アムステルダムにあるチェット・ベイカーのモニュメント
チェット・ベイカー (Chet Baker 、本名:Chesney Henry Baker Jr. 、1929年 12月23日 - 1988年 5月13日 )は、アメリカ合衆国のジャズ ミュージシャン 。米ウエストコースト・ジャズ ・シーンの代表的トランペット奏者 であり、ヴォーカリスト でもあった。
来歴・人物
オクラホマ州 イェール 生まれ。
1946年末、17歳でアメリカ軍に入隊。1947年初頭にドイツへ出発、赴任地はベルリンであった。夏にAFRS(Armed Forces Radio Service: 軍隊放送)でスタン・ケントン やディジー・ガレスピー をはじめとするビバップを聴き、魅了されると同時に動揺する。
1948年、急性盲腸炎で手術を受け初めての軍隊生活を終える。カリフォルニア州ハモサビーチに家を構えていた両親のもとへ戻った。レドンド・ユニオン・ハイスクールに入学。1948年、エル・カミノ短期大学に入学。授業料無料の2年制の短大で、学生は退役兵士ばかりだった。
1949年、マイルス・デイヴィス 『クールの誕生』を聴き、マイルスの音楽スタイルに共感をおぼえた。同年、両親の支配から逃れたいという思いが強くなっていたチェットは実家を出て、友人のボブ・ホワイトロックとともにレドンド・ビーチの豪邸のゲストハウスを借りて住むようになった。チェットは麻薬そのものや麻薬をやっている人間に強烈な魅力を感じるようになっており、間もなく友人のボブ・ニールとともに自らマリファナを売る側に回った。
1950年末、マリファナの不法所持で逮捕されたチェットは、判事に軍隊に再入隊するか牢獄に入るかのどちらかを選択するように迫られ、結局軍隊に舞い戻ることを選んだ。軍隊に戻ったチェットはサンフランシスコの基地プレシディオに配属された。
トランペット の実力はチャーリー・パーカー にも認められ、1952年 から1953年 にかけて彼のバンドでも活躍した。その時の演奏は「The Bird You Never Heard (Stash)」で聴くことが出来る。また、その中性的なヴォーカル も人気があり、1954年 にレコーディングされた『チェット・ベイカー・シングス 』に収録の「マイ・ファニー・ヴァレンタイン 」はチェットの代表曲の1つであり、同楽曲の代表的カヴァーの1つでもある。このチェットの歌い方にジョアン・ジルベルト が影響され、ボサノヴァ 誕生の一因となったと言われている。
1950年代 半ばにおいては時代の寵児とも目され、マイルス・デイヴィス とともに人気を誇った。マイルスは、チェットが白人 だというだけで大衆的人気を獲得している状況を快く思っていなかったが、チェットの演奏や人間性はマイルスも高く評価しており、仲も良かったという。1950年代後半から1960年代 にかけてチェットはヘロイン に耽溺し、ドラッグ絡みのトラブルを頻繁に起こした。米国 や公演先のイタリア など複数の国で逮捕され、短期間であるが服役もしている。1970年 にはドラッグが原因の喧嘩で前歯を折られ、演奏活動の休業を余儀なくされた。この間には生活保護 を受け、ガソリンスタンド で働いていたという。 1973年 にはディジー・ガレスピー の尽力により復活を果たし、1975年 頃より活動拠点を主にヨーロッパに移した。
1986年 3月に初来日、翌1987年 にも再来日した。また、1987年から1988年 にかけて、ファッション・フォトグラファーのブルース・ウェーバー が監督したチェットの自伝的ドキュメント映画「Let's Get Lost」が撮影された。
1988年 5月13日 、オランダ 、アムステルダム のホテルの窓から転落死、原因は定かではない。
ドキュメンタリー映画「Let's Get Lost」は彼の死後まもなく封切られ、アカデミー賞 ドキュメンタリー部門にノミネートされた。
ディスコグラフィ
リーダー作品(一部)
Witch Doctor (1953年)
チェット・ベイカー・シングス - Chet Baker Sings (1954年, 1956年)
Selection From Chet Baker In Paris (1955年 & 1956年)
Chet Baker & Strings (1955年)
チェット・ベイカー・シングス・アンド・プレイズ - Chet Baker Sings and Plays (1955年)
Picture Of Heath (1956年)
Quartet/Russ Freeman-Chet Baker (1956年)
Chet Baker & Crew (1956年)
Embraceable You (1957年)
チェット・ベイカー・イントロデューシス・ジョニー・ペイス - Chet Baker Introduces Johnny Pace (1958年)
Chet Baker Sings It Could Happen to You (1958年)
イン・ニューヨーク - Chet Baker in New York (1958年)
チェット - Chet (1959年)
チェット・ベイカー・プレイズ・ラーナー&ロウ - Chet Baker Plays the Best of Lerner and Loewe (1959年)
チェット・ベイカー・イン・ミラノ - Chet Baker in Milan (1959年)
Chet Baker with Fifty Italian Strings (1959年)
チェット・イズ・バック - Chet Is Back! (1962年)
ザ・モスト・インポータント・ジャズ・アルバム・オブ1964-65 - The Most Important Jazz Album of 1964/65 (1964年)
ベイビー・ブリーズ - Baby Breeze (1964年)
ベイカーズ・ホリデイ - Baker's Holiday (1965年)
Smokin' with the Chet Baker Quintet (1965年)
Groovin' with the Chet Baker Quintet (1965年)
Comin' On with the Chet Baker Quintet (1965年)
Cool Burnin' with the Chet Baker Quintet (1965年)
Boppin' with the Chet Baker Quintet (1965年)
Albert's House (1969年)
Blood, Chet and Tears (1970年)
枯葉 - She Was Too Good to Me (1974年)
You Can't Go Home Again / The Best Thing For You (1977年)
Broken Wing (1978年)
Someday My Prince Will Come (1979年)
Meets the Boto Brasilian Quartet (1980年)
Star Eyes (1983年)
Diane (1985年)
Candy (1985年)
Live from the Moonlight (1985年)
Cool Cat (1986年)
レッツ・ゲット・ロスト - Chet Baker Sings and Plays from the Film "Let's Get Lost" (1987年)
Memories / Chet Baker in Tokyo (1987年)
The Last Great Concert (1988年)
サイドマン作品(一部)
Inglewood Jam-Bird & Chet Live (1952年)
ジム・ホール の作品に参加, アランフェス協奏曲 - Concierto (CTI, 1975年)
評伝
脚注
参考文献
ジャズ批評編集部編 編『JAZZトランペット』松坂 〈ジャズ批評ブックス〉、2001年、30-31頁。ISBN 491555709X 。
ジェイムズ・キャビン『終わりなき闇 チェット・ベイカーのすべて』鈴木玲子訳 河出書房新社、2006年
Baker, Chet; Carol Baker. As Though I Had Wings: The Lost Memoir . St Martins Press, 1997.
De Valk, Jeroen. Chet Baker: His Life and Music . Berkeley Hills Books, 2000. ISBN 18-931-6313-X . Updated and expanded edition: Chet Baker: His Life and Music . Uitgeverij Aspekt, 2017. ISBN 9789461539786 .
Gavin, James. Deep in a Dream: The Long Night of Chet Baker . New York: Alfred A. Knopf, 2002.
Ruddick, Matthew. Funny Valentine: The Story of Chet Baker . Melrose Books, 2012.