの罰
アメリカでは昔、いたずらの罰として子供に飲ませることがあり、『トム・ソーヤの冒険 』『若草物語 』などの児童文学にそういった描写がある[8] 。
アニメ『トムとジェリー 』の挿話『赤ちゃんはいいな 』では、トムが飼い主の娘の赤ちゃんごっこに付き合わされた際に、トムは娘におとなしくしていなかった罰としてラストでひまし油をスプーンで無理矢理飲まされるというエピソードがある。その直後にトムは窓の外にひまし油を吐き、その様子を笑って見ていたジェリーも瓶から零れたひまし油を誤って飲んでしまいトムと同様に吐いている。
スティーヴン・キング 原作の映画『スタンド・バイ・ミー 』の劇中で語られるエピソードで、ベリーパイの早食い大会を滅茶苦茶にしようと企む少年が、事前にひまし油を服用し盛大に嘔吐 し、他の選手もそれにつられて嘔吐し始め、みごと大会を混乱の渦に叩き込んだ、というものがある。
緩下作用
外用
ギリシャ では、ひまし油は体に塗る油として用いられていた。
心霊治療家のエドガー・ケイシー は、ひまし油をフランネル に浸し、ヒーターを添えて体に当てて湿布 する方法を提唱している。
『医心方 』巻の四[注釈 2] には「髪に艶を出す方法」として、大麻子(トウゴマ)から取った汁、つまりひまし油を髪油として使うことが記載されている。
画像一覧
ひまし油の化学式
トウゴマ Ricinus communis
トウゴマの果実
トウゴマの種子
関連文献
脚注
注釈
出典
参考文献
関連項目
外部リンク