グリオン-ロシェ・ド・ネー鉄道H2/3 1I-6形蒸気機関車(ぐりおん-ろしぇ・ど・ねーてつどうH2/3 1I-6がたじょうききかんしゃ)は、スイス西部の私鉄で、現在はモントルー-ヴヴェ-リヴィエラ交通(Transports Montreux-Vevey-Riviera (MVR))となっているグリオン-ロシェ・ド・ネー鉄道(Chemin de fer Glion-Rochers-de-Naye(GN))で使用されていた山岳鉄道用ラック式蒸気機関車である。なお、本形式はスイスの古い形式称号に則ったII/3 H形の1I-6号機として製造されたものであるが、その後の称号改正によりH2/3 1I-6形となったものである。
スイス西部レマン湖畔のモントルーから標高2042mのロシェ・ド・ネー山の山頂近くまで登る800mm軌間、ラック式の登山鉄道であるモント ルー-ヴヴェ-リヴィエラ交通の通称モントルー-テリテ-グリオン-ロシェ・ド・ネー線は、山頂側のグリオン - ロシェ・ド・ネー間がレマン湖畔のテリテからのケーブルカーに接続する形でグリオン-ロシェ・ド・ネー鉄道[1]によって1892年に開業し、モントルー - グリオン間はその後モントルー-グリオン鉄道[2]という別の鉄道会社によって1909年に開業しており、前者が蒸気機関車牽引の列車で、後者は直流850V電化で電気機関車牽引の列車により運行されていた。
本形式はグリオン-ロシェ・ド・ネー鉄道が開業に際してII/3 H形の1I-6号機として6機を導入したSLM[3]製のラック式蒸気機関車であり、その後の称号改正によりH2/3形の1I-6号機となっている。SLM社は当時の蒸気機関車メーカーとしては後発であったが、1873年に最初のラック式蒸気機関車をオーストリアのカーレンベルク鉄道[4]向けに製造して以降、ラック式の蒸気機関車の製造を得意として世界的に多くのシェアを占めるよう になっており、その後1970年頃の統計では世界のラック式蒸気機関車の33%が同社製となっている[5]。同様にスイス国内においてもラック式の蒸気機関車はその多くがSLMで製造されていたが、同社の小型登山鉄道用蒸気機関車はある程度シリーズ化されており、本形式もSLMのII/3 H形の第1シリーズの1機種として製造されている。このシリーズはラック式専用のもので、スイス南部のモンテ・ゼネロッソ鉄道のII/3 H形1-6号機として1890年に導入された機体をベースとして、スイスおよびフランスの計6鉄道に導入されているもので、これらの鉄道は220-250パーミルの上り片方向の勾配の路線であったため、II/3 H形の第1シリーズは最急勾配の約1/2である120パーミルの上り勾配でボイラーおよび運転室が水平となるよう前傾した構造となっているほか、1870年代以降路面機関車に採用されていたブラウン式弁装置を装備して機体を小型にまとめている。また、本シリーズはSLM製としては同年製のフィスプ・ツェルマット鉄道[6]のHG2/3 形とともに従来の機体では1軸のみの装備であったラック用ピニオンを初めて2軸装備したことも特徴となっている。なお、それぞれの機番とSLM製番、製造年、機体名は下記のとおりである。
SLM製のII/3 H形第1シリーズは、下表のとおり、モンテ・ゼネロッソ鉄道以降計6鉄道に導入されており、いずれもラック方式や連結器等の違いはあるものの基本的にはほぼ同一の機体となっているが、モン・ルヴァール鉄道の機体のみ軌間が1000mmとなっている。なお、一部の鉄道間においては廃車となった機体の譲受が行われており、現在でもブリエンツ・ロートホルン鉄道において一部の機体が稼働している。