デイヴィッド・エリーザー・ドイッチュ (David Elieser Deutsch FRS [ 4] ( DOYTCH 、1953年 5月18日 - )[ 1] は、イギリス の物理学者 である。オックスフォード大学 クラレンドン研究所 (英語版 ) 量子計算センター (英語版 ) (CQC)原子・レーザー物理学科の客員教授である。
量子計算 理論の先駆者であり、量子チューリングマシン (英語版 ) の記述の定式化や、量子コンピュータ で実行できるように設計されたアルゴリズムの規定を行った[ 5] 。また、量子鍵配送 にもつれ状態 とベルの不等式 を用いることを提唱しており[ 5] 、量子力学 における多世界解釈 を支持している[ 6] 。
若年期と教育
ドイッチュは1953年 5月18日 にイスラエル のハイファ で、ユダヤ人 の家庭に生まれた。1956年に一家でロンドン ・クリックルウッド (英語版 ) へ移り、ジュネーヴ・ハウス・スクール、ハイゲート のウィリアム・エリス・スクール (英語版 ) を経て、1971年にケンブリッジ大学 クレア・カレッジ に入学し、1975年に学士号(BA)を取得した[ 7] 。
その後、オックスフォード大学 ウルフソン・カレッジ (英語版 ) に移り、デニス・シアマ [ 2] とフィリップ・キャンデラス (英語版 ) [ 3] [ 8] の指導の下で理論物理学の博士号(DPhil)を取得した[ 3] 。博士論文のテーマは、曲がった時空間 における場の量子論 についてだった[ 1] [ 9] 。
キャリア
ドイッチュの量子アルゴリズム (英語版 ) の研究は1985年の論文から始まり、1992年にはリチャード・ジョザ (英語版 ) とともに、決定論的な古典アルゴリズムよりも指数関数的に高速な量子アルゴリズムの一例であるドイッチュ・ジョサのアルゴリズム を生み出した[ 5] 。1985年の論文では、量子鍵配送 にもつれ状態 とベルの不等式 を用いることを提唱している[ 5] 。
2012年からは[ 10] 、量子計算理論を一般化し、計算だけでなく全ての物理過程をカバーする試みであるコンストラクター理論 (英語版 ) (constructor theory)に取り組んでいる[ 11] [ 12] 。2014年12月にキアラ・マーレット (英語版 ) ととも発表した『情報のコンストラクター理論』(Constructor theory of information )という論文の中で、情報は、物理系のどの変換が適用可能で、どの変換が適用不可能かという点でのみ表現できると推測している[ 13] [ 14] 。
The Fabric of Reality
1997年の著書"The Fabric of Reality "(日本語訳題『世界の究極理論は存在するか』)の中で、ドイッチュは独自の万物の理論 について詳述している。この理論の目的は、全てを素粒子物理学 に還元することではなく、多元的 、計算論的、認識論的、進化論的な原理間の相互支持にある。ドイッチュの万物の理論は、還元主義 的というよりは、やや(弱い)創発 主義的である。この理論は、以下の4つの柱からなる。
ヒュー・エヴェレット による量子力学 の多世界解釈 。4つの柱の中で最も基本的で重要なもの。
カール・ポパー の認識論 。特に反帰納主義 、科学理論の実在主義 的(非計量的)解釈の要求、反証に抵抗する大胆な推測を真剣に受け止めることを強調していること。
アラン・チューリング の計算理論。万能チューリングマシン (英語版 ) を量子チューリングマシン (英語版 ) で置き換えたチャーチ=チューリング=ドイッチュ原理 (英語版 ) として。
リチャード・ドーキンス によるダーウィニズム とネオダーウィニズム の統合。複製者とミームという考え方をポパーの問題解決論と統合した。
不変量
2009年のTED においてドイッチュは、科学的説明の基準は、不変量 を定式化することであると述べた。
(明らかな変化、新しい情報、予期せぬ状況に直面しても)不変である理由の説明を(公に、後で他の人が日付を入れて検証できるように)明言せよ[ 15] 。
悪い説明は変化しやすい[ 15] : minute 11:22 。
変化しにくい説明への追求は、全ての進歩の源である[ 15] : minute 15:05 。
真実は、実在性に関する変化しにくい主張からなる ということは、物理学の世界に関する最も重要な事実である[ 15] : minute 16:15 。
実在性に関する科学的説明の基本的側面としての不変性は、長らく科学哲学 の一部であった。例えば、フリーデル・ワイナートの2004年の著書『哲学者としての科学者』では、1900年頃からの多くの著作物にこのテーマが含まれていることが指摘されている[ 16] 。
The Beginning of Infinity
ドイッチュの2冊目の著書"The Beginning of Infinity: Explanations that Transform the World "(日本語訳題『無限の始まり』)は2011年3月31日に出版された。この本の中でドイッチュは、17世紀から18世紀にかけてのヨーロッパの啓蒙思想 を、意図した知識の創造という、無限に続く可能性のある一連の流れの始まりに近いものとして見ている。ドイッチュは、知識の本質やミーム 、そして人類の中で創造性 がどのように・なぜ進化していったのかについて考察している。
賞と栄誉
ポール・ディラック に因んだ賞を2回受賞しているが、ドイッチュは、博士課程指導教官であったデニス・シアマ を通してディラックとつながりがある。
"The Fabric of Reality "は1998年にローヌ・プーラン科学図書賞 (英語版 ) の最終選考に残った[ 23] 。
私生活
ドイッチュは子供に対する新たな教育の方法も研究しており、Taking Children Seriously の創設メンバーである[ 24] 。ドイッチュはブレクジット を支持しており、その発言は、当時の政府顧問ドミニク・カミングス によって頻繁に引用された[ 25] 。
著作物
単著
"The Fabric of Reality: The Science of Parallel Universes and Its Implications " Penguin (1998) David Deutsch, ISBN 0-14-014690-3
"The Beginning of Infinity" David Deutsch, Penguin Books (2011) ISBN 0140278168
(日本語訳)『無限の始まり―ひとはなぜ限りない可能性をもつのか』熊谷玲実,田沢恭子,松井信彦(訳) 株式会社 インターシフト 2013 ISBN 4772695370
インタビュー
P.C.W.デイヴィス,J.R.ブラウン(編),出口修至(訳)『量子と混沌』地人書館 1987年
ジム・ホルト(著)『世界はなぜ「ある」のか?: 実存をめぐる科学・哲学的探索』寺町朋子(訳)早川書房 2013年
共著
ジョン・ブロックマン (著, 編集),日暮雅通(訳)『ディープ・シンキング ―知のトップランナー25人が語るAIと人類の未来―』青土社 2020年
脚注
^ a b c "Deutsch, Prof. David Elieser" . Who's Who (英語). Vol. 2014 (April 2014 online ed.). A & C Black. 2014年7月26日閲覧 。 (要購読、またはイギリス公立図書館への会員加入 )
^ a b c デイヴィッド・ドイッチュ - Mathematics Genealogy Project
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^ デイヴィッド・ドイッチュの出版物 - エルゼビア が提供するScopus 文献データベースによる索引 ( 要購読契約)
^ David Deutsch - About David
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関連項目
外部リンク