R が単位元をもつ任意の環であれば、右 R 加群としての の自己準同型環は列有限行列 (column finite matrices) の環 と同型である。その成分は で添え字づけられており、その各列は 0 でない成分を有限個しか含まない。M の左 R 加群としての自己準同型を考えると類似の対象、各行が 0 でない成分を有限個しか含まない行有限行列 (row finite matrices) を得る。
R がノルム環であれば、直前の例の行あるいは列の条件は弱めることができる。そのノルムによる絶対収束列を有限和の代わりに使うことができる。例えば、列の和が絶対収束列である行列は環をなす。もちろんアナロガスに、行の和が絶対収束列である行列も環をなす。このアイデアは例えばヒルベルト空間#ヒルベルト空間上の線型作用素の作用素を表現するために使うことができる。
Mn(R) の両側イデアルと R の両側イデアルの間には一対一の対応がある。すなわち、R の各イデアル I に対して、成分を I にもつすべての n×n 行列の集合は Mn(R) のイデアルであり、Mn(R) の各イデアルはこのように生じる。これが意味するのは、Mn(R) が単純環であることと R が単純環であることは同値である。n ≥ 2 に対して、Mn(R) のすべての左あるいは右イデアルが前の構成によって R の左または右イデアルから生じるわけではない。例えば、2列目から n 列目まですべて 0 の行列の集合は Mn(R) の左イデアルをなす。
上のイデアルの対応は実は環 R と Mn(R) は森田同値であるという事実から生じる。雑に言えば、これが意味するのは、左 R 加群の圏と左 Mn(R) 加群の圏は非常に似ている。このために、左 R-加群と左 Mn(R)-加群の 同型類 の間と、R の左イデアルと Mn(R) の同型類の間には、自然な全単射の対応が存在する。同様のステートメントは右加群と右イデアルに対しても成り立つ。森田同値を通して、Mn(R) は森田不変な R のどんな性質も引き継ぐ。例えば、単純、アルティン、ネーター、素、そして森田同値の記事において与えられているように多数の他の性質。
性質
行列環 Mn(R) が可換であることと n = 1 かつ R が可換であることは同値である。実は、これは上三角行列の部分環に対しても正しい。交換しない 2×2 行列(実は上三角行列)の例を挙げよう。
この例は容易に n×n 行列に一般化される。
n ≥ 2 に対して、行列環 Mn(R) は零因子と冪零元をもち、再び、同じことは上三角行列に対しても言える。2×2 行列における例は
線型代数学において、体 F 上 Mn(F) は任意の2つの行列 A と B に対して AB = 1 ならば BA = 1 という性質(デデキント有限性)をもつことに言及される。しかしこれは任意の環 R に対しては正しくない。行列環がすべてその性質をもつような環 R は stably finite ring と呼ばれる(Lam 1999, p. 5)。
対角部分環
D を行列環 Mn(R ) の対角行列全体の集合、すなわち 0 でない成分があればすべて主対角線上にあるような行列全体の集合とする。すると D は行列の加法と行列の乗法で閉じており、単位行列を含むので、それは Mn(R ) の部分多元環である。